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地面が降ってくる、あの感覚について。

僕には誇るべき友人、I君 がいる。

彼は僕の身内で唯一と言っていいほどの「ガリ勉」君。授業以外でも大学に出向いては図書館に篭って勉強していると噂だった。

大学生と聞くと勉強からの解放というイメージがあるが、彼はその逆。自分の世界に閉じこもるかのように、あるいは自分の道を切り拓くかのように、勉強に打ち込んでいた。

そんな彼はオーストラリアの名門大学院に合格。今は向こうの国にいるみたい。そんな天才と同じバイトであり、彼の青春の登場人物でいれたことが誠に幸せである。

彼から合格の報告を聞いた時、僕は素直に嬉しかった。そして渡航までの間で、何か日本でやり残したことがあれば誘ってくれと伝えた。



行ってみたい神社、食べたいラーメン、みてみたい景色…

せっかくの渡航までの自由期間。彼には日本をやりきって、渡航してほしかった。

そして僕は好奇心の塊。

一人で行きにくいところがあれば、一緒にいってやるよ☆  一緒にどこでもいってやるよ☆

…こんな素晴らしい友人がどこにいるのかと、我ながら僕という人に惚れ惚れした。



そしてその2週間後。









いやだ。



僕は高所恐怖症だ。バンジーなんか嫌に決まっている。



脳裏をよぎったのは、僕が狂ったように読んだ名作「進撃の巨人」の一コマ。






…くそがっ


画像作るのに30分かかった


お待たせしました。高所苦手バンジー童貞による、30mバンジー体験記のはじまりはじまり。


僕について、場所について。


まず僕のプロフィールと今回飛んだ場所についてざっと書こう。

身長:170cm 性別:男 体重:64kg
どのくらい高所苦手か:USJのジェットコースターが大嫌いレベル。

場所は関西唯一のバンジー施設。奈良にある開運バンジー。


写真の10倍は高く感じた

文化財に指定されている開運橋に30メートルバンジージャンプ台を開設!赤のカラーリングが美しい昭和6年に架けられた橋で、 朝護孫子寺を訪れる多くの人が渡ります。 「カンチレバー」という非常に珍しい工法で造られた橋で、この工法の橋では日本最古のものだそうです。登録有形文化財にも指定された歴史のある吊橋から思いっきりダイブ!

30メートル
年齢 13歳以上
体重制限 40 ~100 kg
通年営業
9:00~17:00 (16:00が最終受付)
奈良バンジー / 関西バンジー

BUNGY JAPAN

さぁここに向かうわけだ。

行くで

行くのは僕とI 君、そしてカレー屋のHくんと理系院生のUちゃん の4人。みんなバンジーは初めてなのだが、抑えきれない好奇心で集ってしまった、どうしようもない奴らである。

京都から車で3時間ほど。奈良の田舎っぽい道を抜けて、山道を登ったところに鳥居があり、その手前の駐車場に停車。大阪住みのI君はバスでの現地集合だったぜ。

さて、いよいよ飛ぶぞ!ってわけにもいかず30分ほど早くついたので、運営近くで待機。

正直、今のところそこまで怖い感覚はない。

今から飛ぶんだということを意識はしつつも、まだどこか他人事だった。

着るで

さて、受付が開始された。

だーっと説明を聞かされ、誓約書を書かされ、いちいち感情に浸るまもなく命を委ね、いかつい装備をつけていく様子は、まな板で捌かれている魚のよう。されるがまま。なんならスタッフさんの慣れた様子がとても美しい。

あと、怖くなかったの要因として「これは絶対死なないわ」という確信があったからというのもあるのだろうか。ベルトやロープがめちゃめちゃ強そうだったのだ。たかが60kgの僕なんぞで切れるわけがない、と感じてしまったのだ。

…そうでも仮定しないと、この安心感の説明がつかない。

正体不明な安心感に包まれ、飛び降り台へ向かうのだった。

飛ぶで


さて、いざバンジー。一番高いところが苦手な僕は、誰かが飛ぶのをみたくなかったので最初に飛びたかったが体重の重い順から飛ばされるため僕は二番目となった。

いやー高い。そして景色がいい。空気も心地いい。

先ほど僕を包んだ安心感はまだそこにあった。
冷静でもなく暴れるでもなく、ただ山の景色に圧倒される余裕があった。


一番手のHくんが落ちていった。

ピューんと落ちた。あっけなかった。

怖そうでもなんでもなかった。いつも通り僕は、テレビでバンジーを飛ぶ人を見るように他人事で「めっちゃ高いね〜」「姿勢綺麗〜」とか言っていたっけ。

無事に回収されたHは過去1で笑顔だった。ひたすらに楽しかったと笑っていた。


ほんまに、飛ぶで

僕が呼ばれる。

「いってくるわ〜」と、ひょうひょうと飛び降り台へ向かう。

まだ怖くない。普通だ。

橋の縁をまたぐ。






ここで、全てがどこかへ行った。



さっきの安心感どころか、ロープの頑丈さも、自然への余裕も、何もかもがどこかへ行った。

橋から落ちるんだよ、ということを急に脳が理解し始めたのだ。

さっきまでは、「橋は渡るもの」「橋は見下ろすもの」そんな当たり前が普通に機能していた。

それを僕は「安心感」と思ったのだが違う。それは安心ではなく慢心でもない。

「ここから落ちるんだぞ」ということを体が理解していなかっただけだったのだ。

…体が自分の物じゃないみたいだ。四肢が関節を失う。スタッフさんに言われるがままに、台付近のベンチに座る。

この台は、鉄格子に囲まれていて、四方が透けている。もちろん下も。

怖いとかも何もない。されるがままだ。言われるがままだ。

何を言っていたかわからないが、気づけば台の縁に立っていた。
一つ覚えているのは「流れで飛べば大丈夫」という言葉。思考と行動を運営に預ける。僕はそのまま落ちるだけ。

バンジーとは受動のアトラクションなのだ。

さぁ後は恐怖に気づく前に落ちればいい。
白い線に僕を運ぶ。ここで飛べば落ちれる。

…深呼吸して遠くを見る。


濁流のような峰が、青々と僕を飲み込む。

風という風が、僕を引っ掻き、叩く

自然って、すごい。

自分を自然に喰わせるように意識を預ける。
いいぞ、このまま飛べばいい。


さぁ飛ぶぞ、


と目を虚にしていると、なかなか321のコールが聞こえないことに気づく。

大丈夫だろうか。僕はこのまま飛べば終わりなのに。


「では!ひょんさん、あと3cm前に進めますか?」




3cm。


一歩では行きすぎてしまう。ゆっくり足を前に出そうとするのだが、足が動かない。すくんでいるのではない。先述の通り、常識が正常に機能しているのだ。

これ以上出ると、落ちちゃうよ。だから動いたらダメだよ。

そんな常識が体に何トンもの重りとなって、体を縛る。

しかし進まなくてはならない。2mmほどのペースで前にいこうとするが、その度に体が軋む。常識が、筋肉が、命が、重さとなって体にのしかかる。

それでも進むしかなない。

僕は怯えつつも、とても素直にその運命を受け入れていた。肉食獣を前に死期を悟った草食動物みたいに。




進む。







































む。






この3cmは僕の人生で一番遠かった。



正しい位置についた僕は、とっても自由だったことを覚えている。

そうか、飛んでいいのか。橋から落ちていいのか。

なーんだ、そうだったのか。

そんな常識の外にある”常識”が、僕を受け入れてくれた。僕はもう一度安心感包まれた。


それは今までの数倍冷酷で、数倍滾る、燃えるような安心感だった。


そして、



僕は、飛んだ。


落ちるで



とんだ。













落ちる













しかし、まぁ落ちる。










落ちる






くる








地面がくる!!!


飛んだ瞬間の記憶はないものの、落ちている最中に絶対に目を開けよう、耳を澄まそうと誓っていた僕は意識より先に目を開いた。

するとどうだ、


地面が降ってくるではないか。


ええ、構図といえば僕が地面に落ちていて、地面に僕が降っているのだが、「地面が降ってくる」と感じた僕はどうやら「飛んでいるのに、飛んでいる実感がなかった」らしい



くる、


地面がくる














びよ〜ん


猛スピードで迫る地面に思わず目を閉じると、体が浮いた。


情けないくらいに、ビヨーンとなった。





生きていたのだ。



そうか、こうしてもいいんだよな。

よかったんだな。



ゲラゲラ笑いが止まらなかった。


そんなこんなでバンジーが終わっていた。


まとめ

飛んでから1ヶ月ほど経ってこれを書いているのだが、飛んだ記憶はとても鮮明だ。素晴らしい経験だった。


だいぶ文学っぽく書いてしまったので、もう少し実務的に書くと

・浮遊感はそこまでなかった(感じる間もなく落ち終わってる)
・なぞにハイになった
・所要時間は4人で30分くらいだったよ

飛んでみて思ったのだが、僕は高いところに「登る」のが嫌だったんだなとも感じたので、怖がってる人は

・高いところが嫌
・高いところから落ちるのが嫌
・高いところに登るのが嫌

のどれが怖さの原因なのか考えてみて、上二つじゃなければ是非体験してみることをお勧めする。

まぁ飛ばないとどの種類の怖さかなんてわからんけどねw


感想としては、もう少し人間でいることを、生き物でいることを楽しんでみようと思った。

思った以上に僕らは、人間の常識とか社会の常識、職場の常識、なにより自分の常識に、過剰包装されている。

社会人である前に、人間である前に、僕らは生き物だ。

せっかく生き物で生まれたんだ、もっと命を謳歌しよう。くだらない包装なんか破り捨てて、もっと命を粗末にしてみるのも悪くないな。


そう思えた体験だった。

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