枕草子・平安マウンティング絵巻

なんて事をタイトルでは謳っていますが、実はマウンティングは枕草子にはかかっていませんので悪しからずご承知おきください。

近年よく目にするようになったマウンティングという言葉。
元は集団で行動する野生動物が、群れの中での序列を確認するための行為だそうです。
これについて私が提唱したいのは、マウントを取られる人程実はマウントを取りたい人説。
同じ事を言われても、それをマウンティングと思うかどうかは人それぞれだと思うので。

例えば、ドラマにもなった「凪のお暇」という漫画。
冒頭、ヒロインの凪は同僚たちとランチに行きますが、彼女はそこでの会話を「マウンティング合戦」と認識している。
でもその場面、同僚たちの台詞を追っても、私には別にマウンティングとは思えないのです。
入社して数年経って大分仕事にも慣れて来て、さあこの先どうする?というキャリアプランを口々に語っているだけのような。
でも凪は「私も早くマウンティングのカードを切らなきゃ」なんて焦ってます。凪の彼氏は優秀な営業社員=結婚相手としてはマウンティングの強力なカードになると思っているのに、二人の交際は秘密なので、口に出せなくて悶々としているという。
いや、一番マウンティングしたがってるのはあなたでは?と思いました(それも他人の褌で)。
このヒロイン性格悪いなと思ったので、このマンガはその先を読んでません。

横道が長くなりましたが、本題の枕草子です。

枕草子 酒井順子 (翻訳)

中学生の時に読んだ橋本治版以来ですね。

桃尻語訳 枕草子  橋本治

大河ドラマ「光る君へ」見てるおかげで大分情報量が増えた事もあり、当時よくわからなかった所もようやくちょっとわかるようになり。

読んでてすごく印象に残ったのは、清少納言はもちろんのこと、中宮定子様の知性と教養すごいよねっていう事でした。
かの有名な「香炉峰の雪」エピソードだって、定子様のネタフリがあったから生まれた訳ですし。

休職中の清少納言に人を遣り、渡したものは山吹の花びら一枚。それを包んだ紙に古い歌の一節を書いて「口には出さないけど思っていますよ」と暗に伝えたりするのです。
こんなステキなメッセージ貰ったらそりゃもうウキウキで職場復帰するよね。
それでいざ出てったら「あなたがいないとつまらなくって」なんて言われるんだから、「生涯全力でお仕えします!」って気持ちにもなろうってもんです。

立場や身分の違いはあれど、知性や教養は対等で、共通の言語や知識を駆使して高度なやり取りが出来る。それが楽しくて嬉しいんですっていう気持ちが溢れてるなと思いました。

同様に定子様の方も、他の女房たちにはついて来れないような教養を要する話でも、清少納言ならわかってくれるから話してて楽しかっただろうし、同じく教養のある一条帝や他の男性貴族たちとも楽しく盛り上がっていたんだろうなと。
(そうなると一条帝が中々彰子の所へ行かなかったのも、そもそも話が合わなかったのが大きいんじゃないかという気がしてきます。他にも事情はあったにしても)

枕草子が書かれた背景には諸説あるけど、一番にあるのは楽しかった記憶を留めておきたかった気持ちなんじゃないかというのが、私の読んだ感想でした。

今風に言う所の「自分軸」ですよね清少納言。時々出てくる「こんな私も他人から見ると変かしら」みたいなセルフツッコミも、「だけどそんなの気にしないもんね!」が省略されてるような気がしますし。
他人からどう思われようと、私はこれが好きでこれが嫌い。それが「枕草子」を貫く基本姿勢であり、そこに他人と自分を比較して序列を付けるマウンティングの感覚が入る余地はないように見えます。

けれど、序列を気にする「他人軸」な人はそうは受け取らないのかも知れません。
日々周囲の人との序列を気にし、自分がどの辺りの位置に付けられるかに心を砕き、誰かが下剋上でも狙おうもんなら全力でマウント取って「思い知らせ」ずにはいられない。
そんな人が「枕草子」を読んで思いそうなことと言えば。
「ちょっと漢文わかるからって、ひけらかしちゃって、何さ!」
マウントを取るのが好きな人ほど、マウント取られることに神経質になりがちになるものなのではないでしょうか。

「清少納言って、なんか自慢してるけど、あんなの全然大したことないもんね!(私は奥ゆかしくて弁えてるから自慢しないだけなの!)」
「紫式部日記」の例のあの部分、私はそのように理解しました。

⚫︎

大河ドラマ「光る君へ」。ドラマ自体は楽しく見てるんですけど、ヒロインとその相手役だけが共感できないというか、そもそもあの二人何がやりたいのかが今に至るまでわからない。結局まひろも道長も「いい子ちゃんでいたい」人なのかなと考えるのが一番しっくり来るので、もうあの二人はそういうものと思って見ています。

歴史上の有名人であっても、主人公として扱いにくいというか、話が動かしにくい人っているよねと思うので、それはそれで別の機会に書けたらいいなと思います。

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