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過去の記憶 森に住む①


そこは石畳が続くちょっと活気のある町並み。
私は一生懸命弟を探しています。
今日は弟を親戚の住む町まで連れてきていたのです。
訳あって一緒に住むことに危険を感じ
親戚を頼って預かってもらおうと思っていたのですが
いち早くそれに気付いた弟は着くなり何処かへ姿を眩ませたのでした。
もしも追手が来ていたら・・
まだ小さいのに迷子になっていたら・・
可愛いから誰かに連れて行かれていたら・・
気がきではなく名前を呼びながら
必死で探すこと数時間
物陰からこちらを伺う弟の姿を発見し
ホッと胸を撫で下ろしました。

「もう他所に連れていかない?」
泣きそうな声で訴える弟に誰が逆らえるでしょうか。
「ごめんね。これからも一緒に暮らそう」
でも今までの家では直ぐに見つかってしまう。

密かにそっと夜の町を出てそのまま
森の奥深くへと向かいました。

こうして血の繋がらない弟とふたり、
家を離れて森で暮らすようになりました。

実家は貴族の称号をもつ父が、
これまた
位の高いやんごとなきお方の側近で
弟はその方の御落胤だと知っているのは
関係者の中では父と私のみのはず。
しかしいつ何処から漏れるかはわからず
望まぬ争いに巻き込まれるのを避けるため
命をかけて守る決心で家を出たのでした。

家を出て森で暮らすのは相当大変でしたが
それ以上にしがらみのない生活は楽しく
今まで植物のことを勉強していた私は
生活しながら
薬草を摘んだり、また動物達に
教えられた処方で
お薬のようなものをつくったりして生計を立て
細々と暮らしていました。
動物達との会話は
人よりも裏表がなく、心を開いてくれると
とてもよい教師のように
いろんなことを教えてくれます。
傷によい植物、お腹を壊すもの
熱を冷ますもの、美味しいもの
そうでないもの
そしてそれぞれの生活の知恵を。

ゆっくりとそして確実に時間は流れ
幼子だった弟は見目麗しい青年へと
成長していきました。


続く


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