デレマス公演世界についての一試論
この考察メモは、シンデレラガールズのアイドルたちがチャレンジしたお仕事のうち、もっぱら演劇というジャンルに注目するものです。
具体的には「最初の幻想公演から最新の綺羅公演まで、試しに全部つないでみたら、舞台の全体像はどういうことになるの?」みたいな内容を扱っています。
確実なところから「本気で言ってたらヤバい人ですよ」というところまで、こまごまと書いてみました。「それはそうね」と「ヤバババ」の境目を見極める間違い探しゲームみたいな感じで、お楽しみいただければ幸いです。
* * *
1)次元界と公演世界
シンデレラガールズ公演ツアーイベントの舞台(ここでは公演世界と仮称)は、ひとつまたは複数の次元界から成り立っている。
実例として、西部公演・青春公演・美食公演などの公演世界は、ひとつの次元界に限られている。
その一方で、魔界公演は魔界と人間界というふたつの次元界を舞台に収め、天冥公演の舞台は天界・冥界・境界のみっつから構成されている。
このような公演世界と次元界の不一致は、登場キャラクターの異界渡りと併せて《理の侵食/理の複合》の原因なのかもしれないのだが、詳しい考察は4)に譲る。
次元界は必ずしも、個々で独立した往復不可能なものではない。
もしかしたら独立して外部から一切の干渉を受け付けない次元界もあるかもしれないが、少なくとも魔界は人間界やその他6つの次元界とゲートで繋がっている。
この情報について証言するのが、魔界公演『妖艶魔女と消えたハロウィン』に登場したユニット「門の守り手」である。
このユニットは、明らかに Helloween の "Keeper of the seven keys" やラヴクラフトの『銀の鍵』をオマージュしていて、可能性は低いがもしかしたらジョン・ヴァーリイの八世界シリーズや、ボルヘスの『八岐の園』なども意識しているかもしれない。また、ふたりの衣装は、神バハやグラブルに登場するケルベロスと似た雰囲気のお揃い感がある(魔界の門番だから?)。
とはいえ、元ネタの設定に引きずられて実際の描写を読み誤っては元も子もないので、まずは劇中の台詞をチェックすることから始めたい。
たとえば「7番ゲートが御伽界に繋がっている」という情報は《魔界をポータルにして少なくとも7つのゲートが存在する》という事実を含み、これは《8つ以上の次元界が繋がっており、そのポータルが魔界である》と言い換えることができる。
そして、8つの次元界のうち半分の4つは、既にこの段階で判明している。
すなわち魔界(ポータル)・人間界(ゲートナンバー不明)・幻想界(2番ゲート)・御伽界(7番ゲート)である。
「女王ルミを結婚式に呼んだ人間界の親友」が、青春公演に登場する合唱部OGミユ(三船さん)であることから、人間界は青春公演の舞台を含む。
ただし、青春公演の舞台だけが人間界であるというわけではない。たとえば魔界公演の舞台の一部・リックリー通りは青春公演の舞台ではないものの、やはり人間界である。
リックリー通り周辺には魔女サリナ、魔科学博士アコとその助手ミサト、ハンター・ノアたちが住んでいて、レストラン・パンデモニウムが営業している。このレストランは小悪魔シホのバイト先である可能性が高く、また後にコトカ姫に勇者として召喚されることになるカオルの姿も客の中に見受けられる。
魔界公演『妖艶魔女と消えたハロウィン』開催(2016年10月)までに存在していたのは、以下の13公演。
幻想・西部・海賊・功夫・戦国
御伽・美食・青春・怪盗
魔界・鋼鉄・童話・怪奇
これらの公演に登場する次元界は間違いなくゲートで移動できる8世界の候補だが、この他に「構想だけ存在してまだ開催されていない公演」や「既に企画が通っていて後に予定通り開催された公演」が含まれている可能性もある。
実際、2016年末からの1年間は、876アイドルやスーパーロボット大戦とのコラボが公演ツアーを舞台に何度も開催されており、どんなジャンルのコラボ先でも受け入れられる土壌づくりを目指すなかで、「公演世界はゲートで繋がっている」という設定が公式化されたものと思われる。
グラブルのコラボイベントでも、「時空や因果をねじ曲げる星晶獣の力で、異世界とゲートが繋がった」というケースは珍しくない。
しかしそれは、「アイマスシリーズの中では比較的シナリオつきのコラボが多い」というモバゲー版シンデレラガールズの特徴を、特異なまでに先鋭化していくきっかけでもあったようだ。
もう少し踏み込んだ言い方をすると、コラボが開催されていない時期であろうと全くお構いなしに、公演世界はその独自の基準にしたがって、己が存在それ自体を更新/拡張/再定義しはじめたのかもしれないのである(サイバーパンクかな?)。
モバゲー版シンデレラガールズでは、公演イベントで好評を博したキャラクター(アイドルではなく、アイドルが演じる役)が、それ以外のイベントへの出張を開始しているようだ。
その典型例としては、先日(2021年6月)ドリームLIVEフェスティバルに登場したユニット「異界渡り」を挙げることができる。
もしも括弧の中身が台詞や演技ではなく、記述された思考なのだとすれば、彼女たちは担当Pを持つメアリー・よしのん・ほなみん・橘さんではない。
では何者なのかという問いに対して「公演世界のキャラクターたちなのではないか」という回答を用意することは、一見ありえなさそうではあっても、作中の記述と背反するものではないと言える(詳しくは4で考察するが、公演世界における人間界の中に、モバマス世界そっくりのコピーが複数存在する可能性も高い。その具体例のひとつは、テイルズコラボでダオスによってコピーされた、ティル・ナ・ノグと融合する以前のトーキョーである)。
ちなみにこのユニット「異界渡り」におけるメアリーとコウメは、おそらく天冥公演の登場キャラクターと同一人物だと考えられる。
(ふたりは『聖靴学園の七不思議』でも共演しているが、そちらのキャラクターとも同一人物なのかどうか……この件は保留)
その後追加された公演についても、重要な情報なのでここに列挙しておく(2022年4月時点)。
刑事・超撃・蒸機・玩具・人魚
奇跡・天冥・追想・友星・爆裂・幻妖・綺羅
スーパーロボット大戦コラボ、テイルズコラボ、ゾンビランドサガコラボ
また、○○公演と呼ばれるツアー形式イベントの他にも、キャラクターがゲスト出演する/共通のランドマークが存在する/物語のキーアイテムが共有されているなどなどの理由から、公演世界に含まれる可能性がある作中作についても、ここで列挙する。
・魔女っ娘アイドルチャレンジ
ディアリースタードリーム公演の魔法学園アカデミアを
マジカルテットの四人がこっそり見学している
・アイドルプロデュース『聖靴学園の七不思議』
マキノが言及した共演者ゆかり・星花の役柄が
青春公演の学校から来た「名門オーケストラ部」である可能性がある
また、ゾンビマキノたちが鋼鉄公演に出演
・『オウムアムアに幸運を』(デレステ)
ディアリースターコネクト公演にシキ(同一人物かは不明)が登場
ちなみにこのシキは人魚公演のシキでもあるかもしれない
詳しくは後にこのメモの3d)で扱う
・『さよならアンドロメダ』(デレステ)
天冥公演の上級天使コトカ・チトセが銀河鉄道に言及する
また『さよならアンドロメダ』でちとせ演じるミアが探し求めた
「なんでも元に戻すベルベット」が別の公演で登場する可能性がある
・エイプリルフール企画『ドリーム・ステアウェイ』
爆裂公演にユニット「伝説の戦士たち」が登場
詳しくは4)で述べるが、パラレルワールドの一部と考えられる
一方、デレステのイベント『Secret Daybreak』で撮影されたサメ映画や『あいくるしい』『君のステージ衣装、本当は……』『Joker』『Secret Mirage』などの作中作については、現時点で公演世界に組み込まれていることを肯定する材料も否定する材料もないものと思われる。
アニメしんげき3期の最終回『お花の妖精使い フローラル夕美』とデレステのイベント『ダイアモンド・アテンション』の劇中劇もイエローリリーやフリルドスクエアを介して繋がっているようではあるが、公演イベントで『フローラル夕美』シリーズの全貌がいつ描かれるかはわからない。
シンデレラガールズ10周年記念で一部公開された映像がどんな内容を含むかはまだわからないが、蒸機公演や『生存本能ヴァルキュリア』の他にも『HARURUNRUN』の制服を着たアイドルたちが登場しており、これらをひとつにまとめた物語が展開されるものかどうか、興味を惹く。
この映像は2022年夏に全編公開予定と発表されている。
その他、スパロボコラボと同じ時間軸上の過去に『星環世界』を置くことは可能だし、2DリッチMVでストーリーのクライマックスを見ることができる『Hungry bambi』や小梅ちゃんたちのホラーハウスをミュージカル化した『Home Sweet Home』を怪奇公演世界の出来事とみなすことも容易だが、実際になんらかの仄めかしが登場するまでは慎重な態度を保っておくのも、公演イベントの楽しみ方のひとつであるには違いない。
セクシーギルティーの世直しバラエティー番組、レイナンジョーや『Just us Justice』イベントコミュで披露された特撮番組などについても、これと同様のことが言えそうである。
ポジパの『スパイスパラダイス』コミュ中で繰り広げられるカレー百年戦争についても、「実は美食公演世界で起きた出来事なのではないか」などと愚考したことはあるものの、証拠集めは長らく難航している。
2)次元界を渡る諸存在について
公演世界の繋がり方は、まず第一にランドマーク(最重要なのは魔界にあるゲートだが、他にも境界に続く森など複数の公演に登場する土地がある)によって、そして第二にキャラクターの行動範囲によって知ることができる。
たとえば怪盗公演と刑事公演に共通するランドマークは刑事ワカバと刑事チナツが所属する警察署であり、刑事公演の捜査現場には怪盗ヒカルとその助手カンナもゲスト出演したりする。
したがって、このふたつの公演世界は同一の次元界を舞台にしたものと推定してよい。
また、空想公演『おえかき勇者と凍れるお姫さま』に登場したユニット「クレヨンモンスター☆スーパードラゴン(スズホドラゴン)」や「隣国の王族たち」にも注目しておきたい。
スズホドラゴンは、勇者カオルのクレヨン画に生命が付与された魔獣である。したがって多くの次元界でポピュラーに生息する魔獣の一種族ではなく、一頭限りしか存在しないと推定できるだろう。
そのような特徴を持つスズホドラゴンが幻想公演『黒薔薇姫のヴォヤージュ』にも出現している事実は、おそらく異界渡りを意味すると思われる。彼女の目的は、《破壊以外のウチの使命》を探しに行くことである。
この場合、スズホドラゴンの移動経路を追跡することで、公演が開催された順番は必ずしも時系列順ではないことがわかる(復刻で追加されるMASTERボスのセリフなどでわかりやすく微調整されることもある)。
勇者やハンターの移動経路とあわせて細かく検討していくと、同じ幻想公演でも『栄光のシュヴァリエ』の方が『黒薔薇姫のヴォヤージュ』より遥か昔の出来事として設定されているらしく、『栄光のシュバリエ』のライバルユニット「集いし魔女」として登場する魔女レナの友人のひとりがユカリ・フェアヘイレンの先祖にあたるキャラクターらしいと推測できる。
また、闇の女王ルミ(魔界)、赤の女王エマ(童話界)、ナターリア姫(幻想界)の三人は、コトカ姫(空想界)の快気祝いで空想界に集まった。
したがって、この四つの次元界はゲートまたはそれに準ずる手段によって往復可能である。
この時、ルミはコトカ姫と自分達が同じ《貴種》であると述べている。いわゆる「貴種流離譚」から持ってきた概念(または身分)ではないかと思われるが、劇中における正確な定義は不明である。
美食公演の女神ミドリが《貴種》かどうかはわからない。古代超グルメ文明の生き残りである女神ミドリは、ルミ女王がかつて言及した《音楽神》のような神々の一柱かもしれず、美食界がゲートで魔界と繋がっていると判断できる証拠もないからである。
ただし、美食公演の主人公・ミユキが、出稽古で御伽界のトキコ様の王宮シェフとして働いているので、美食公演世界がどこにも繋がらず孤立しているということはない。
また、美食公演世界は、超古代文明やディーヴァの存在を前提とする超撃公演世界とも、なんらかの意味で関わりを持っているかもしれない。
極端なことを言えば、プリコネ世界と繋がって美食殿メンバーが現れたり、グラブル世界と繋がってサヴァランや四騎士・リュミエール騎士団が登場しても不思議はない公演世界なのである。
御伽界の赤ずきんちゃんも童話界に異界渡りしているが、彼女が《貴種》であると断言するには材料が足りないように思われる。というのも、御伽界には女王トキコ様やリナ姫がいるうえに、ひとつの次元界に複数の《貴種》が存在可能なのかというような情報に欠けるからである。
異界渡りを行う存在としては《貴種》やスズホドラゴン、ゲート利用者の他に、《ハイロード》や《ハンター》、そして《コーディアン》を挙げることができる。
ハイロードの例は少なく、該当するのは今のところ魔界公演『妖艶魔女と消えたハロウィン』に登場したユニット「超常支配者同盟」のハイロード・セツナとハイロード・レイナだけである(魔界侵攻を目論んで失敗)。
ハイロード・セツナがコスメティア帝国の女帝セツナ(鋼鉄公演きらりんロボに登場)と同一人物であることは、ほとんど疑いようがない。
ふたりの特徴は鋼鉄公演に登場したことと、能力者・超人・ヒーローの存在を知っていて、ハピネシウムを求めていることである。
気になることとして、女帝セツナがモロボシティで戦ったキャラクターの中に能力者レイがいる。この能力者という括りの中に、追想公演のアスカやミヤコたちも収まる可能性がなくはないだろうか。記憶統制機関の暗躍の裏で、理の守護者ノアも人間に能力を付与する存在として登場していたと捉えるなら、その可能性は決して低くない。
綺羅公演に登場する《コーディアン》は、ハイロードよりも確認できる個体数が多く、彼女たちは「カリスマトリクス」という次元界からやってくる。
コーディアンの個性はさまざまだが、その多くは人間界(ただし、カナリア学園や聖靴学園との接点がない別のレルム、またはパラレルワールド?)で人間の相棒をみつけ、「ギャルワン」と呼ばれるファッションショーを開催する。
ギャルワンでLOVE(ハピネシウムに似た性質を持つ。同一のものの別名か?)を集めて一定量に達すると、コーディアンの願いがひとつ叶う。
実例として、伝説的なコーディアンのひとり・サリナは「人間になりたい」という願いを叶えて、現在はカリスマモデルとして活躍中である。
魔界公演と鋼鉄公演には共通して「ナイトハンターズ」「流浪のハンター」というユニットが登場し、吸血貴族ERIKAがハピネシウムに言及しているシーンなども見受けられることから、ほぼ確実にふたつの次元界は繋がっている。
《ハンター》は「次元界を越えるが不滅ではなく、子孫を遺せる存在」と説明されている。裏を返せば、現在に至るまでの公演のいずれかでハンターたちの子孫が既に登場しているか、または登場予定があるはずである(さもなければ、この設定は不要なものになってしまう)。
これはあくまでも私の推測にすぎないのだが、スパロボ大戦コラボに登場しているチアキとタマミは、ナイトハンターズのふたりそれぞれの子孫なのではないだろうか。ちなみに、ご先祖さまとその子孫がそっくりな顔で登場した実例としては、蒸機公演のヨーコとその子孫を挙げることができる。
現段階で把握できるハンターの顔ぶれとしては、ノア(初出は鋼鉄公演)・タマミ(初出は戦国公演)・チアキ(初出は幻想公演)たちナイトハンターズの他に、ミナミ(追想公演)とカリンの存在が確認できる。
細かいことをいうと、魔界公演には、ハンター・ノア(らしき人物)がハルとランニングしているシーンがある。ハンター・ノアは理の守護者をやめて人間として生きることを選んだため、武芸や観察力に秀でて物理的な脅威を退けること度々ながら、記憶操作や《理の侵食》などの概念操作に対抗する術に乏しいようだ。
しかし復刻魔界公演で追加されたMASTERを見る限り、彼女は異なる次元界からハンターのミナミとカリンを呼ぶことで対策を講じていたとも言える。この頃のノアは既に、自分の限界を見定めて仲間を頼ることを知っている。……ただし、通報する際に名乗り忘れるようなミスもないわけではない。
他には、ディアリースタードリーム(876コラボ、2019年3月)の世界も、魔界と繋がっている。「この領域(レルム)で教鞭を執るのも久々ね」という台詞とともに、魔界公演のキャラクターたちが登場することから、これは確かな話である(マグナ・ウィッチーズのふたりも魔界の住民であり、講師をつとめるルミ女王の補佐役として、大図書館で生徒育成向けの資料を探している姿を確認できる)。
ディアリースタードリームの魔法学校アカデミアは、女王ルミとその親友ミユの母校である可能性が非常に高い。また、空想公演では伏せられていたトウコの留学先だったかもしれず、トウコは勇者カオルの帰還後にアカデミア大図書館の一級司書となった可能性がある。
この線で行くと、アカデミアには学生時代のバレンタイン反省会が勢揃いしていたかもしれない。
ミユと女王ルミがアカデミアで生涯独身の誓いを交わしたのがおよそ10年前にあたり、そののち青春公演のカナリア学園に修行に出掛けたミユは、ヘレンさんたちのいる合唱部に入部して伝説のOGのひとりになった。そして未来の旦那様と数年かけて愛を育み、最近結婚したのである。
披露宴に友人ルミを呼ぶ以上、ミユは旦那様に自らの出自をカミングアウトしたに違いなく、彼女はアカデミアで魔法学概論を教えつつ、人間界では家庭婦人として日々を過ごしているらしい。ふたりの行く手にはまだ追想公演という危機が待ち受けているのだが、そちらについては後に4)で述べる。
さて、ここまでの結論として、魔界・人間界・幻想界・御伽界・童話界・空想界・鋼鉄界(きらりんロボ)、ディアリースタードリーム(876コラボ)の8つの世界は、魔界をポータルとする7つのゲートで繋がっているものと推測できる。
次に掲げる図は、これらを暫定的に次元界群Aとして括り、マッピングを試みたものである。
ただし、魔女サリナやアコ博士の「こっちの人間界」という台詞が、魔界から行ける人間界(リックリー通りや青春公演世界)とディアリースタードリームから行ける人間界が別のものであるという情報を含んでいる点には、注意を払わなくてはならない。
どうも、人間界は複雑な構造をしているらしいのである。
もしかしたらこれは、地獄などの彼岸を複雑な階層から構築して何事かを語ろうとした古典文芸(ダンテの『神曲』やミルトンの『失楽園』など)のパロディとみなせるかもしれない。
興味の対象があの世にせよこの世にせよ、なぜある種の人々は、全貌を知りえないものに対して、このような操作を行うのか?
……私個人の関心の方向性はさておき、ここでは一例として、テイルズコラボで描かれたフェスという現象から類推した人間界の構造についての仮説に言及するに留める。
このフェスについての説明から、ダオスの思惑通りにならなかった人間界はダオスが知らなかったフェス会場のようなものと仮定してみる。
人間界は(1)青春公演・刑事公演のような超常的要素が0に近い現代劇風の公演世界、(2)西部公演・功夫公演・戦国公演のような過去の時代・文化を題材にした独立的なエンタメ作品領域、(3)境界の森と接している怪奇公演やコーディアンがちょくちょくやってくる綺羅公演のような異世界からの影響を受けやすい領域から成るのではないだろうか。
モバマス版のイベント・MusicJamが三つのステージを備えていたことや、天冥公演の世界が天界/境界/冥界の三つの領域で成り立っていたことから、とりあえず以上のような区分を想像してみたのである。
もちろんこの仮説は検証不足であり、細部まで目の行き届いた話ではない。
たとえば、海賊公演世界が人間界の一部なのか、それとも御伽界の一部なのかは、シンドバッドのお話が有名なため、かなり曖昧である。御伽界のリナ姫はユイたちと魔法の洞窟で出会っているが、それが異界渡りした海賊団だったのか、もともと御伽界の住民だったのかはわからない。
また同様に、天冥公演における天界/境界/冥界が、人間界の(3)のような領域に含まれるのか、人間界とは異なる魔界のような世界なのかも、やはりまだはっきり言えない。
ただし、天冥公演の登場ユニットの中に、怪奇公演のGhostGame/彷徨う仲良し4人組や、追想公演のアスカやセイラ、シノブやリナがいることは事実なので、三つの公演世界は死をきっかけにして魂だけシフトするような形(詳しくは3bで扱う)で繋がっていると言える。
人間界の多重構造と並んで、キャラクターの多重構造も興味深い謎である。
具体的にいうと、魔界に現れたハイロード・レイナと空想界における雷の精霊レイナの関係であるとか、魔界のアリス卿と勇者カオルが描いた「歌うたいの鳥」の関係などについても、私は興味を持っている。
この問題に関する仮説は立っているので、後に4)で触れたい。
3)次元を移動する方法の典型例について
3a)魔界のゲート
魔界と人間界は、ゲートでつながっている。
特にハロウィンの時期には、魔界の住人(悪魔族・魔獣族・妖精族)たちが、ゲートを利用して世界を往復することが多い。
人間界の住民が魔界に移動するケースについては未確認だが、これはパスポートの入手難易度によるものと考えられる。たとえば、人間の寿命では36000年ローンを組んで多世界ファストパスを入手することができない。
なにか特別な事情がある場合は、銀の鍵ファストパスが発行される。これは既に述べたように、『銀の鍵』をはじめとするラヴクラフトのランドルフ・カーターものを前提としたパロディであり、その元ネタのひとつであるポオの詩『夢の国』とも関係する話である。ちなみに両者には共通してグールが登場し、水本ゆかりは御伽公演でプリティ・グールズの一員を演じている。
実をいうと、青春公演のオーケストラ部員・ユカリは、自分でも気付かないまま、このファストパスを所持している(フルート=銀の鍵)可能性がある。私がなぜそのように考えたかは、この考察の4)で説明する。
《貴種》や一般的な魔界住民・人間界住民といった要素が、ゲートの利用権限/パスポートの入手資格にどう影響するのかは、今のところ不明である。
また、魔界のゲートが増えたり減ったりするのかということも、明らかではない。
一方、魔界ならぬアカデミアの大図書館では、モモカ校長の封印が弱まった際に異界に続くゲートが幾つも開いたことが確認できる。ただし、その場に居合わせた魔女サリナがそれらのゲートを再封印したので、現時点で通行可能とは思われない。
この事実はアカデミア大図書館の外にゲートが複数あることを否定するものではなく、魔女っ娘アイチャレのキャラクター四人(マジカルテット)がこっそりアカデミアを見学しに来るシーンがある。
3b)死をきっかけとしてシフトする場合(空想界→人間界、人間界→天冥界)
魔界→人間界ゲート(ゲートナンバーは不明)以外の各ゲートについても、なにかしら利用条件・資格などの設定があると推測することができる。
しかしその一方で、空想界と人間界は直接ゲートによって繋がれていないように思われる。
このように考える理由のひとつは、コトカ姫がゲートに頼らず魔法によって勇者カオルを召喚していることである。
また他にも、空想界には「最期に願ったことが次の世界で叶う」という話が伝わっている。人間界でカオルと再会したコトカも、空想界で天寿を全うしたのち、「次の世界=人間界」に生まれ変わったかのように描かれている。
ゲートによる移動ができない理由は、いくつか考えられる。
第一に、ふたつの世界のそなえる理が、お互いを許容できない場合。
たとえば、コトカ姫が転生する以前の人間界は「最期に願ったことが次の世界で叶う」世界ではなかったと考えられる。なにしろ、空想界の理がなにごともなく人間界に適用されるようでは、天冥公演世界の存在意義があやしくなってしまう。
この衝突を回避するためには、天使コトカ(空想界のコトカ姫ではなく、天使チトセと同じく『さよならアンドロメダ』世界の出身と思われる)の人間時代最期の願いを叶えるため、夭逝したコトカの願いを知る唯一の人物・ハスミが生者のまま境界をさまよい続けるような試練を要するのではないか。
事例さえ観測できればふたつの世界の理は併存しうるのであり、このような事例が観測されるためには天冥公演世界がなくてはならなかった。《理の複合》についての仮説は以上のような現象を説明するためのものだが、ここでは詳細を述べず、4)に置く。
余談ながら、空想界の理と共存しうるような人間界の特徴は、「弱音が遺言じゃ終われない」ことである。こうしてゾンビランドサガコラボが実現したーーというのは、ちょっと盛りすぎた私の空想だろうか。
第二に、ふたつの世界で時間の流れが同期していないとゲート開通は難しいのではないかとも考えられる(空想界のコトカが生まれ変わってまた成長するまでに長い歳月を過ごしても、人間界のカオルは子供のまま)。
玩具界と人間界の関係も、同様である。
玩具が子供の手に渡ってから忘れられるまでの時間と、玩具が玩具界を留守にする時間は、エピローグの描写から推測するに、おそらく等しくはない。
・空想界←魔界→人間界という経路が確立している
・空想界と人間界では往復が困難なレベルで時間の流れ方が違う
・魔界から人間界への移動で、時間経過に関する困難はとくにない
仮にこのみっつの条件が正しいとすると、魔界と空想界も時間の流れ方は違うはずである。にもかかわらず女王ルミが空想界を訪問できたのはなぜか。理由はいくつか考えられる。たとえばーー
・運河は水門によって水位を調整することで、高低差のある二点間を繋いで船を通すことができる。ゲートの場合も時の流れを同期させることで異世界間の移動を可能にしているのかもしれない。
・《貴種》は時の流れを操る手段をもっていることがある(例、コトカ姫の時を凍らせる魔法)。
・36000年ローンを組めるほどの長寿を誇る魔界の住人たちは、異世界移動のコストとしてあっさり100年ぐらいが過ぎたとしても、たいして気にしないのではないか。
・仮に「あるゲートを通過するのにかかる時間は、二世界間で観測されるヒト・モノ・情報の交通量に反比例する」というような法則がある場合、魔界から人間界へのゲートは交通量が多くて所要時間も少ないのかもしれない。
3c)召喚魔法
勇者を召喚する魔法はおそらく空想界のみならず幻想界にも存在し、そちらで呼ばれたのは勇者ノリコである。
ただし、幻想界には勇者を人間界に帰還させる魔法がない(逸失した)ものと思われる。勇者カオルは召喚魔法を使ったコトカ姫自身によって人間界に戻してもらったが、勇者ノリコは幻想界でオークとともに「数千年」封印され、オークを撃退した後でさえ、すぐ人間界に戻ってはいない。
チアキとハルナを連れて御伽界に渡り、女王トキコ様の近衛兵になったのである。チアキはその後も、アカデミア図書館を守ったり、鋼鉄公演・魔界公演でハンターとして戦ったりしている。
おそらく、勇者ノリコの探し求める黄金の腕輪が、幻想界から御伽界に渡るパスポート(あるいはゲート)だったのではないか。勇者ノリコが人間界に帰還するとしても、それはトキコ様の王位をリナ姫が継承した後だろう。
魔神ナホはこのような情報を、御伽公演『おてんば姫とまぢヤバなランプ』によって、人間界に伝えることに成功した。御伽界と人間界は、「物語る」という行為によって繋がっていると考えることもできる。
ちなみに空想界からカオルと再会するために人間界へと転生したコトカは、後に青春公演の学園理事長となった可能性が、多少ながら存在する。
その場合、学園に在籍する中学生ノリコは異世界から帰還した元勇者で、ノリコの友人・ユメもカオルの描いた鳥が転生した姿なのかもしれない。
空想界の理は、抽象的にはこのような形で住民たちに理解されている。
水野翠演じる《流麗な水》は、「大きな流れ」という言葉によって、空想の先にあるものーー現実の在処を指し示していたようだ。
空想はいつか終わってしまうけれど、それは無意味ではなくて、現実に溶けていくものなのだという。
彼女の個性と役柄に相応しい、目の覚めるような一矢である。
3d)現実の定義による虚構世界からの脱出
既に(2)で述べたように、現段階で「人間界」の意味する正確な範囲を指定することは難しい。公演世界それ自体が「現実」を定義することはなく、その在処は比喩によって示される。
怪奇公演でもこの傾向は強く押し出されており、虚構(パラレルワールド)の中にいるキャラクターが「現実」を定義した時、怪奇という霧は晴れて、ひとつの物語が終わる。
この種の脱出において、ハッピーエンドを宙吊りのままにしないためには「脱出した先の世界もまた虚構である」という可能性を(建前上であっても)排除しなければならず、その手段として古今を問わず用いられてきた仕掛けが、デウス・エクス・マキナである。
わかりやすくいうと、観衆の信じる世界観の守護者(神事にともなう劇においてはその土地の祭神や英雄、それに準ずるなにか)が、主人公たちの現実への帰還を保証することになる。
デレマスの公演シリーズでこの役を果たすのはシンデレラその人か、十二時を指す時計の針ではないかと考えられる。なぜなら、Pは自分の担当アイドルがシンデレラガールであることを信じている/信じていたはずだからである。
公演シリーズの中では蒸機公演がもっともストレートにこのテーマを取り扱っている。
この公演の中盤までは、主席蒸貴官ユカにとっての蒸気仕掛けの神がスチームユカであり、ヨーコにとっての蒸気仕掛けの神がヤスハだった(利用してごめん、という台詞さえ劇中にみられる)。
しかし物語が進むにつれて異様に発達したサイボーグ化技術(ユカの身体の8割以上が機械である)やエゴチップの存在があきらかになり、機械と人間の境目は曖昧になってゆく。その至るところついに、ユカはスチームユカにとっての誇り、ヨーコはヤスハにとっての望みと化すわけである。
人類を守る殻としての誇りはカラ=テ、再び人類の推進力となる望みはスチーム=テとして戦闘の中で大きな流れに溶けてゆき、「ふたつの戦闘技術は元来ひとつのものである」という命題の真偽が検証される。
カラ=テとスチーム=テのいずれもが、その使命感の奥底に、祈りと呼びたくなるほどシンプルな叫びを秘めていた。
すなわち、「私を置いて逝かないで」という滅びゆく人類への呼び掛けである。身も蓋もない感情そのものであるそれは、「からっぽの掌にそれでも掴みたいもの」とも言えるし、自我の目覚めとも言えるだろう(もしも"me"が存在しないならば、この叫びを発することはできない)。
このようにして自我を具えるに至った機械は、勝者にせよ敗者にせよ、もはやハリボテの神様ではない。自我によって人類と共にあることを選んだ旅の仲間であり、その歩んだ道筋は人類が帰還すべき現実の在処を示す。
それはまるで、さまざまな神話や童話に出てくる動物たちが、なぜか大事な探し物の在処を知っているのと同じように。……
ただし、このような解決をあえて排した上で宙吊りされたハッピーエンドを選ぶ作品もある。
たとえば『オウムアムアに幸運を』がその一例で、人類の管理者としてのコンピューターを否定してヴァーチャル世界から脱出する様子は、どうしても神殺しの傾向を帯びている。
その結果、オウムアムアの脱出先の世界は、ディアリースターコネクト公演および人魚公演(プランA)と爆裂公演(プランB)のどちらでもありうるようになってしまい、シキ博士はいわば量子的にふるまっている。
おそらく、プランBのシキ博士とオウムアムアのシキが完全に同一人物と特定されるまではこの状態が続くものと私は予想しており、爆裂公演のシキ博士がシューコの前に留まれない理由は、このあたりにもあるのではないか。
3e)怪奇公演/空想公演の森↔境界
森はゲートに似て非なるものである。
ゲートは《ファストパスを持つ生者》が《定められた目的地》に向かうためのものだが、森の場合は《死者が偶然のアクシデントで》境界の歪みに巻き込まれて《迷子になる》。
境界までたどり着ければ天使や悪魔がこれらの死者を導くことになるが、怪奇公演のように霊能探偵や巫女がこの役割を買って出ることもありうる。
4)第一公演世界仮説
御伽公演『ふれあい狼と小さな赤ずきんちゃん』で村人を苦しめる魔女は、「3Pシュートが入らなくなる微妙な呪い」を扱う存在で、ユカリ・フェアヘイレンにとてもよく似ている。
しかし彼女は明らかに、幻想公演のエピローグでナターリア姫と旅に出たフェアヘイレン(特訓後。ディアリースタードリームに登場した講師と同一人物?)ではない。
いわば公演の役者であるアイドル愛野渚が夢の中で二次創作したユカリ・フェアヘイレン(特訓前)を、御伽公演の村人ナギサまでもが恐れたことによって、御伽界にフェアヘイレン・コピー1が登場するという事態が観測されたのであるーーこの事態が生じた原因はおそらく、渚とナギサのふたりが同じ悪夢をみたことにあるのだろう。
既に述べたように、青春公演のオーケストラ部員・ユカリと、それを演じた水本ゆかりもまた、[音色を抱きしめて]のしんげきワイドで描かれた例の夢を共有していた(=みんなで同じ夢を見ていた)可能性がある。
このようなキャラクター複製・増殖の仕組みは、劇中ではっきり説明されているわけではない。しかし、他のさまざまな公演でも目撃することができるものではある。
たとえば、スパロボ公演のウーゼスがそうであり、玩具公演の玩具たちのうち、きらりんロボ・グラッシーロボ・機械仕掛けの人形などは異なる次元界のキャラクターたちのレプリカと考えられ、空想公演では勇者カオルのお絵描きから生まれた存在たちもそれらに類するといえるかもしれない。
空想公演の例については多少複雑なので順を追って説明すると、まず「魔界公爵四天王」がハロウィンにレストラン・パンデモニウムで人間界の食事を楽しんでいるーーこれは事実である。
さらに「お菓子大好きこどもクラブ」として魔界公演に登場する人間界のカオルが、料理のおいしさでマントをパタパタさせてしまう表情豊かなアリス卿を目撃したことも、ほぼ事実と考えてよい(同じレストランでの出来事なので)。
その後、勇者として召喚されるカオルが鳥の絵を描く時、無意識のうちにアリス卿の印象を重ねてしまっていたとしたら、事態はどう説明できるのか。アリス卿をモデルにして空想公演のユニット「パタパタ☆鳥さん」「歌うたいの鳥」が生まれたと考えるのは想像にすぎないことだが、同時に全くありえないことでもない。
闇の女王ルミが空想界のコトカ姫を訪問できるなら、アリス卿が空想界で自分にそっくりな「鳥」の歌に聴き惚れてしまうようなことも、充分ありうるのである。
既に述べた「青春公演の中学生ユメが、カオルの描いた絵の転生かもしれない」という説も、このような推測に基づいている。
歌う鳥としてのユメがその生の終わりの時に、「もう一度カオルやコトカ姫に歌を聴いてほしい」と願ったとしよう。
ユメは空想界の理に導かれて青春公演の世界に転生し、元勇者ノリコやエミたちとともにカナやアオイのいる合唱部に入部して、顧問のヘレンさん指導の元、理事長コトカや新入生カオルの前で歌うかもしれないーーそれも、オーケストラ部の伴奏つきで。
これはもしかしたら「我、夢に胡蝶となり、胡蝶、夢に我となる」という話なのではないか。
また特殊な例として、テイルズコラボでダオスがトーキョーとティル・ナ・ノグを融合させようとした時に偶然の事故で生まれた「イレギュラー/アニマ無限収奪点」と呼ばれるもうひとりのカレンが挙げられる。
同じくテイルズコラボ第二弾に登場するユカリ・フェアヘイレン(幻想公演)でもユカリ(青春公演)でも水本ゆかり(アイドル)でもないそっくりさんについても、パスカルが鏡映点かと思って保護したなにか別のものーーフェアヘイレン・コピー2なのかもしれない。
ちなみにフェアヘイレン・コピーは、他にも多数存在しているらしい。
デレステのスシローイベント氏家むつみ回にはコピー3が登場し、ゾンビランドサガコラボではSAGAストロフの中級使徒としてコピー4が現れたと考えられるのである。
……膨大な情報量を抱える世界をコピーする際に発生するエラー。
一次創作と二次創作の違いから生まれる表現幅の揺らぎ。
これらはもしかしたら、とても大きなヒントなのかもしれない。
たとえば、《190人のアイドルたちが揃っているシンデレラガールズの世界と大差ない、まっさらなノートのような名無しの公演世界》を想定してみよう。ダオスはこの名無し公演世界のトーキョーとティル・ナ・ノグを融合させようとしたーーそしてその結果生成されたのが『テイルズオブシンデリア』の公演世界だと考えてみるのである。
ちなみに『テイルズオブシンデリア2』の公演世界はティル・ナ・ノグだと明言されていて、登場するアイドルたちの多くは記憶を保持している点から察するに、おそらく鏡映点である。
シンデリア2のカレンとミリーナにシンデリア1の記憶がないことの理由は、《シンデリア1に分岐する前の名無し公演世界1と等しい内容をもつ名無し公演世界2からコピーされたアイドルたちの物語がシンデリア2だから》と説明しうる。特に作中で但し書きがつかない限り、このような名無し公演世界のコピーは無限に存在できるだろう。
ここまでの考察から、人間界の構造仮説を修正してみたものが、次に掲げる図である(オレンジ色で括った範囲については、女王ルミがいうところの領域という用語を、ある程度までだが想定してみた)。
直感的に把握しづらいが、例えるなら人間界はクリームソーダのような構造になっているものと、私は考える。
無数の名無し公演世界を泡立つソーダ水になぞらえると、戦国公演などはアイスクリーム、溶けて炭酸を取り込み再度カリカリに固まったアイスの一部分がディアリースター系公演世界、青春公演はさくらんぼである。
怪奇公演世界や海賊公演世界をどこに配置すべきかは、依然として難問のままに留まる。
ところで、追想公演にも、ダオスに似たパラレルワールドの創世が可能かもしれないキャラクターがいる。ユニット「力を与える者たち」である。
彼女たちは青春公演世界の理【私たちにはいつか誰かと巡り会う約束がある】を、自分たちの理【どんな力が与えられるかわからなくても、人はそれをほしがる】と並置することで、パラレルワールドを作ってしまったのかもしれない。
このようなパラレルワールドにおいて、約束と能力は交換可能なものとみなされるが、その交換レートが明らかにされることはない。
ただし能力を得る条件は約束を忘れてしまう/忘れさせてしまうことであり、付与された能力の価値が約束の価値を蕩尽しきれない場合、忘れられていた約束の記憶は再び甦る。
このようなパラレルワールドの仮説は、追想公演のストーリーという実例を通して、ある程度までは検証できるだろう。
パラレルワールドにおけるカナの友人・ミウは青春公演の時とは違う学校に通ってカナを迎えに行く途上で命を落とし、ルミ女王の親友ミユは(記憶統制機関の粛清によるものか)夫を喪ったことになっている。
ミサトは教師でなくJK(能力による若返りだとすると、意図せず結果的にミウを蹴落として入学してしまったとも解釈できる)になっており、元勇者ノリコはミサトたちと遊ぶのが楽しくて「高等部にあがったら合唱部に入ろう」と思っていたことを忘れてしまう。
エミは入部してカナと友達になっているものの、ユメや理事長コトカは登場せず詳細不明である。これも一応はコトカとユメが空想界から青春公演世界に転生した(追想公演世界ではふたりの最期の願いが叶わないので転生先に選ばれなかった)と考える材料のひとつだと言えなくはない。
能力の付与がこのような不幸やすれ違いを知らず知らずもたらしてしまうとしても、それが理である限りは、理の守護者ノア(まだハンターになっていない、鋼鉄公演以前の世界から分岐したパラレル・ノアさんである。もしかしたら記憶統制機関の設立者?)によって必然と定められる。
しかし、これに対抗してヘレンさんが踊ることもまた、パラレルワールド(追想公演から見た青春公演)における彼女の役柄=合唱部顧問としての「そうあるべき必然」であった。
もちろん追想公演のヘレンさんは、青春公演における合唱部顧問としての日々を、まったく記憶・認識していないはずである(リーディングシュタイナー的な能力に目覚めていない限りは)。
それでも私が思うに、ダンスする女はその時、己が存在を、レコード盤の上を滑る一本の針と化したのではないだろうか。
我ながら冗談のような話ではあるが、誰にも記憶されていないはずの記録を、言葉では説明できない出来事として追想するパフォーマンスがもしも実現可能なのだとしたらーー彼女はまさしく世界レベルと呼ぶに相応しい。
今、仮に《必然とは、ある知性の備える認識力・理解力に縛られない大きな流れである》と考えてみる。
おそらくそれゆえに、ヘレンさんは「理由など些末なこと」として、理の守護者ノアの当惑には取り合わない。
同様に、ユカリもなにひとつ事情を知らないままアスカがミナミに贈るプレゼントをラッピングして、かわいい癒しを世界にもたらす望みを託すことになったようだ。
あらゆるプレゼントは「もしもこのプレゼントを受け取ってくれるのならば(あなたは笑顔になってくれるはず)」という論理記号⇒(もし~ならば)を意味しうるだろう。ミナミと仲直りしたくてアスカが選んだプレゼントも、もちろんこの例外ではない。
命題A【どんな力が与えられるかわからなくても、人はそれをほしがる】と命題B【私たちにはいつか誰かと巡り会う約束がある】が論理記号⇒で結ばれると、論理式A⇒Bになる。
この論理式が真である条件は、Aが偽またはBが真であることである。
これは公演世界が成立する条件と関わっているように思われる。
たとえば超常的な能力が舞台に一切の影響を与えない青春公演は、Aが偽かつBが真である結果として成立した公演世界である(左下)。
「命題Aが真か偽かで世界が大混乱」という発想について、コラボ先『涼宮ハルヒの憂鬱』との関連をでっちあげることも不可能ではなさそうだが、「気付いた人だけクスッと笑っていただければ」という程度に留められている感もないではない。
しかしAが真かつBが偽である場合(右上)、追想公演と青春公演の関係は、いわばコラボ先『シュタインズ・ゲート』のα世界線とβ世界線と同じく共存不可能となり、追想公演によって上書きされてしまうだろう。これはなかなか、笑い事では済まない。
公演世界に存続の危機を招く原因となるこのような現象を、私は仮に《理の侵食》と呼ぶことにした。
他方、《理の複合》は、いつでも試練の果てに観測される。AとBそれぞれについて真偽が検証されなければ、真理関数表を用いてどの論理記号がふたつの命題の関係を正確に表現するかを定めることができないからだろう。
たとえば「ミナミはアスカからのプレゼントを受け取ることができるか」は追想公演における最大の試練である。
試練がクリアされて初めて、論理記号による理の操作は妥当となる。
私が思うに、鋼鉄公演の《理の守護者》や《大宇宙の調停者》という存在は、このようなシステムと関わる存在なのではないだろうか。
○○公演のひとつひとつにそれぞれの理があり、それらはいつか束ねられて公演世界の理(=シンデレラの魔法)になるだろうーーという説については前回の考察『プリティ・グールズと《おてんば姫の戴冠》』で述べたので、ここでは省略する。
怪奇公演の「幽鬼ノア」は、鋼鉄公演でハンターノアから切り離された理の守護者としての力が、怪奇公演世界の住人に目視されたものかもしれない。
追想公演のエンディング後、(1)アスカの能力を籠めた箱をユウキたちが使いきり(ちなみにユウキは爆裂公演にも登場して仕事を果たしている)、(2)情報屋が役目を果たし終えて、(3)ミヤコたちの事務所が繁盛するも能力ゆえに依頼者から頼られているわけではないことが判明したとき、追想公演世界の理はバックアップの機能を果たして、青春公演世界を修復するだろう。
結果としてミナミはハンター・ノアに勧誘され、ハンターとして「力を与える者たち」を追うことになった(例、魔界公演)と考えられる。
このパラレルワールドは、天冥公演世界・追想公演世界・奇跡公演世界・爆裂公演世界・『ドリーム・ステアウェイ』世界(爆裂公演世界にユニット『伝説の戦士たち』が出演するので)の少なくとも5つによって構成される。
本線/パラレルというふたつの次元界群は、境界・怪奇公演世界・空想界に共通する森で繋がっている。その結果として、本線における死者が境界からパラレルワールドにたどりついたり(天界に空想公演の関ちゃんとニナちゃんがいる)、パラレルワールドの死者が空想界の理で人間界に転生することが起こりうる(追想公演でミユの夫であった人の生まれ変わりが、人間界でミユと出逢って夫となるーーという鶏が先か卵が先かのような話)ようだ。
いわずもがな、本線(次元界群A)とパラレル(次元界群B)ふたつの次元界群の関係は、同じひとつの命題を真または偽と仮定した先に待つ、プランAとプランBである。
このようにして私は世界とキャラクターのコピーについて説明するが、もしも誰かがこの説を許容する場合、彼は数多の○○公演世界のコピー元となったたったひとつの世界の存在を論理的に否定することができなくなる。
以上のような発想に基づく公演世界全体の生成過程に関する仮説を、ここではとりあえず【第一公演世界仮説】と呼ぶことにする。
全ての公演世界はそもそも第一公演世界のコピーであり、それぞれのコピー世界が後に進化・分岐してしまったために、どうみても違う世界になってしまったのではないかーーというのがこの仮説の内容である。
それぞれの世界の進化・分岐は「うちもお向かいも同じスーパーで同じ具材を買ったのに、うちの夕食は肉じゃがでお向かいはカレーでした」という風な感じの例え話にできるかもしれない。
全ての公演世界に190人のアイドルたち全員の演じる役が存在する可能性は、このようにして肯定される。
「公演世界のコピー元=第一公演世界」が、公演世界の内にあるのか、外(Pとアイドルたちが生活している世界)にあるのか、外のまた外にあるのか、それとも存在しないのか。
昔に存在したが今はないのか、過去・現在・未来にわたって存在するのか、未来に完成したのちに時空間の頭としっぽがドーナツのように繋がるのか。
……このあたりの事情については、小梅ちゃんの《あの子》評以上の信頼に値する台詞が、作中にみつからない。
私自身はそれについて「昔に存在したが今はなく、欲しければもう一度作るしかない」という態度をとっている。
しかし小梅ちゃんによると、それは現在見えないだけでいつでも、どこにでもいる(ある)らしいのである。考えようによっては、アニメ・シンデレラガールズの「光が見えなくても星はなくなったわけではない(雲が星の輝きを遮っているだけ)」という話に近い。
この場合、私が言及した第一公演世界とは《シンデレラの魔法》を理とする公演世界を意味しており、《あの子》の正体は第一公演世界のシンデレラなのかもしれないのだが……小梅ちゃんの語る【聖靴学園の七不思議の最後のひとつ】も、同じ内容を暗に示そうとしているように思われる。
『聖靴学園の七不思議』には、星花とゆかりも出演していた。
もしも彼女たちが《銀の鍵》を持つ青春公演のオーケストラ部員だったとするとーーちょっぴり遅刻したkawaii奏者たちがどこかのゲートを開いたその瞬間、前人未踏であるようなその場所で、あの子が主催する舞踏会が始まるのかもしれない。そこにはアイドルたち全員の姿が見受けられることだろう。
ここまで重ねてきた考察から、改めて公演世界の全体像をモデル化すると、およそ次図のようなものになる。
追想公演の開催前、公演世界の全体像はクリスマスツリーに似ていた。今はふたつの次元界群がひとつの点に支えられて、天秤に似ている。
そしてもし仮に、次元界群が今後ますますその数を増して、公演世界の全体が膨張してゆくのだとすれば、それはいつしかシャンデリア(または赤ちゃんをあやす回転吊り具のおもちゃ)に似てくることだろう。
シャンデリアの飾りはいずれも《第一公演世界》によって存在を繋ぎ止められているのだが、その根源に目を凝らしてみたところで、視界はふたたび《絢爛たるシャンデリアの輝きに満ちた舞踏会の広間》に拡散してしまう。
軽いめまいーー広間に呆然と立つPが、もう一度シャンデリアに目を凝らしても、やはり同じことが繰り返し起きる。
シャンデリアを支えているのは第一公演世界で、第一公演世界の中には舞踏会場があって、舞踏会場のエントランスにはまたシャンデリアが吊り下がり……公演世界は無限に循環しており、それゆえ約束の地は前人未到だった。
悲観的に見れば、Pは謎めいた城に迷いこんで見当識を失っている。または楽観的に見れば、Pは赤ちゃん用ベッドの柵の内で、吊り飾りに夢中なだけである(実際、赤ちゃんの姿に戻ってさえいるかもしれない)。
けれどいずれにせよ、アイドルたちはそれぞれ一人の例外もなく担当Pの手を取って、ふたりで《そこ》にたどり着いてしまう。
私自身はゆかりPなので、ついゆかりを中心に話を組み立ててしまった向きもあるが、たとえば一旦はゆかりと別れて違うルートをたどり、星花Pさんのために騎士となって回廊をひた走る星花さんを想像することもできる。
フレデリカP氏のためには、童話公演が用意されているように思える。彼女にとっては鏡の国からの脱出など、日常茶飯事といってよい。
志希にゃんに至ってはPの正気を取り戻すためにシャンデリアをガッシャーン! してしまう虞れさえなくもない。
2)で言及したスズホドラゴンもこの地を目指して飛び、誰かを導いている(破壊以外の彼女の使命をみつける)のだろうと、私は想像している。
公演世界に《貴種》と異界渡りの概念が存在する理由は、おそらくこのあたりの事情に見出だされるだろう。つまり、Pと担当アイドルの数だけ、《そこ》に至るための小径がある。担当アイドル/担当ユニットとともにどの道を選ぶか、どんな道を切り拓くのかは、あなたの自由なのだ。
この自由の中には、私がここまで述べてきた仮説の全てを却下して、あなただけの真実を探しに行くことさえ、既に含まれている。
その場合、私は西部公演あたりの賭場でくだを巻く詐欺師のような人物で、暇をもて余して築いたトランプ・タワーについてあなたになにかしらのでまかせを語り、別れ際にこの塔を崩してみせただけなのだ。それは意味のない言葉と行為だったけれども、もしもあなたが今この文章を目にしているのだとしたら、お互いに案外悪い暇潰しでもなかったはずと信じたい。
では、ここから先はあなたご自身の冒険の続きをどうぞ。よい旅を!
* * *
最後はそらちんの伝説的NGシーンへのリスペクトで〆てみました。
自分で立てた説ながら、これはどこまでが本当の話なのでしょうか?
古いことわざでは「真理は時の娘」ともいうらしいのですが、さてはて。
私はその結末を想像しただけで、知っているわけではありません。
だからまだまだ、お話の続きが気になるのです。
ご読了、ありがとうございました!
(ひとまず了)