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バナナチップス万博
バナナチップスに心酔していた。
4歳。近所のスーパー。
バナナチップス。(記憶のなかでは)一時期大ブームになったせいで売り場が拡大していた。入り口入ってすぐ左の壁際にラックがあった。たまに場所が変わる。
バナナチップス万博。
販促の楽しげなうたが流れてくる。
どこかも知らない外国のやつ、かたさ、量、さまざまだった。その売り場の前に立ってバナナチップスに想いを馳せる。
生のバナナは熟したにおいに肺を乗っ取られてしまうので苦手だったけど、カリカリしたバナナはただカリカリしているだけなので平気だった。
嫌いだけど嫌いじゃない、みたいな相反する気持ちを解消させるために売り場を眺めていた。
バナナチップスはパッケージが可愛かった。大抵、黄色と緑の組み合わせだ。売り場に統一感があってインパクトがあった。バナナチップス売り場は身長よりも大きくて、外国のお土産屋さんってこんな感じなのかなと想像した。
もしこの大きな袋を買ってもらえたら、毎日楽しいんだろうな、と思った。バナナチップスのうたを脳内に響かせながら。
バナナチップスの他にも、気になっていた食べ物がある。チーズかつお。700円とかするおつまみだった。パサついた醤油味のかつおの上に厚みのあるチーズが貼りついている。高級品なのは知ってたし、昔一個もらって食べたときの味が忘れられなくて、気になっていた。
似たような味だったというのでかつおキューブも気になっていた。チーズが乗っていない。それだけで格が違った。
スーパーに来たときのルーティン。
入ってすぐのバナナチップスを眺める。
親の姿を追って野菜コーナーを抜け、まっすぐ練りものコーナーへ向かう。
その先に鮮魚コーナーがある。
鮮魚コーナーの中州に銀のカートが置いてある。
チーズかつおが入っている。
まずそれを探す。そして眺める。値段を見る。700円もする。お菓子と同じテンションで買ってとは言いにくい。
誕生日プレゼントなどと理由をつけて買ってもらうにはもっとなんかあるだろと思って結局こちらから買ってとは言えなかった。
熱で圧着され真空になった個包装パッケージを、ミリミリ開ける妄想をする。チーズかつおのチーズの味を想像する。パサついたかつおとチーズのハーモニーをイメージする。
チーズかつおの下位互換であるところのかつおキューブを探す。銀バージョンと黄バージョンのアルミの包装紙で包まれたちいさな立方体がまぜこぜになっている。色によって味が違ったりするんだろうか。 (同じ味だった。)これは300円くらいだった。もっと少ないのが100円ちょっとであった気がする。
それを存分に眺めたらお菓子売り場へ行く。
親には「ここにいてね。あっちにいるね。」と言われ、放置される。
買ってもらえるかわからないけど、もし買ってもらえるなら、と念入りに隅から隅まで眺める。
親にはここにいてね、と言われているので、二列あるお菓子売り場から離れられない。
おそるおそる足を伸ばしても、二列目真裏のコーンフレークとアイスケースの間の通路までしか行けなかった。ただ、子供一人でいるのは万引きの疑いを持たれるのでは?と怯えた。はやく戻ってきて欲しかった。
別の大人が来たら不審がられないように、手を後ろで組んだ。盗りませんよアピールをする。バナナチップスはここにはない。
ヨーグルト味のチェルシーか森永ミルクキャラメルを手に取り、親を待つ。あんまり長く品物を持ってても不審に思われそうですぐに棚に戻す。
その間に心変わりしてラムネとかボンタンアメもいいなと思ってしまう。ねるねるねるねはやめておく。なんとなくねだりにくい。
そんなことを考えて時間をつぶすがまったく親は戻ってこない。忘れて帰ったのかなと心配になる(なぜか祖父母に病院に忘れ去られたことがある)。
きっと魚売り場にいるはずだから、ちょっとくらい持ち場を離れて探しに行ってもいいだろうと思って行くがそこにはいなかった。大抵すれちがいになる。
最終的には親の顔を伺いながら、それらしいお菓子を手に取る。
たとえ明日またスーパーに来てもバナナチップスを眺め、チーズかつおを想う。お菓子に悩んで親を待つ。
ひたすら同じことを繰り返しているうちにそのまま大きくなってしまった。
おつまみ売り場にあいつを探してしまう。
しかしなかなか遭遇しない。
バナナチップスはドライフルーツ売り場の片隅に一種類あるだけだった。
バナナチップス万博。あれは夢だったのか。