ランジャタイが極める笑いの純度
少し前の話になりますが、5月1日に、ランジャタイ国崎の出演した
「前人未笑」というロケバラエティ番組がオンエアされました。
この番組は、笑えないぐらい崖っぷちの状況にある人を笑顔にしようと
霜降り明星せいや、ヒコロヒー、国崎の三人が挑戦したもの。
ロケは三者別々に行われ、ターゲットはいずれも一般の人たちです。
《ランジャタイ×ロケ》の組み合わせはまだまだ新鮮で、
今年は伊藤ちゃんが角刈りになった千鳥の「相席食堂」と
「マツコ&有吉 かりそめ天国」でのデパ地下レポが思い出されます。
後者ではお馴染みの「松ちゃん〜浜ちゃん〜」や自己紹介での和牛なりすまし、
ミニ国崎ドローン芸などを披露していましたが、
千鳥・大悟と違ってマツコ&有吉にはあまり響いていないようでした。
私見ですが、ランジャタイは有吉にあまりハマっていない気がします。
というか、有吉が意識的に距離を取っているような感じがします。
世代と相性の問題だと思います。
「前人未笑」で国崎が笑わせたかった相手は
「創業140年の文房具店の歴史に幕をおろす店主」の女性でした。
明治時代から続く老舗の看板を下ろすという
苦渋の決断をした重責と大役を背負いながらも
ざっくばらんな人柄の店主と、
肩の力の抜けた国崎との掛け合いは、
過剰にドラマチックなシチュエイションを演出するでもなく
どちらかというと淡々としていました。
国崎の戦略は、大量に余っている在庫を路上で売り歩くという超アナログ商法。
しかし長きにわたる店と地元住民とのつながりに加え、
初対面の人の懐にもするりと入り込む国崎のコミュ力のおかげで
ニスやボンナイフといった使い道のわからない文房具が
二束三文の値段で売れていきます。
しかし何よりも店主を悩ませていたのは、
この店で最も高価な一品、「53万円のすずり」でした。
前半で店の奥からこのすずりが発見されたとき、
国崎は同じ事務所の先輩である俳優の高橋英樹が
書道を趣味としていることに触れていましたが、
それこそ本格的に書道をたしなむ人でもなければ
こんな高価なすずりを必要とするような機会は滅多にありません。
案の定、すずりは売れ残りました。
そこで国崎が打った一手は「僕、買います」。
しかも前述の高橋英樹さんにプレゼントする、という名目を添えて。
普段のキャラクターからして、まさか国ちゃんがという意外性は、
笑いとも驚きとも違う混乱を招きました。
それと同時に、M-1出演後のブレイクに加え、
芸人の取り分が多いことで有名なグレープカンパニー所属であるランジャタイが
順調に売れて稼ぎを伸ばしている事実を
妙に冷静に受けとめている自分もいました。
さらに国崎は、当初20万に値切った価格をその後自らつり上げて
最終的に53万の定価で買うという意味不明なボケをかまし、
番組は終了しました。
この間店主が笑顔だったかどうかは覚えていません。
しかし一連のカオスが去った後、
あれだけのことが起こっていたにもかかわらず
「ああ面白かったな」という以外には
何も残っていないことに気づいて愕然としました。
普段どんなにおちゃらけている芸人だって、
むしろ普段おちゃらけているからこそ、
いいことをしたら、「いい人」と「感動」が勝ってしまうものなのです。
それなのに、国崎の場合は、売れ残った在庫を芸人が買い取る行為が
いいことなのか、人助けなのかどうかもわかりませんでした。
だから感動も尊敬もしませんでした。
奇天烈な芸風とは裏腹な国ちゃんの社会性の高さ、
実は愛されキャラであることは、
ちょっと気をつけて見ていればすぐにわかることです。
にもかかわらず。
いい人とか、感動とか、男気とか、
芸人としての山っ気とか、アウトロー的な野心とか、
そんなものは微塵も感じさせず(感じる人はいるだろうし、
感動する人がいてもいいが、感じなくても済んだということが大事)
ただただ「ここで自分が買ったら面白いだろうなあ〜」が勝ってしまっていて、
それ以上でもそれ以下でもなかったのです。
二次的な感情や付加価値に惑わされず、純粋に笑いだけを貪れる。
何という純度の高さ。
あらためて、ランジャタイおそるべし。