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芸人になって、ジビエを選んだ友達。
じゃあ今からBBQでも行こか!
いーやん!私肉持ってきたで!!
ありがとう!何持ってきた?
えーっと、鹿と熊と猪!
いや誰がバーベキューでジビエすんねん!!
声高に「自分たちの面白い」を叫ぶのは、僕が高校水泳部とき一緒に頑張っていた2人の女の子。
部内でも大人びた印象の2人が就職をせず漫才を始めたとのことで見に行ったのだが…
くそかっけえ!!!!!
面白れぇ!!!!!!!
すっかりファンになってしまった。
小学生くらいからの古い付き合いらしい二人は決して目立つタイプだったり笑いキャラとかでもなかった。といってノリが悪いとかではなく、僕ら男子部員のしょーもないネタに一緒に付き合ってくれて、一緒に笑ってくれてた。
部活に真面目に参加して、成績もたしかいい方だったと思う。
高校を卒業して4年。その間で会うことはなく、2人がお笑いに進んだと聞いたのは友達からの噂だった。
あの2人が!!面白い!!
お笑いが好きで、超ゲラな僕にとって身内が芸人さんになったというのは純粋に面白かったし楽しみだった。
とはいえ、やっぱり不安もあった。
不安…というか、2人が舞台で芸をやるというのが本当に想像できなかった。
機会があったら絶対に行こう。
そう思ったのはお笑いを楽しみに行きたい、というより「そんな2人の芸をみたい」という冒険者の好奇心みたいなのがあった。
そうして数日経ったある日。
めったに更新しない彼女のインスタのストーリーが緑に光っていた。
緑のストーリーとは、特定の人にしかみせない24時間限定投稿。
もしや…?と思ってタップすると、彼女らの初舞台のチケット販売が開始されたとのこと。ふむふむ。
詳細を読むと、その舞台は2時間で総勢50組(?)が出てくる養成所新入生コンビの初舞台。つまり50個のネタを2時間浴びるというわけだ。
日程を確認するとちょうど僕が大阪に行く日。
ええやないか。
そうして人生初の生お笑いのチケットを手に入れた僕はワクワクしながら当日を待った……
いざ当日
お笑いライブが何かもよくわかっていないし、そもそも若手のライブってどんな人が見にくるんだ?と初お笑いライブにも興味津々だった。
心情は「笑いたい!」というより「お笑い芸人」とはどんな人なのだろう、笑いにお金を払うというのはどんな感覚なのだろう…みたいな不純な好奇心の方が大きかった。というか、ほんまにあの二人がお笑いなんてできるんやろか。
京都から1時間ほどかけて難波の会場へ。
上層階にあるらしくエレベーターを使って上がると、そこにはたくさんの人。ホストっぽい人、親っぽい人、THEお笑いファンっぽい人、大学生。てっきり審査員みたいな厳格ファンでいっぱいかなって思っていたけど、そこにいたのは「笑かしてくれぇ!」と楽しそうな人たちだった。
笑い、にお金を払うのが初めてだった僕は「笑いたいって思っていいんだ……」と変な気持ちになった。
時間になって入場。席は遠くもなく近くもなく。舞台も客席もよく見えるこの席は僕にとっては格好の神席だった。
会場が暗転する。拍手が起こる。
いよいよだ…!
どんな感じでスタートするんだろう
もう彼女らはあの舞台袖にいr
どうもぉぉぉおおおおおおおおおっっっ
声が、大きい!!!
芸人さん声でけぇ!!!!
颯爽と現れたのは、僕でも知ってる大御所芸人さん。テレビのマイク越しだったその声を会場で生で聞いたわけだが、でかい。迫力がすごい。
イベントの説明が始まる。巧みなのは、間に挟まれる小ネタの数々。話している内容はお堅い注意文句なのに、ユーモアがあるだけでここまで聞きやすくなるなんて。この時点で涙目でゲラゲラ笑い転げていた僕はすでに満足だった。
ここから50組のネタが始まる。
先輩芸人さんによって徐々に温まっていく会場を控えているコンビはどう思っているのだろうか。
いざ本番
気づけば前半の25組が終わっていた。
1コンビあたり2分の短いネタ。お笑いもあればコントもあれば落語もモノボケもてんこもり。
テレビを通したプロのネタしか見てこなかった僕は正直物足りない、、、わけがなった。むしろ逆。まだお笑いに足を踏み入れて3ヶ月の彼らのネタは「自分たちの面白い」で溢れていた。中には噛んでる人もいた。セリフが飛んだ人もいた。ほんとに客席が追いつけていないネタもあった。
でも、全てが堂々としていてとてもかっこよくて、ほんまにおもしろかった。
さてお目当ての二人は来る後半のほぼトリ。
もう僕は笑い疲れていたが、もう一度背筋を伸ばして参加した。
あと見ていてもう一つ思ったのだが、男ってすごい。声が太いから迫力あるし、体がでかいから舞台でも映える。男女差別ではないが、そういった男の強さみたいなのも改めて感じた。
何が言いたいのかというと、あの二人がここに立ってお笑いをするというイメージが本当に浮かばなかったのだ。
その後もゲラゲラ笑わせてもらい、気づけば終盤。そろそろかと思うと少し緊張した。
どうも〜〜〜〜〜!
二人がドーーーーンと登場した。
柄シャツと透明メガネに身を包んだ彼女らはアメコミ漫画の主人公みたいなかわいさがあって、高校までの大人びた彼女らとうまく結び付かなかった。コンビ名を聞かされなければ誰かもわからなかった気がする。
ほんとにあの二人なのか?と考える間もなくネタが襲いかかる。彼女らのスタイルは「客席を置いていく」スタイルだった。関西弁で女子トークみたいに繰り出される独特なボケとツッコミ。おっとり話す二人とはまるで違っていた。
僕はというとやっぱり笑っていた。面白かった。とくにジビエのネタが最高だった。ネタも面白いけど、この客席で「ジビエ」を知ってるひと何人おるねんwwwと思うと二人の偏愛が伝わった。
ネタが終わって彼女ら舞台袖に捌けたのだが、不思議な感覚になった。
幻覚をみたような感覚だったのだ。
明らかに僕の知ってる二人じゃない。でも、二人はそこにいた。
あまりみんなの前では自分を表現しない二人は、二人のだけの時は互いを晒しあって笑い転げてたんだろう。どういう顛末でそれをみんなに見せよう!と思ったかはわからないけれども、とても純粋だった。
舞台上で初めて見た「今までと違う二人」に驚いて、「今までと同じ二人」だったということに、とっても安心した。
彼女が見えなくなるまで、精一杯の拍手を送った。
結果、ジビエ。
高校三年生の時、進路を決めるシーズンがある。
あのころの夢をそのまま追いかけている人ってどれくらいいるのだろうか。
僕は決めれないまま、なんとなく作ることが好きだからデザイン系を志望したものの今になってもよくわかっていない。何になりたいんだろうか。
やりたいこととか、使命感とかごちゃまぜになって息苦しくなる時がある。
そんな時に羨ましくなるのは資格とかのわかりやすいゴールのある職種だ。
単純明快で羨ましい。もちろん大変だとは思うけど、ゴールがあるってのはいいなぁって思うのだ。
しかし、そうじゃない人だっている。生きてみて感じた自分の世界を外に表現したいという欲望は、もはや人間のバグ。多くの人はそこにぶつからないし、そのバグの取り扱いを教えてくれたりなんかしない。
だからそのバグとひたすら仲良くするしかない。
それで金を稼ぐのもよし。趣味にしてストレス発散にするのもよし。お笑いにしてもよし。
僕には、彼女らがどう生きて、どう考えて、なんで芸人になったかなんてわからない。当然ジビエという単語を選んだのかもわからない。そのさきにどんな進路があるかなんかわからない。
でも彼女らは今、芸人をしていて、ジビエという単語を選んだ。
それがどうしようもなくバカらしくて、二人らしくて、誇らしかったんだ。
無理に長い未来に名前をつけなくてもいい。
今感じてることに、ちゃんと向き合って、納得していこう。あわゆくば、それを芸にしてみるのも面白いかもしれないな。