うるぽろのショートショート3日目:鍵
鍵
将史は、自宅マンションの玄関前で立ち尽くしていた。
ポケットやカバンを何度も確認したが、鍵が見つからないのだ。
焦りが募る中、隣人の美香がエレベーターから降りてきた。
「どうしたの?」と声をかけてきた彼女に、鍵をなくしてしまったことを説明すると、「私も一緒に探すわ」と申し出てくれた。
マンションの廊下や階段をくまなく探したが、結局見つからない。美香は優しく笑いながら、「うちに泊まればいいわよ。夜が明ければまた探せるから」と提案してくれた。
将史は少し迷ったが、この時間に鍵屋を呼ぶのも難しいだろうと思い、彼女の好意に甘えることにした。美香の部屋は落ち着いた雰囲気で、シンプルだが暖かみがあるインテリアが揃っていた。彼女は将史に布団を用意してくれ、「ゆっくり休んでね」と優しく微笑んだ。
夜中、将史はふと目が覚めた。妙に胸騒ぎがして、寝苦しさを感じたのだ。
周りを見回すと、薄暗い部屋の中で、美香の机の引き出しが少しだけ開いているのが目に入った。
なぜか気になり、そっと引き出しを開けてみると、中に見覚えのあるキーホルダーが見えた。
「これは…?」
驚きで心臓が跳ね上がった。それは、小学生の頃に無くしたロッカーの鍵に付けていたものだ。
当時、ロッカーの中に給食で出た大嫌いなチーズをこっそり入れたことがあった。
放置したままチーズは腐ってしまい、どうしようもなくなった将史は、自作自演でロッカーの鍵を「失くした」と言い訳したのだ。
「どうして、こんなところに…?」
将史は混乱し、頭がぐるぐると回るような感覚に襲われた。なぜこの鍵がここにあるのか。自分が失くしたはずのものが、隣人の女性の部屋にある理由が分からなかった。
その時、美香が静かに現れ、部屋の暗がりの中から微笑んでいた。「懐かしいでしょ?」と彼女は言う。
「昔も、あなたは鍵を失くして、私が助けてあげたじゃない。あの時は、ロッカーの中に何を隠していたんだっけ…?」
美香の言葉に、将史は息を飲んだ。小学校の頃、誰にも言わなかったはずの秘密。自らロッカーを閉ざしたあの出来事を、なぜ彼女が知っているのか。
「私、あの後引越しちゃったからかな?将史くん、やっぱり私のこと覚えてないんだね」
彼女は一歩、将史に近づいた。
「あの頃みたいにあなたのことを助けたくて。」
「え…それは、どういう…」
将史が動揺する。
「あなたの家の奥さん、腐っちゃったら仕方ないもんね。あの時と同じように、誰にも知られないようにしてあげる」
美香の声が、まるで遠くから響いてくるかのように感じられた。
作品解説
「給食のスライスチーズ」は私にとって嫌な思い出なので、今回のお話にはトラウマとして登場してもらいました。
ストーリーやオチはかなり気に入ってます!
うーん、今度は人がお亡くなりにならないお話も作ってみたいです(笑)
イラストは、読んだ後に意味が分かるようにしてみました。
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