大学全入時代と高等教育の将来像(2/3)
「大学設置基準」の改編の流れ
「グランドデザイン」と、その実現に向けた政策集「教育未来創造会議第一次提言」、更には昨年公表された「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について」(以下「質保証システムの改善・充実」と略記)にしても、将来社会を展望した上で、現状の高等教育が抱えている諸課題、諸矛盾に対する「解」を一定程度提示している。
かつて、新制大学の創設・改組に向けて緊急避難的に定められた「大学基準」(1947年)並びに「大学設置基準」(1956年)による標準的で無個性の大学制度の整備、一転してそのような大学の在り方を否定した1991年の「設置基準の大綱化」(大学の設置、運営等の結果責任=「自己点検・評価制度」の導入)さらには「グランドデザイン」の原型ともいうべき「我が国の高等教育の将来像答申」(2005年)に至る過程は、1億総中流社会が求める人財の供給源としての高等教育に対する政策の変遷を見事なまでに表している。
1956年の「大学設置基準」の制定は、戦後復興と高度成長社会が求める人財の社会への輩出を可能にし、旧7帝大を頂点とする「駅弁大学」の設置と私立の旧制専門学校の私立大学への改組により、エリート官僚から企業が求める中間管理職の分厚い人財を終身雇用制度の枠組みのなかで増殖してきた。
ところが、1991年の「設置基準の大綱化」は、大学進学者の「マス化」から「ユニバーサル化」への転換期に、教養課程(リベラルアーツ教育)を戦前型教育の悪しき残滓と言わんばかりに排斥し、大学の「実学教育機関」「資格教育機関」(いわば大学の専門学校化)への邁進を、意図せず招くこととなった。
各大学は、すでに18歳人口の低減を、受験者の動向によって予測していたにもかかわらず、進学率の上昇に乗じ、入学試験の多様化、ネット出願の導入、学部・学科の新設等を通じて、ひたすら見かけの受験者数の増加を謳歌することにより、受験者層の囲い込みに狂奔した。まるで五右衛門風呂の茹でカエルのように、国公私立を問わずほとんどすべての大学は、「今そこにある危機」から目を背け続けている。
「質保証システム改善・充実」について
そして、「グランドデザイン」の突然の登場である。これは、2040年という長期的視点に立って、高等教育の社会的役割を根底から問い直し、その将来ビジョンを策定するという、前例のない作業に文科省が取り組んだ、という点だけを取り上げても画期的なことである。
その核心は「質保証システムの改善・充実について」にまとめられているので、以下に要点を整理する。
■ <審議の背景>
「大学設置基準」「大学設置基準審査」「認証評価」「情報公表」という我が国の公的な質保証システムは、一定程度機能してきた。
しかしながら、3つのポリシーに基づく教育の実質化を進める必要があるという指摘や、グローバル化やデジタル技術の進展に対応する必要があるという指摘、新型コロナを契機とした遠隔教育の普及・進展を踏まえた対応を行う必要がある。
そのため、国際通用性のある「教育研究の質」を保証するため、
①最低限の水準を厳格に担保しつつ、
②大学教育の多様性・先導性を向上させる方向で改善・充実を図っていくことが求められる。
■ <大学設置基準・設置審査の改善・充実の方向性>
【学修者本位の大学教育の実現】
学位プログラムの3つのポリシーに基づく編成
学位プログラムを基礎とした内部質保証の取り組み
内部質保証による教育研究活動の不断の見直し
【客観性の確保】
教職の一体化
「専任教員」を「基幹教員」に名称変更
「図書」「雑誌」等の電子化、ITを踏まえた図書館に関する規定の再整理
教育を補助する人財に関して、設置基準に明示化
実務家教員の定義の明確化
【先導性・先進性の確保(柔軟性の確保)】
「講義・演習・実習・実験」の時間の大括り化など、単位運用制度の柔軟化
内部質保証等の体制が機能していることを前提とした教育課程の特例制度の新設(遠隔授業による修得単位上限(60単位)、単位互換上限(60単位))
校舎等施設は、機能に着目した一般的規定として見直し
スポーツ施設等を各大学の必要性に応じて整備するよう見直し
要するところ、各大学が定める「学位プログラム」がどのように運用され、学修者にどのようなものを「学び」の果実として与えるべきか、いまさらの感がぬぐえないが、改めてここで求められているのである。大学は、教育機関であるとともに研究機関である以上、ここで掲げられている「国際通用性」は、研究者である教員にも等しく求められるものである。
「大学全入時代と高等教育の将来像」は、2022年10月に開催されたシンポジウム『危機の時代の大学経営2022 ~少子化時代の大学経営と入試広報の現在』の内容を網羅した報告書から抜粋したものです。
(3回に分けてnoteに掲載します)