《後編》自称盗撮ハンターの不審者に付きまとわれた話
本稿は『自称盗撮ハンターの不審者に付きまとわれた話』の後編として、不審者への雑感、私人逮捕について思うことを書いていきます。何が起きたかについては、ぜひ《前編》をお読みください!
5.不審者に関する雑感
前編で読んでいただいたように、タイトルで『盗撮ハンター』と書いたのですが、その実はどちらかと言えば、『本当に変な人間に絡まれた』ような感じです。
SNSやYouTubeで『盗撮ハンター』と検索すると、だいたい上がってくるのは、YouTuberが盗撮犯を捕まえるためにビデオを回し、(恐らくは)本当に盗撮をしていた人物を問いただし、その人が逃げ出すと羽交い絞めにして、なおもその様子をビデオに録る、というものです。
たとえば痴漢や盗撮などは、私は目にしたことはないですが、実際に一般の人が現行犯で逮捕するということは世の中に起こっているでしょう。しかし『犯行現場を見かけた → 逮捕行動にでた』のとは違い、『現行犯逮捕を狙うために張り込む → 犯行現場を見つけた → 逮捕行動にでた』という点で、後で書く『私人逮捕について思うこと』とも重なるため、今回の男を『(自称)盗撮ハンター』と呼び続けようと思います。
『不審者』についても、男自身は(非常に怒りを覚える人間ではあるものの)法は犯してはいないため、もしかしたら『不審者』という呼び名も適切ではないかもしれません。しかし、私からすれば『顔面と手首と首に入れ墨のある、いつ暴行を加えられるかもわからない、言葉が通じているのに会話が通じない、人との距離感が常人と異なる、眼の動かし方も一般的な人とは違う男』であったため、『不審者』としかしっくりくる呼び名がありません。そのため、このままでいこうと思います。
『3.警察を待っている間の会話』でたくさん会話歴を書きましたが、男の特徴としてはおおむね『思ったことがそのまま口に出てしまう』ような人間に思えます。男の立場からすれば、一応は私を盗撮犯と疑ったからこその行動のはず。なのに「マスクがずれてる」だの「鼻毛が出てる」だの、脈絡のない会話。今回の件に関して当事者は、私と男、警察官、そして私が(身の安全のために)巻き込んだ駅員のみなのに、無関係の一般人との会話に急に割り込み、あまつさえ「~~だろ!」と、自身の望む回答がないと叫ばずにはいられないような人間性。
そもそも、私を盗撮犯だと疑った経緯もおかしなもので、たしかに先に書いた現場の情報を(無理やり強引に)解釈すれば、私が女性を盗撮したと妄想できるかもしれません。
ただ、私は普通にスマホを見ながら地図などの情報がある掲示板を見ていた。本当に盗撮なら女性のスカートの下にスマホを突っ込んだり、エスカレーターの後ろで張り付いたり、そうしたテンプレ的な盗撮行動だと思うのですが。わいせつ画像ではなく、単に女性の後ろ姿を撮影したのだと思ったのでしょうか。それを疑いだしたら、大きい駅だと1日に数万件くらいは盗撮犯が現れてもおかしくないと思うのですが。
まあ言ってしまうと、『盗撮ハンター』と自称する割にはやり方がお粗末すぎる。実際、私などという盗撮もしてない人間にかまってオラついて威嚇していますし。
上に挙げた典型的な盗撮ハンターですと、行為の是非はともかく実際に盗撮犯を特定しています。いえ、動画をちゃんと見たわけではないので「特定したように見えた」とだけ言っておきましょう。彼らは記録としての動画を回し、犯人を物理的に拘束する用意をしているように感じます。複数人での計画的な行動です。中にはそれで示談金を迫って捕まったり、盗撮犯に危害を加えているようなお粗末な人たちもいますが。
対し、私に目を付けた自称盗撮ハンター。彼は計画性もなく(本当に私が盗撮犯だったとして、示談金を迫るのか警察に突き出すつもりだったのかは知りませんが)、『盗撮犯を捕まえる』という目的とは関係ない行動を繰り返し、勘違いだったにも関わらず私が彼を押し返した行動に「謝れよ」と言い、実際に謝ったら特に当り屋的行動をとるでもなく退散した。そして駅員や関係ない人に対しても高圧的な態度や声を繰り出す様子。
盗撮ハンターとは自称していますが、実際は『彼自身の承認欲求や破壊的欲求を満たす』ために、たまたま盗撮ハンター的行動をとっていたのではないか、というのが私の雑感になります。あるいは、オラつくことで『自分が強い優れている人間』だと思いたいのかもしれません。
どちらにしても、私にとっては怖い経験でした。もともとそういった出来事に耐性がないというのもあります。今まで出会った人間でも無自覚な悪意を持っている人間もいましたが、ここまで強烈な悪意を(無自覚かもしれませんが)隠さずに来ることは初めてでした。世の中、こういう人間はむしろ普通にいるという点に気づき、それでも身体的な暴力等を受けずに終わったということについては、今回持ち帰ることのできる有益な経験だったかもしれません。
私は今までそうした騒動に関りがなく運がよかった。そしてまだまだ、未熟な人間ということですね。
6.不審者の正体について
この騒動の後、『○○駅 不審者』『○○駅 盗撮ハンター』みたいなワードでXなどで検索してみたところ『同じ駅で入れ墨を入れたオラついた男が盗撮を疑って迫ってくる』という旨の情報が2件ほどヒットしました。さらにそのうち1つには、『この画像によく似た男だった。ていうか、本人?』という言葉と共に『入れ墨の男』の画像が張られていました。
さて、この画像が何かということなのですが……詳細は伏せますが、とある理由で警察に逮捕された男性の逮捕時の画像でした。ネットで調べてみると逮捕者の名前まで判明。私より年上でした。このご時世、特定できちゃうというのは怖いですね。
その『逮捕された前科持ちの男』と『自称盗撮ハンターの不審者』が同一人物であるかは、もちろん確証はありません。証明もできません。
ただ、
入れ墨の模様までは思い出せないけど、位置に関しては完全に一致している。
そんな場所に入れ墨を入れる一般人なんてそうそういねぇ。
同じ駅でも目撃情報が少ないとはいえある。
目撃情報でも、『盗撮疑いをかけながら別に盗撮犯でもなんでもなかった』というお粗末さ。
まったく関係ない人にも怒鳴りつけるなど高圧的な態度。
逮捕理由は特に殺人や暴行・窃盗などではなく、『とある人々に過剰な迷惑をかけた』という点が、今回私が遭遇した男の『思ったことを自制できず口にしてしまう』特性と重なる。
目に見えた社会的ルール(盗撮はいけない)に目がくらんで、自身が迷惑をかけている可能性を配慮できず、結果として社会の一線を越えてしまう。
これらの行動が計画的に行われているのではなく、突発的に発生している点(目撃情報がむしろそれほどない点)。
これらを考えると、当事者としては、「もうこれ本人だろ」と思ってしまうのです。というか本人でないのだとしたら、もう『顔と首に入れ墨を入れる人間2人がわけのわかんねぇ男と前科持ちの男』ということになるので、たぶんそういう人に出会ったら真っ先に疑いをかけることになります。
7.警察の方の助言
今回、私はトラウマから「しばらくこの駅は使わない」ということを心に決め、帰りは別の駅まで歩いてから電車に乗って帰りました。
ただ、その時はストレスMAX。不安障害のためかマイナス思考もMAX。今日ちゃんと眠れるかもわからねぇ。
そう考えた私は、少し迷惑だなとは思いながらも、自宅の最寄り駅の近くにある警察署に向かい、「相談」という体で、「すでにその駅の交番の人は知っていますが」と話したうえで、事情を説明し、「今後、こういったことが起こった場合にどうすればいいか」ということを聞きました。
いくつか脱線したりしたりもしたのですが、
・ケースとしては本当に珍しい。
・エスカレーターに乗るときなどはスマホを1回1回(ポケットではなく)カバンにしまってから乗る。とにかく予防するしかない。
・この手の話は一口に「相手が(犯罪として)悪い」などは決め兼ねにくく、ケースバイケースになる。
・とにかく、今回とった行動のように、近くの人に助けを求めるなど『冷静に対応する』こと。
などの意見をいただきました。
私自身、いろんな場所でスマホを操作する癖のあるスマホ依存のようなものなので、すぐにできるかはわかりませんが、是非参考にしようと思います。
特に冷静に対応する、という点について。当時は恐怖そのものでしたが、終わってみれば抱くのは男への激しい怒り。心にあまり余裕のない私は、心の中で「てめえが迷惑かけたのになんで俺が謝んなくちゃなんねえんだよ」「結果として盗撮犯も捕まえられずに迷惑をかけただけの生産性のない盗撮ハンターだな」「本当に前科持ちだったら人のこと言えねえだろうがボケが」とか、とにかく思い至る限りの罵詈雑言が頭の中で響きました。
ただ、恐怖が原因であれ、相手の発言を適当に流し、相手を第3者のいる場所へ促し、警察を呼ぶ、という私のとった行動は恐らくベストだったのだと思います。相手はそもそも自己満足のために「盗撮だ」「マスクがどうだ」だの言っている可能性がたかいので、それに対しこちらが理路整然と返答できたとしても、恐らく相手は自分の発言の馬鹿さにも気づかず、また別の悪口を言うのだと思います。
相手も人間。こちらも人間。けれどこの出会いは台風に遭遇したような不運な天災だった。だって実際、同じ人間のはずなのに会話が通じないんですもの。命の危険の度合いが全然違いますが、動物に絡まれたようだと考える方がむしろしっくりくる。
昔繁華街を歩いているとき、ホームレス風の髭の濃いおじさんに数十秒ほど並んで歩かれて聞き取れない言葉で、たぶん乞食を迫られたことがあったのですが、彼は逆に私が相手にしないのを見て早々に離れていきました。彼の方が、むしろ『言葉が通じなくともお互いの簡単な意思疎通ができた』という点では人間らしかったのかもしれない。
それでも「警察の人もああいう迷惑な奴を取り締まってくれよ」と思ったのですけど、考えてみれば警察の人は犯罪をしていない人間を逮捕する権利なんてない。だから、あの程度で済んだことは警察の方々の真摯な対応ですし、迷惑な人間が法を犯すのを防ぐと考えればベストな対処だったのかもしれません。仮に私があの場でブチ切れて売り言葉に買い言葉となり、私あるいは男が暴力行為を──なんてことになれば、それこそ法を犯し周囲の人たちに迷惑をかけてしまう。
そんなことを考えているうちに、私は例の男を憐れに思う気持ちが少しずつ出てきました。彼は今日も、どこかで誰かに迷惑をかけているのかもしれない。しかし彼にその自覚はなく、彼自身が怒りを買うことで騒動や暴動の温床となっているかもしれない。まあたぶん私のように気の弱そうな人間にしか迫らないでしょうが。
そして、同じ日本社会で生きる以上、彼のような迷惑で憐れな人たちを排除はせず、一緒に生きていく必要がある。それが日本の法制度で生きる私たちの義務や責任のようなものなのかな、とちょっと飛躍した考えを持つことになりました。
重ねてになりますが、彼は非常に迷惑な人間ではありますが、少なくとも今回の件に関して言えば誰も法を犯していないのですから。
8.いわゆる『私人逮捕』に思うこと
さて、いろいろ思ったことを書いてきましたが、最後にいわゆる『私人逮捕』について思うことを述べていこうと思います。
今回、『自称盗撮ハンター』の男ということで、『盗撮犯を捕まえる目的で行動している本当のいわゆる盗撮犯ハンター』とは区別していますが、それでも両者とも、行おうとした、あるいは行ったのは『私人逮捕』という行為と考えていいと思います。
結論からすると、『結果として私人逮捕』行動をとった人間ではなく、いわゆる『盗撮ハンター』のような『自分から私人逮捕できる場を探そうと動く』人たちの行動には反対することになります。
大前提として、もちろん盗撮・痴漢などの行為は犯罪であり、盗撮犯・痴漢など犯罪行為をする人間がそのままでいいとは思いません。そういった現行犯を『偶然』みかけた場合には、発見者の器量にもよるでしょうが適切に行動し、時には常人逮捕(私人逮捕)に関わる法律に則って現行犯逮捕をすべきとは思います。
それでもやはり『過度な私人逮捕』には反対です。
私がほんの少し見た盗撮ハンターの映像が、盗撮犯を追いかけた末に転げまわし、羽交い絞めにしたシーンなのでその印象を強く受けたうえでの発言ではありますが、「法を犯した人間だから、被害を受けた側が反撃をしてもいい」とか「犯罪者なんだからケガをしようが骨折しようが因果応報だ」いうのは、感情的には同意しますが、行動としては本来の法治国家の在り方とは異なるわけで。
じゃあ、「私人逮捕はちゃんと法に認められているから問題ない」と言われればその通りなのですが、その結果知識と技術と責任を求められる専門的行為を、ド素人の非専門家が意図的に積極的に行っていいわけがない。
若干毛色が違うとはいえ自分の力を勘違いしてイキったド素人たちが多くなって行動した結果、実際に間違えられてストレスを浴びた人間がいるわけで。
今回の私の件に関して「犯罪行為を受けたわけじゃないからいい」とは言えない。被害を受けたのはそれが犯罪行為だからではなくて、自身の心や尊厳を踏みにじられ、粗雑にされたからだと思います。
まあ、端的に言えば「ド素人が邪な理由でイキってミスして結果的に警察やら私たち一般人に迷惑かけるなよ」と言いたかったりもします。医師が負傷者に医術を施す、弁護士が法廷に立つ、警察が犯罪者を確保する等々……重みと質は違えど、いずれも責任が伴う。
盗撮犯を追いかける過程で無関係の誰かが負傷したとして、その責任は誰が持つのか。
非盗撮犯を疑い、その結果疑いをかけられた人間が怒りで暴力をふるったら?
盗撮犯を見つけても、大した準備もしないまま捕まえようとして盗撮犯が逆上したら?
盗撮犯が盗撮ハンターの映像を見て学習し、より高度な犯罪技術を手にしたら?
『私人逮捕』行動の見掛け上の敷居が低くなり、誰も彼もが積極的に『私人逮捕』行動をとるようになった世の中。それこそ無法地帯に思えてなりません。
盗撮犯が許せないならこそ、こちらは人間としての理性を保って、厳しく誠実に、もっと良い結果を求めるよう知恵を凝らすべきではないかと思うのです。
長々お付き合いいただき、ありがとうございました。
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