後悔しないコンサートのつくり方(10)いよいよ本番日!【吹部向け】
これまでの記事は以下からどうぞ↓
(1) 演奏会の内容を考える
(2) 場所を決め、準備する
(3) 曲目と曲順を決める
(4) チラシ、チケット、宣伝
(5) 対外手続きをする
(6) 役割分担
(7) 当日配布の印刷物
(8) 当日必要なものを準備する
(9) リハーサル
(10) いよいよ本番日!
さあ、待ちに待った本番の日の朝。一番いけないのは不測の事態にあわててしまい、第2次、第3次のトラブルを誘発することです。大事なポイントや、起こりうるトラブルをだいたいの時系列順に並べてみました。
ホールの裏方さんにごあいさつ
ホールに足を踏み入れたら、まずは裏方の舞台さんや照明さん、音響さんに、本日いちにち、よろしくお願いしますのご挨拶を。一緒にコンサートを作り上げるために欠かすことのできない方々です。機材を運んだり、山台を組んだりする時は、「舞台裏のエキスパート」である裏方さんの指示に従いましょう。彼らはどうしたら安全に舞台をつくり、本番を遂行できるのかを熟知しています。
人がこない
団員やお手伝い要員が何らかの事情で会場に到着していない、という事態です。本人の責任にしろ交通等の事情にしろ、本人が一番焦っていると思うので、遅刻の連絡を受けた場合は落ち着いて来るよう伝えましょう。また、寝坊くらいならかわいいものですが、もしもいつまでも連絡が取れない時はそれ以外のトラブルに見舞われている可能性がなきにしもあらずです。連絡を続けつつ、万が一本番に間に合わなかった場合のことを考えておく必要があるでしょう。
(団員の)忘れ物
一番困るのは、忘れたことを忘れていたり、忘れたことを言い出せずに本番直前になってしまうこと。事態が判明したらすぐに周囲の人に相談しましょう。
取りに戻れる範囲ならすぐに戻らせましょう。もし忘れ物をした本人に重要な役割があってホールを離れられない場合、代わりの人員が取りに戻るということも可能です。
取りに戻っていては本番に間に合わないこともあると思います。会場近くの楽器店などで調達する、別の人から借りるなど、代替案はいくらでもあります。
挟み込み作業
プログラムに他団体のチラシやアンケート、えんぴつなどを挟み込み、すぐにお客様に渡せるようスタンバイする作業です。会議用の机を並べ、すべてのチラシを挟み込みの順番に並べて、1枚づつ取って重ねていきます。冊子に挟み込みする作業と、えんぴつ(ペグシルなど、クリップ付きのもの)を付ける作業は、チラシを重ねる作業者とは別にいたほうが効率がよいです。ちなみにこの挟み込みのやり方は関西方式と呼ばれます。
もしえんぴつを配布しない場合は、終演後のロビーにアンケート記入台を設置した際、数本の筆記用具を置いておくとベターです。
挟み込みはリハーサルの合間などに行うのが普通ですが、あまりたくさん人がいてもかえってもたつくので、手の空いている人で人数をしぼってやってしまうのがよいでしょう。なお、挟み込み後のプログラムは積み上げたとき斜めになりやすく山が崩れやすいので、完成したものは、配布場所であるホールの出入り口などに互い違いに積んで置いておくようにします。
差し入れ
本番の始まる前に激励に来てくださった関係者から「団員のみなさまに……」というような感じで差し入れをいただいたら、楽屋の誰でも通る廊下などに机を出して、取れるように置いておきましょう。差し入れコーナーはひとを元気にします。数的にきちんと全員に行き届くかはチェックが必要かも。
また、差し入れを置く際は、あとで差し入れをくださった方に会った時に団員が御礼を言えるように、誰からいただいたものなのかきちんとメモなどを添えるようにしましょう。
衣装のトラブル
万が一用意していた衣装が破れたなどのトラブルが発生した時のために、衣装係などが裁縫セットを用意しておくと良いです。できればすぐに補修のできる布用ボンドやあて布などがあるとなお◎。
衣装の忘れ物も、案外よく発生するものです。よくありがちなのは、本番用の靴、靴下、蝶ネクタイなど。取りに戻るより近くのコンビニなどで似たようなものを調達出来る場合もあります。ちなみにわたし自身の経験ではないですが、その昔、黒い靴下を忘れたからと油性ペンで足首を黒く塗りつぶした猛者がいたとかいないとか……
体調不良者
緊張する日ですから、急に腹痛や頭痛が起こったりする団員がいてもまったくおかしくありません。ホールのロビーなどにソファがあれば、常備薬を服用し、すこし横になって休むのも一手です。ひどい風邪など、休んでも体調が回復する見込みが薄い場合は、残念ですが演奏に参加しないという選択肢を勧めることも必要でしょう。
本番の準備中に怪我などの予期せぬトラブルに見舞われた場合は、ホールの職員にも確認し、救急車を呼びましょう。
楽器のトラブル
ホールで急に楽器から音が出なくなるとか、考えただけでもぞっとしますが、まずはできるだけ落ち着いて、ほんとうに楽器のトラブルなのか、よく確認するところから始めます。その結果楽器の修理や調整が必要だということになったら、ホールからできるだけ近くのリペア職人さんを探しましょう。いつもお願いしている楽器店に持ち込みたい気持ちはわかりますが、本番に間に合わなければ元も子もありません。
開場前打ち合わせ
開場する1時間前くらいになったら、すべての表方・裏方スタッフで集まって、お客様を入れはじめてからの段取りや進行の確認を行っておきましょう。人数がたくさんになると思うので、控室などよりもロビーで行うパターンが多いと思います。ホールの職員さんが同席する場合もあります。この時、必ず行ってもらいたいのが、火災や災害などの非常時の避難系統の確認です。あらかじめホール側から避難指示についての説明があると思いますが「どうせ起こらないだろう」などと思わず、非常時の動きをスタッフ全員で共有しておきましょう。
雨の日
ホールのどこに傘立てがあるのか、数はどのくらいあるのかを確認しておきましょう。もし来場者全員に行き渡らない場合は、傘袋を配布して客席に持ち込んでもらうということもできます。客席に持ち込む場合は、座席の下に寝かせるようにして置いてもらうよう、入場口で呼びかけをします。前の座席にひっかけたり、手元に持ったまま鑑賞すると、何かの拍子に倒して大きな音が出たり、しずくが飛んでトラブルの元になるからです。
ちなみに無料公演の場合、雨の日は来場者がある程度減ることを想定しておいたほうが良いでしょう。
開場
リハーサルが無事終了し、セッティングが整い、客席に置いていた荷物などの撤去をし、お客様を客席に迎え入れる準備が整ったら、表方と連絡をとっていよいよ開場です。もしもリハーサルの時間が延びて、時間通りに開場することが難しいとなった場合、客席に通じるドアを閉めたままロビーのみを開放して、お客様にいったんホール内に入ってもらうという「ロビー開場」を行うこともできます。メリットは、立って待たせているお客様にロビーで座ってもらえること、お手洗い等のホール内設備を利用してもらえることなどがあります。
開場前にお客様がホールの前にたくさん集まってしまった場合は、待機列をつくってもらうためのプラカードや案内掲示、案内係を前もってホールの外においておく必要があります。自由席のコンサートの場合は、良い席を求めて開場時間より前からホール前で待つお客様が出るので、特に気をつけた方がよいでしょう。
交通状況
たいていのコンサートでは、お客様は基本的に電車などの交通機関で来場しますが、人身事故や天候の状態によって遅延や運休が発生してしまった場合、開演時間までに会場にたどり着けないお客様が出ることが予想されます。すこしの遅延ならそのまま進行しますが、万一かなりの影響のでる大きな遅れが出てしまった場合、開演時間をすこし遅らせて、間に合わないお客様を少しでも救済する措置が取られることがあります。現場の責任者(ステージマネージャーなど)とよく相談の上で決めましょう。
影アナウンス
司会とは異なり、顔を見せずに声のみで案内をすることを影アナウンス、縮めて「影アナ」などと呼びます。開演の前には、来場の御礼、携帯電話の電源オフの案内や、非常時の避難についての案内を、休憩に入るタイミングでは、休憩時間が何分かをアナウンスで客席にお知らせします。ホールによってはアナウンスの原稿テンプレートを用意してくれているところもありますので、聞いてみるとよいでしょう。
基本的にはスタッフの誰かがこの役割を担当します。ただ、休憩の入りや終わりに忙しいスタッフに兼任させることはできませんので、人選には注意。
チケットのトラブル
出演者が受付にチケットを「取り置き」にして当日渡してもらうシステムは、とても便利なものですが、いくつか注意するべき点があります。
チケットを受付に預ける際は、渡す相手ごとに封筒などに入れて自分とお渡し先の名前を書きます。お客様が自分の名前を言ってきても、預けた出演者の名前を言ってきても、すぐにわかるようにするためです。できればふりがなも書きましょう。
そして、お客様が受付に来た時に
①お金をその場で精算してもらうのか(未精算)
②お金はすでにもらっているのでチケットだけ渡してほしいか(精算済)
どちらなのかを鉛筆などで封筒の裏に書き、受付スタッフがわかるようにしておきます。これは意外と重要です。出演者側として招待のつもりで置きチケにした(団員があとでチケット代を支払う)のに、きちんと受付スタッフに伝わっていないためにお客様からお代をいただいてしまった…のようなトラブルを防ぐことになります。
開場〜開演までの受付スタッフはかなりの忙しさです。少しでもミスを少なくし、お客様を受付でお待たせすることなくチケットの受け渡しをするためには、こうした少しの気配りを徹底することが肝心なのです。
開演
遅れてくるお客様は、曲と曲の間でスムーズに着席してもらうよう、誘導員を決めておけるとよいのですが、スタッフの人手が足りない場合、なかなかすべてのお客様に対応することは難しいでしょう。
対策としては、以下のようなことが考えられます。
①遅れ客の入場可能なドアを1つか2つにしぼり、そこにスタッフを配置する
②ドア付近の入りやすい席をあらかじめ張り紙などして空けておき、そこにお客さんをすみやかに座らせる
③司会者と連携し、1曲目と2曲目の間のトークを長めにとることで、お客さんが席を探してうろうろしてしまってもOKな間を確保する
これらの対策は無料コンサートの場合です。指定席の場合、客席に入る前に前もって自分の席がどこなのか、座席表などでよく確認しておいていただくようにしましょう。
終演後
終演時は入場時よりもお客様が一気にロビーに殺到します。ご案内係を何人かおいて、混雑の解消につとめましょう。
アンケートをプログラムに挟み込んでいた場合は、アンケート回収箱を何箇所か設置します。記入のための長机を出せるとよりGood。
関係者や招待者が楽屋へ挨拶に来たい、と申し出てくる場合があります。問題ない相手なら裏の導線を使って目的の相手に引き合わせますが、あまりたくさんのお客さんが楽屋に詰めかけると、撤収の妨げにもなりますし、場合によってはホールの利用時間を超過するおそれも。嬉しい瞬間ではありますが、そこそこに切り上げてもらえるよう、出演者には前もって周知しておきましょう。あ、ホール代の後払い分の精算なども、忘れずに。
……だいたいこんなところでしょうか。思い出したら項目が増えるかも。トラブルは起きるもの、と思っていれば、いざ何か起きたときにも冷静に対処ができるはずです。
あれこれうるさく書いてきましたが、自分たちの演奏会を計画する前に(最中でも)見返してもらって、運営のたすけになれば幸いです。みなさんの本番が成功裏に終了しますように!
◆参考文献◆
バンド指導のQ&A100(東亜出版社 編)
クラシック・コンサート制作の基礎知識(日本クラシック音楽事業協会)
吹奏楽における意識改革と一般バンドの運営方法について(越川博) 他