どんな白黒写真が正しい白黒写真でしょうか? 白黒写真の作家紹介①
今日お話ししたいのは、正しい白黒写真についてです。
白黒フィルムを使って写真を撮る人、自分で白黒フィルムの現像、暗室で引き伸ばし機を使って印画紙へのプリントを経験したことのある人にとっては、馴染みのある話題かも知れません。
しかし、最近写真を趣味で始めた方や、デジタルカメラを主に使用している人にとっては分かりづらい部分があるのではないかと思います。
いつかどなたかが「どんな白黒写真を目指そうか?」と考える時に参考になったらいいな、と思い、書いてみることにしました。
まず冒頭で、「正しい白黒写真」という言い方をしましたが、僕は本質的には正しくない白黒写真は存在しないと考えています。
軟調だろうが、硬調だろうが、粒子がアレてたり、ブレてたり、ボケてたり、シャドーが潰れたり、ハイライトが真っ白だったとしても、自分さえ納得すれば良いとは思います。
この手の話題で「絶対にこうだ!」としてしまうと、新たな表現が産まれなくなってしまうことが憂慮されるので、僕はあえて断言したくありません。
しかし写真が誕生して200年余り、カラー写真が世に出始めて、デジタルカメラが主流に移行してもなお、白黒で写真を制作する人は多くいらっしゃいますね。
そして、その歴史の中で多くの人が「こういう白黒写真が美しいよね!」と評価されてきたメインストリームの白黒の調子というものが存在します。
繰り返しになりますが、写真の本質的には、正解の白黒写真は存在しません。
が、その事実と並行して、過去に多く評価され、“正しい”と言われてきた白黒写真が存在することもまた事実だと思います。
こういった状況が、写真に慣れていない人からしたら、じゃあ何をお手本(指標)とすればいいの?と悩まれる方がいらっしゃる原因なのかも知れませんね。
これはもう過去に評価された写真家の作品を見てもらう他に説明がし難いんですが、ざっくり説明すると、印画紙または写真上の最大のハイライト(一番白い部分)が印画紙上の白(白い縁の部分)より少し濃い、グレー寄りの白で、シャドー(非常に濃いグレー)の中にも階調や質感があり、そして立体感が損なわれていない写真。
と言ったところでしょうか。
世の中にはもっと上手な表現があるとは思いますが、気になる方は探してみてください。
まずは、白黒写真の巨匠で風景写真家のアダムスおじさんの話は外せないでしょう。
アンセル・アダムス Ansel Easton Adams II
1902年2月20日 - 1984年4月22日
アメリカのヨセミテ渓谷を大判カメラで撮影したことで有名で、
アメリカの写真家の巨匠です。
また、「アンセル・アダムスの写真術」の著者であり、日本語翻訳版は1994年に上梓されています。
アダムスおじさんはこの著書の中でゾーンシステムという写真技法を提唱し、多くの写真家に影響を与えたと言えます。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20110930/285738/ より引用。
写真:Peter Essick
2011年10月号「ある写真家が愛した風景」より
アダムスおじさんを語る上で外せないのが、ゾーンシステムという白黒写真における方法論なのですが、
こちらのサイトで詳しい説明を読むことができますので、読んでみてください。
その他にも白黒フィルムの扱い方など詳しく丁寧に書かれておりますので非常におすすめです。※白黒フィルムをちゃんと使用したい人にとっては読んでおいて損は無いです。
ロバート・アダムス Robert Adams
1937年5月8日- (現在84歳)
こちらもアダムスさんで、アメリカ人写真家の巨匠ですが、アンセル・アダムスよりも後、1960年頃から活躍し、現役です。
写真史の中の位置付けとしては、ニューカラー以前、ルイス・ボルツ等と並ぶニュー・トポグラフィックスの写真家となるのでしょう。
ロバート・アダムスさんのプリントも非常に美しく、まさに王道。
大判カメラや中判カメラなどの大きめなフォーマットでアメリカの郊外の写真を客観的に撮影しています。
非常に柔らかく繊細なトーンの白黒写真で表現していて、とても美しく個人的に非常に好きです。
©︎Robert Adams
Location: USA
Collection: Yale University Art Gallery
https://www.atlasofplaces.com/photography/the-place-we-live/ より引用。
こちらのWebサイトから多くの作品を見ることができます。
Robert Adams(http://media.artgallery.yale.edu/adams/landing.php)
続いて、ちょっと変わり種と言うか、ファッション業界の重鎮で非常に美しい白黒写真を作る目を持ったデザイナーがいるのでご紹介。
エディ・スリマン HEDI SLIMANE
1968年7月5日- (現在52歳)
フランス出身のファッションデザイナーで、「イヴ・サン=ローラン」・「ディオール・オム」などの有名ブランドのデザイナーとして活躍されてきました。
エディのキャリアをこんなにさらっと語っていいものか自信がないのですが、彼のデザインは「少年性」と「ロック」をテーマに、黒を貴重としたスキニーなスタイルものデザインが多いですね。
写真家として有名になったのは最近のことで、広告写真なども手がけていますが、その写真は主に白黒写真で、何より彼の作る白黒写真には定評があります。
僕自身も彼のファンなんですが、服のデザインよりも白黒写真の素晴らしさを推しています。
写真集を見る限り多分最初はフィルムで撮っていて、それからデジタル中判カメラを使用しているのでは無いかな?とは思うのですが、詳しく調べていないので使用しているカメラについてはよくわかりません。
が、写真の解像度と被写界深度を意識して見る限りでは中判フォーマットなのではないかな?と思います。望遠レンズを使用し、被写体を精細に切り取り、時にはストロボを使用します。
ティーンエイジャーやロックバンドのアーティストを撮影することが多いようです。
Photo by HEDISLIMANE IN SAINT-TROPEZ IN NOVEMBER 2019
https://www.fashion-headline.com/article/33761/7 より引用。
デザイナーなのに、白黒写真を見る目が卓越している印象があります、王道の正しく美しい白黒写真と言えるでしょう。
彼の写真は、
HEDI SLIMANE DIARY(https://www.hedislimane.com/diary/)
というWebサイトで高頻度で更新されていますので要チェックです!
広告写真の世界では商品の情報を正しく伝える必要があるのでどうしてもカラー写真が使われがちですが、とりわけファッション写真においては白黒写真のようなストーリーなどのイメージを先行した作品が多く残されています。
白黒写真というと、芸術作品に使用される伝統的な技法というイメージが強いと思いますが、(まぁ実際そうなんですけど)商業ベースの写真作品において非常にクオリティーの高い美しい写真がありますので、お勧めです。
他にも、1982年カルバン・クラインの下着ラインの広告写真に、当時はまだは一般的ではなかった男性のヌードを使用したブルース・ウェーバー(Bruce Weber, 1946年3月29日 - )というアメリカ人写真家の白黒写真も、中判カメラに白黒フィルムを入れて撮影されており素晴らしいのですが、長くなるので割愛します。笑(一部 Wiki参照)
ざっとここまでは王道の美しい白黒写真なので、写真を方で白黒写真で目指すべきところがどこか分からない方がいらっしゃいましたら、参考にしてみると良いと思います。
何故そうする必要があるかと言えば、ざっくり言うと被写体の立体感を出したり、画面上の印象をコントロールする目的があります。
繰り返しになりますが、正解はありませんので、ビビッときた作家の作風を模倣するところから始まっても全然良いと思います。
今回はいわゆる王道の美しい白黒写真の紹介でした。
次回、「どんな白黒写真が正しい白黒写真でしょうか? 白黒写真の作家紹介②」では少し異なる雰囲気の白黒写真をご紹介したいと思います。
内容は、古典技法と白黒写真(アジェとか?)についてお話しできればと考えています。
ご興味がありましたらまたどうぞ読んでみてください。
お付き合いありがとうございました。
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