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「METROID」が「DREAD」に至る迄

METROID DREAD、終わった……凄まじい完成度……。完全に「分かってる」作り……。文句なしの出来栄え……。大満足……。メトロイド……オモロイド………。10年待っただけの甲斐があった……!!

※)本記事は「METROID DREAD」を始め、「METROID FUSION」「METROID other M」の重大なネタバレを含みます。
「DREAD」をクリアしたが過去作には触れていない、そもそも「METROID」シリーズついてあまり詳しくない、といった方で、過去作をプレイする予定のない方向けの記事となっています。
以上を踏まえて記事の閲覧をお願いします。

「METROID」の真の魅力

さて、発売後一週間経過し、初週売上8万本以上という好成績を収めたメトロイド最新作。待ちわびた人もいれば、初めて買った人もいるだろう。まだ買ってないという人でも、CMやキャプチャ映像を見てメトロイドという作品の魅力に気づいてくれた人も多いのではないかと思う。
だが、メトロイドの魅力はゲーム性やサムス・アランのカッコ良さに留まらない。ゲーム中では語られない、重厚かつ濃密なストーリーにこそメトロイドの真髄があるのだ、と声を大にして言いたい。

そもそもメトロイドという作品の中で、物語や背景について語られる言葉はあまりにも少なかった。基本的にステージに放り込まれ、道なりで探索可能な範囲を探索する。そうやって少しずつゲームを進行させるデザインだったためである。能力の説明が一番文言が多いまであるかも知れない。あと純粋にサムスさん、寡黙
また初代は容量の問題、「スーパー」まではサムスひとりの戦いだったこともあり、ゲームをただプレイしただけで得られる情報というのはほんの僅かに過ぎなかったのだ。

近年、ようやくストーリーや世界観についての説明や、一枚絵が出ることによって考察が捗るようになっており、以前からメトロイドを知っていた人でも、真の魅力に気づかされた人も多いのではないかと思う。
だが、過去作を遊んでみたり実況動画を見ただけではわからない、サムス・アラン自身の過去についてもっと知られてもいいのではないだろうか。そこを踏まえて、今作「METROID DREAD」の魅力が十二分に理解できるものだと思うからだ。

真の魅力を知ってもらうためにも、ゲーム中では語られない、サムス・アランの過去から今作にかけての面白さを説いていこうと思う。

サムス・アランの出自

サムス・アランに家族はいない。
スペースパイレーツ率いるリドリーに故郷の星ごと滅ぼされている過去があるからだ。両親は娘を庇い、犠牲になった。そして、唯一生き残った幼きサムスを引き取り、自身の惑星へ連れ帰ったのがふたりの鳥人族だった。
鳥人族がまず行ったのは、自らが住む惑星ゼーベスの過酷な環境に適合させるため、彼らのDNAをサムスへ適合させることだった。これによりサムスは並外れた身体能力を得、銀河一とも言われる鳥人族の戦闘能力、そしてそれを最大限引き出せる、鳥人族の技術の粋を集めて作られたパワードスーツを受け継ぎ、サムスは戦士として成長していく。

だが、身寄りの無かった自身を引き取り、立派に育ててくれた育ての親とも言える鳥人族、そして第二の故郷を、サムスはまたも失うこととなる。
スペースパイレーツが惑星ゼーベスへ侵略を始め、あろうことか鳥人族がもっとも信頼を置いていた人工知能「マザーブレイン」が反逆したのである。
辛くもゼーベスを脱出したサムスであったが、信頼していた仲間と、第二の故郷をも失い、彼女はまたひとりとなってしまった。

ーー以上がサムス・アランの過去、初代「メトロイド」より昔のお話であるが、このストーリーが明確に語られる作品は今の所存在しない。なお、「スーパーメトロイド」にて生みの親、育ての親をも奪った憎き宿敵、リドリーとマザーブレイン……彼らへの雪辱とともに、第二の故郷とも言える惑星ゼーベスは宇宙の塵と化し、銀河から消えた。このくだりは過去の物語として振り替えられるのが、それまでの情報……サムスの出自と経歴の話はどこにも記載がない。なんなら記載がなさすぎて我々の妄想という可能性すらある

このように、メトロイドにはヘビーかつディープな設定と舞台裏が存在するが、まるでゲーム中では語られない。面白い内容かと言われるとそんなことは無いし、知ってゲーム中で役に立つかと言われると一切そんなことはない。ただメトロイドという作品の面白さはゲームの中だけでは評価できないのだと伝わればよいのだ。

サムス・アランかく語りき

転機となったのは「METROID FUSION」だっただろう。
当作の任務先では銀河連邦が同行させた人工知能の指示に従うことでゲームが進行するが、人工知能とのやり取りの他に「サムスの独白」がいくつかの場面でカットインされる。いままで謎に包まれてきたサムス・アランの性格や主義主張が垣間見れる貴重なシーンであった。
これらのシーンの中では多くが語られる。サムスがかつて銀河連邦に所属していたこと、信頼できる上司がいたこと、そして彼がこの世にもういない事……。今まで感情が読み取れなかった戦士サムスの情報が一気に増える。

また、再登場となった「スーパー」の道中で助けた動物たちを思うシーンや、自分自身をコピーした寄生生命体への冷静な分析、銀河連邦への不信感を露わにする態度も見られ、いままで少なかった、サムスが「他者との接触」を淡々と述べる様は「フュージョン」の見所のひとつである

中でも少しお茶目に映るのが、今自分と任務をともにしている人工知能を「態度や口調が似ているから」という理由でかつての上司、「アダム」と心のなかで呼ぶことにしていたことだ。
(これは余談だが、「アザーエム」では裏切り者のことを“デリーター”と呼んだり、産まれたばかりのメトロイドを“ベビー”と名付けたり、名前を付けることが好きなのかもしれない)

また「アザーエム」ではこの上司、アダム・マルコビッチとともに挑んだミッションが描かれる。「スーパー」と「フュージョン」の間に位置するこの作品の評価は賛否が分かれるが、個人的には「サムスリターンズ」「ドレッド」の方向性を決めた作品だと思っているので評価が高い。
「アザーエム」のストーリーはこうだ。
スターシップの航行中に救難信号をキャッチしたサムスが向かった先は、廃棄された宇宙船、ボトルシップ。そこでサムスは銀河連邦軍所属時代の仲間とかつての上司、アダムと再開するところから物語は始まる。
この作品ではムービー中かなりの頻度でサムスの独白が流れる。というか2時間弱あるムービーの約半分はサムスの独白である

ここでのミッションはボトルシップの調査ーー生存者の確保と異常の原因究明だった。アダムの指示でミッションを進めるサムスは、かつて銀河連邦軍でのアダムとのやり取りを思い返す。
「異論はないな? レディー」
普段冗談を口にしないアダムが、幼き日の未熟なサムスを慮っての彼なりのジョークだった。ブリーフィングを終える際のお決まりの文句だったという。アダムはサムスの悲惨な過去を知り、サムスも彼を上司として信頼し、父のように慕っていた。上記の台詞は、アダムとサムスの絶対的な信頼関係を象徴していた合言葉だったと言える。

……が、サムスはこのボトルシップで、その存在を失う結果となる。
「行くべきものが行き、残るべきものが残る」という的確な判断と、指示の結果だった。三度、サムスは家族ともいえる存在を失うこととなった。
「異論はないな? レディー」
アダムは最後にそう残し、サムスが応えたのを見届けて、光の向こうへ消えていった……。

分かっている、あなたは正しい

「フュージョン」では前述の通りサムスに心の中で「アダム」と呼ばれる人工知能の指示で宇宙船「B.S.L」内を探索するストーリーである。銀河連邦からの支援を受けながら、寄生生命体「X」の調査と、その「X」がサムス自身をコピーした存在の「SA-X」撃破を目指す。

……はずだったのだが、任務の終盤、銀河連邦はなにを思ったのか任務目標を「SA-X」の捕獲へと切り替える。宇宙最強の戦士ともいわれたサムス・アランを完全にコピーした存在を「戦力」として見た場合、それはとんでもなく魅力に映ったのだろう。……仮にそれを制御できれば、の話だが

これはまるで今作レイヴンビークが企んだ目論見となんら遜色ないが、レイヴンビーク程の戦力なくしてフルスペックのサムスを捕獲など出来ようはずもない。ましてや「X」は分裂を繰り返しており、施設内には複数の「SA-X」が存在する。捕獲しようとしたところで、返り討ちに会い、銀河連邦のクローンが出来上がることは容易に想像が出来ることだろう。

そんな火を見るより明らかな結果を「アダム」も分かっているに違いないが、この「アダム」はアダムとは違う。銀河連邦軍の言いなりの人工知能で、ただのシステムに過ぎないのだ。自分の意志など持たない、信念もなければ、勿論サムスのことなどどうなっても構わないのだ。ミッション中でのやり取りでそう判断したサムスは、彼を冷徹な機械と乏し、見切りをつける。

だが、事態は深刻であった。「SA-X」が野放しにされていることもそうだが、この生物の魅力にとりつかれた者たちがいる以上、「X」という存在もまたこの世に許して良いものではない。サムスは「X」蔓延るこの宇宙船を自爆させる計画を思いつく。自爆装置を起動させ、宇宙船もろとも「X」の存在を無に帰すという計画……惑星ひとつ消し去るほどの自爆装置を抱えたこの施設なら、Xを根絶出来るだろう……サムスもろとも

だが、人工知能もハッチを閉鎖し、サムスの行く手を阻む。
計画を邪魔され、通信室内に閉じ込められたサムスは激昂する。そしてその怒りの中で、あろうことか人工知能のことを、心の中だけで呼んでいたはずの名前を、「アダム」と呼んでしまうのだった……


「……アダム?」
「…………」
「誰の名だ?」
「……私の、仲間の名前だ」
「アダムはこういう場合、君にどうしろと言うのだ?」
「一切迷わず施設の自爆装置を起動しろと、私に命ずるはずだ」
「アダムは高みの見物か? 安全な場所から、君を見殺しにする指令を下すのか」
「行くべきものが行き、残るべきものが残る。という判断だ。あのとき彼自身が、そうしたように……」
「なる程、その時は君が残るべきものだった、という意味か。未来をサムス・アランに託し……、アダムは自らを犠牲にしたという訳だな。銀河の平和と、君の命を守るために……」
「…………」
「愚かな考えだ」
「……!! お前に、そんなことを言われる筋合いはない!」
「この施設を自爆させたところで、惑星SR388には今尚多くの『X』が生息している」
「……!」
「ここを爆破しようとも、SR388にいる無数の『X』はそのまま残る。つまり、なんの解決にもならず……、今回の連邦の計画にとって邪魔な、サムス・アランという優秀な戦士がこの銀河から消え去るだけだ。そんな簡単なことに気づくこともなく、君は、自らの命を絶とうとしている訳だ。……残るべきものの選択を、アダムは誤ったようだな」
「…………!」
「…………この施設をSR388に衝突させれば、『X』の根絶は可能だろう」
「…………?」
「今すぐ推進装置を起動し、惑星SR388へ向かえば、連邦軍は追いつけまい。……サムス、最終ミッションだ。君はコントロールブリッジへ向かい、目的地を惑星SR388にセットせよ」
「……!!」
「そして惑星SR388激突までの間に、シップに戻り、この施設から脱出するのだ。……速やかに行動し、必ず生還せよ。これは命令だ!」




「異論はないな? レディー」



奇妙な再開と「DREAD」での戦い

優秀な司令官アダム・マルコビッチの頭脳は、その経験と実力を買われ、人工知能として銀河連邦で戦っていたのだ。死後、その人間の思考パターンを学習させ人工知能として活躍することは珍しくないことだそうだ。
……「フュージョン」ラストの演出では、彼がアダムそのままの記憶を持っているのかまでは分かってはいない。彼が見せたアダムの素振りは生前の記憶がよみがえってのものだったのか、それとも人工知能として、よりよい結果を演算できることを示したかったプライドなのかも知れない。

「フュージョン」後、サムスと「アダム」がどんなやり取りをして、銀河連邦軍の追求をどう逃れたのかは知る由もない。だが「ドレッド」冒頭で、サムスはアダムの忠告を無視しながら、惑星ZDRで発見された「X」調査の任務を受けている。謎の鳥人族レイヴンビークに襲われ、一旦地表のスターシップへ戻ることになったサムス。身の安全を最優先とした前提での指示を通信室で受けながら地上を目指すことになる。
サムスの置かれている状況を冷静に分析し、惑星ZDRの様子や敵の操り人形と化した「E.M.M.I」の的確な情報を伝えるなど、プレイヤーとしても非常に助かる存在であったことは言うまでもない。これまでの過程や状況はどうあれ、的確かつ明確な指示、そしてその命令をを淡々とこなす「アダム」とサムスは理想な関係そのものであった。

しかし、いざ地表まで上がってくると、「アダム」はシップへの帰還よりもレイヴンビークの撃破を提案してくる。このまま惑星ZDRを破壊して「X」を根絶できたとしても、レイヴンビーク自身が銀河社会の脅威となりかねないという判断だった。サムスの身の安全を第一に提案していた「アダム」にしては分の悪い提案をしているが、サムスも新たな能力を身に着けており、勝機はあるとの判断だった。その判断を信じ、サムスは決戦の地へ赴く。
……だが、ラスボス戦直前の通信室では明らかな様子の違いを見せる。

「ここまで到達できたように、常に私の命令に従っていればいい」

明らかににこれまでとは異なる明確な悪意を持った口調。
高圧的で命令的な言葉は「アダム」の裏切りかと思えたが、次の言葉でサムスの疑念は確信に変わる。

「異論は認められない」

少し間をおいて、サムスは無言のままミサイルで通信室を破壊する。
すると現れたのは機械的な部屋ではなく、……静かな大広間だった。
通信室のように投影された、まやかしを看破したサムスの前に現れたのは、諸悪の根源、レイヴンビーク
いったいいつからなり替わっていたのか……? というプレイヤーの疑問を他所に、レイヴンビークは衝撃の事実を口にする。



「……お前には失望した、我が娘よ」



かつて惑星ゼーベスの環境に適応するために鳥人族のDNAを適合させたサムス、その時とはまた別の機会なのだろうか、戦闘能力向上のため、初めとは異なる鳥人族のDNAを移植していたのだ。そしてその持ち主が、今目の前に立っている男、レイヴンビークだということらしい。
血の繋がりがなくとも、身体の中に明確な繋がりがある……それを父親と言ってよいものかは人によるだろうが、少なくともサムスにとって、そんなロマンチックな解答では決してないことも間違いなかった。

例え今は人工知能であろうとも、元となった人物はかつて父のような存在に思えたアダム。
その存在を騙り、あろうことか「我が娘」などと父親面をしてくるよく知らない鳥人族に、流石のサムスも怒髪天を突いた事は想像に難くない。
実父をリドリーに殺され、父のように信頼していたアダムを失っているサムスにとって、そのような態度と言葉は地雷原をぶち抜く行為であり、内心では過去作最高レベルでサムスは怒りに満ちていたのだろうと思っている。

……結果として「ドレッド」ではサムスと「アダム」の活躍により、惑星ZDRごとレイヴンビークの野望は潰えた。長きに渡る銀河統一計画の全貌がどういうものだったのか想像する由もないが、鍵となる存在の「X」がほぼ完全に全滅したこと、今現在銀河で最も脅威となっている存在がサムス・アランであり、そして彼女が彼女であり続ける限り、銀河社会は平和を維持するだろう。

これから

長くなってしまったが、これだけ語れば「ドレッド」クライマックスのやり取りと明かされた真相が、シリーズ上でどれだけ衝撃の事実だったか理解いただけたかと思う。
上のお話はサムス・アランの過去のみ抜粋してあるが、「メトロイド」シリーズにはそれだけではなく、作品ひとつひとつ遊んでも十二分に満足できる代物だと思ってもらっていい。鳥人族の考察もやりだしたらキリがない。

現在だと3DSの「サムスリターンズ」、wiiU内VCにて「ゼロミッション」「フュージョン」、swichオンライン特典で「スーパー」を遊ぶことができるが、ここはやはり最新作「METROID DREAD」をお勧めしたい。メトロイドファンだからという勧め以上に、純粋にゲームとしての完成度が高い。難易度はやや高いが、迷いにくいマップのつくりは芸術品レベルなのでゲーム好きにも触れて欲しいというのが正直なところである。

以前にも触れたが、これを読んでメトロイド沼に嵌る人が一人でもいれば幸いである。完成度の高い最新作が出た今が勝機とばかりに宣伝してみたいが、といっても万人受けするジャンルでないことは重々承知の上、引っかかるのを座して待つことにします。
もしかしたら近い将来に続編がコンスタンスに出て、日本国内でも人気が出、「マリオ」「ゼルダ」「メトロイド」「カービィ」「スプラトゥーン」ぐらいの並びが普通になる未来が来るかもしれない。そうなっったときに『「METROID」というシリーズは面白い』ということだけ知っていてもらえればそれだけで満足だと、今のうちに言っておこうと思う。


……マリオカートを乗り回すサムスを見たいかと言われると複雑だな…………。

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