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【寝前小説】クリーム増量ケーキ

※虫が嫌いな方はお気をつけください☺️


毎日同じ時間に起きて支度をし、出社する
入社してすぐは大変だった
慣れない仕事は失敗続きでそれでも懸命に仕事をこなして仕事見つけて仕事をこなして
周りに迷惑をかけて苦々しく毛虫でも噛み締めるように謝って褒められて
体調を崩してもがんばって出社して電車でかわいい子を見つけて他人の目を気にして
その忙しさは今思うと幸せだった

軌道に乗ってしまった
そこから僕は僕を強く確立した
と同時に人生も時間も圧縮された
今日の出社を思い出すと昨日の電車と見分けがつかなくて
昨日の退社を思い出すと先月の退社と被って

どうやら思い出の中で僕は迷子らしい
思い出せる思い出を必死に目指してふらふらと彷徨うその様は蛾を思い出す
いつかの旅行で見上げた蛾だ
消えかかりながらその灯りにすがるように何度も体当たりしていた
注視していた訳じゃない
おそらく灯りを見上げたのは一瞬だろう
だが、思い出の僕は5分でも10分でも蛾を見ていた

明かりが見えた
コンビニの明かりだ
暗闇に消えかかりそうな身体を照らすためコンビニに立ち寄ってみる

期間限定の生クリーム増量中と書かれたケーキがある
そうだ 僕は甘党なのだ
そんなことも僕は思い出せなくなってしまっていたようだ
また蛾が明滅する


おいしかった
久々に食べた純粋な甘みは僕の身体に染み渡るようだった
幸せだった
けど僕にはもうその幸せを食べ切る力はないようだ
年老いた身体は生クリームの重さを受け付けなかった
まだ半分も食べていないというのに


一匹の蛾が飛び出した
キラキラと鱗粉を撒きながら生クリームに留まる
口に運ぶ
蛾は溶けるように消える

苦みはなかった

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