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河川計画論入門その1 河川計画と土木計画学


はじめに

本記事では、河川計画に関する基礎的な内容をまとめた後、河川計画、河川工学と土木計画学との関わりについて解説します。さらに、応用例として氾濫時の交通問題の研究を紹介します。

1. 河川整備の基本的な枠組み

1.1 河川法と河川整備の二段階アプローチ

河川の管理に関する基本法である河川法は、1997年に大幅な改正が行われ、「河川環境の整備と保全」が目的に追加されました。この改正により、河川整備は二段階で行われるようになりました。まず、長期的な目標を示す「河川整備基本方針」(fundamental policy for management of river)が策定され、これに基づいて当面の実施目標を示す「河川整備計画」(river infrastructure development project)が立てられます。

1.2 河川整備基本方針の特徴

河川整備基本方針は水系ごとに策定され、自然環境の保全や河川空間の利用を考慮し、健全な水循環系の構築を目指します。また、個性ある川づくりを推進することも重要な特徴です。策定には客観性と公平性が求められるため、一級河川では国土交通大臣が社会資本整備審議会の意見を聞いて定め、二級河川では都道府県河川審議会(設置している場合)の意見を聞くことが義務付けられています。

1.3 河川整備計画の特徴

河川整備計画は、河川整備基本方針に沿った具体的な計画です。策定プロセスでは、まず河川に関する学識経験者の意見を聴取し、次に地方公共団体の長や地域住民の意見を聞きます。最後に計画を公表します。この過程で重要な課題となるのが、多様な住民意見をいかに公平に集約するかという点です。

2. 治水計画の基本概念

2.1 計画安全度

計画安全度は、防御の対象とする洪水の規模を定めるものです。この決定には、河川の規模、氾濫区域の重要度、既往洪水による被害の実態、経済効果などが考慮されます。一般的に、大河川では1/100〜1/200、中小河川(都市部)では1/50〜1/100、その他の河川では1/10〜1/50の年超過確率が採用されています。計画安全度の評価には主に降雨確率が用いられますが、流量確率による方法もあります。

2.2 基本高水

基本高水は、河川の洪水防御計画の対象となる洪水を指し、流量ハイドログラフ(流量–時間曲線)で表現されます。降雨確率手法で設定する場合、過去の流域内降雨資料の整理・検討から始まり、統計解析を経て計画安全度に対応する計画降雨を設定します。その後、流出解析によりハイドログラフ群を作成し、カバー率の検討を行って最終的な基本高水を決定します。

2.3 計画高水流量

計画高水流量は、河道計画策定のための流量であり、基本高水を洪水貯留施設などで調節した後の河道流量として定義されます。この流量は、単に貯留施設直下での調節効果を下流に適用するのではなく、洪水調節後の各地点での流量として詳細に評価されます。

3. 河川災害の予測とハザードマップ

3.1 数値シミュレーションの活用

河川災害の予測には、数値シミュレーションが広く活用されています。適切な手法の選択には、対象事象、地形条件、必要な計算時間、要求される結果の解像度などが考慮されます。

3.2 予測プロセス

予測プロセスは通常、降雨を外力とした河川洪水の流量・水位予測から始まり、越流・破堤による氾濫予測へと進みます。特に都市域では、流出解析、河道の洪水解析、氾濫解析、下水道解析を組み込んだ統合型モデルが用いられ、必要に応じて地下空間の浸水解析も行われます。

3.3 洪水ハザードマップ

洪水ハザードマップは、計画降雨発生時の堤防破堤による浸水予想を基本情報としています。これには浸水予想区域、最大浸水深、浸水実績、避難所、情報伝達経路が記載され、一部のマップでは避難路・避難方向や避難に関する注意事項も含まれます。近年、大都市部では内水氾濫のハザードマップも作成されるようになっています。

4. 河川計画と土木計画学の連携

4.1 重要性

都市河川流域における水害対策と健全な水循環系構築のためには、河川計画と土木計画学の連携が不可欠です。河川整備とまちづくり政策を融合させることで、より効果的な対策が可能となります。

4.2 連携が必要な分野

水害リスク低減のためのソフト対策、特に避難システムの構築や土地利用規制において、両分野の知見が重要です。また、将来の都市構造を考慮した土地利用分析や、洪水氾濫時の交通障害対策においても、河川工学と土木計画学の協働が求められます。

4.3 土木計画学の役割

土木計画学は、避難行動の分析や避難所・避難経路の最適配置、将来都市構造の予測と分析、交通ネットワークの脆弱性評価と対策立案など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たします。これらの知見は、より効果的な河川計画の策定に大きく貢献します。

おわりに

河川計画と土木計画学は、安全で持続可能な都市・地域づくりのために不可欠な分野です。両者の連携により、より効果的な水害対策や健全な水循環系の構築が可能となります。今後も、この二つの分野の融合による新たな知見や技術の発展が期待されます。

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