うるぽろのショートショート1日目:時計
「時計」
チクタク、チクタク。
時計の針が、数字の6と12を指している。
秒針はせわしなく弧を描き続ける。
時計が6時30分を指した時、目覚まし時計のアラームが鳴った。
「はぁ…」
僕はいわゆる社畜だ。
世の中では働き方改革だなんだと騒がれているが、家族経営で成り立つ僕の会社では、未だに昭和のスタイルを貫いている。
激務続きで1日の半分を会社で過ごしているため、こうして家でゆっくりできるのも、今のうちってわけだ。
僕はため息をもうひとつついて、少しずつ体を起こす。
一階にある洗面所へ向かう途中で、妻の美代子と出会った。
「おはよう、みよちゃん」
「…」
僕の挨拶に、美代子はギョッとした表情を浮かべる。
どうも最近、妻の様子がおかしい。
僕を見るなり、それとなく別の部屋に逃げてみたり、こうして無視を決め込むのだ。
きっと、普段家を空けている僕のことが気に食わないんだろう。
僕はスーツ姿に着替え、左手の時計を見る。
時間はすでに9時を回っていた。
あぁ、仕事に間に合わないじゃないか…。途端に目の前がぐるぐると回りだす。
「お父さん、もうやめて!」
大声が家中に響き渡ったところで、男はフラフラと力なく倒れた。
私は壁掛け時計を見る。
「もう夜の9時だよ…」
82歳になったとはいえ、まだ60キロはあるだろう父を2階のベッドに運ぶのは容易ではない。
「仕方ない」
廊下の電気を付け、私は1階の押し入れから敷布団を出す。
今日は、お母さんの遺影がある仏間で寝てもらうね。
作品解説
テーマが時計ということで、時間の経過を意識してストーリーを考えてみました。
2つの「◯◯じゃなかった」を入れたくて頑張ってみたのですが、結構難しかったです(笑)
●1つ目の「◯◯じゃなかった」
社畜の男性を前半で20代〜30代くらいのサラリーマンのように書きましたが、実はおじいちゃんだったというオチを目指しました。
老人になった今でも昔の習慣にすがっている男性(父親)と、介護する娘の日常です。
ちなみに娘を奥さんと勘違いしています。
●2つ目の「◯◯じゃなかった」
朝の6時半だと思ったら夜の6時半だった。というオチを、午前午後の表示がない時計を使うことでギミックにしてみました。
ちなみに父親の腕時計はすでに止まっているので、いつ見ても9時過ぎという設定です。これももうちょっとなんとか出来そうでしたね(汗)
課題の残る作品となりましたが、こんな感じで今後もショートショート+イラストを投稿していこうと思います。
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