うるぽろのショートショート4日目:本
本
2034年9月。
日野大和は、出版社のオフィスで呆然としていた。
政府が「本出版禁止令」を制定したのだ。
この法案により、今後紙の本は一切出版されず、過去に出版された本もすべてデジタル化することが義務付けられた。
理由は、資源の浪費を防ぎ、地球環境を保護するためだった。
緑豊かな未来のためだと説明されたが、大和にとってそれは耐え難い現実だった。
彼の家系は代々、本に携わる仕事をしてきた。
実家は古くから続く本屋「日野書店」として看板を掲げ、父亡き今は弟が店を引き継いでいた。
だが、この法案により廃業を余儀なくされた。
大和自身も、悔しさを胸に出版社を退職。
彼にとって紙の本は、ただの情報の媒体ではなく、歴史、情熱、そして家族の絆そのものだったのに…。
しかし、時代の波に逆らうことはできなかった。
地元に戻った大和は、幼馴染の咲子と再会し、やがて結婚することになった。
彼らは静かな田舎で家庭を築き、息子を授かった。
地球は少しずつ変わっていった。森林が再生され、自然が豊かになる。
その一方で、人々は「本」という概念を忘れていった。
100年という時が経ち、2134年。
日野遼という男が、新たな時代の表彰台に立っていた。
彼は表彰式の壇上で、論文を読み上げる。
「私は、デジタル情報を紙に印刷する『デジ刷り束』を提案します。」
名称こそ違えど、それは間違いなく「本」だった。
作品解説
世の中から「本」の概念が消えたらどうなるかな?を想像しながら書いてみました。
私の父がよく使っていたフロッピーディスク。私の子どもたちはフロッピーの存在を知りません。
私が20年くらい前に使っていたMOとかいう記録媒体ですらも、もはや「何それ?」って感じで過去の遺物になりました(笑)
記録媒体って、どんどん移り変わるんですよねー。
ですが結局、本は無くならないだろうというのが私の結論です。デジタル化も進んでいますし、出版業界は今は厳しいとは言われていますが…。
やっぱり本って、アナログな記録媒体の中でも形が変わらない特別なものだと思います。
もし本というものがなくなってしまったら、今度はデジタルからの逆輸入で「デジ刷り束」みたいな感じで復活するかも?と、皮肉っぽく表現してみました。
それにしても、語呂が悪すぎました(笑)
ちなみに…ラストに登壇していた日野遼は、大和の孫という設定です。
ここに気付いたら、エモくなるストーリーにしました。
イラストは、本を読んでいる読者をイメージして描きました。
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