日常ファンタジー小説『私の存在』2話

前回までのあらすじ
突然やってきた男に襲われた私、海谷 薫(うみや かおる)は知らない場所で目を覚ました。


手足は縛られていたものの、口は塞がれていなかった。
助けを呼ぶために声を出そうと試みたが、掠れた声しか出なかった。しかし、近くにいたであろう畑中はこちらに気付いたらしい。

「目が覚めたようですね、おはようございます。いきなりですが、本題に入らせていただきます。」
こちらの声が出ないことに気付いているのか、こちらに話す暇を与えず続ける。
「貴方をここに連れてきたのには理由があります。すみませんが、私は貴方を殺さなくてはなりません。」
いきなりの殺す宣言に思考が止まる。

「…は?」
掠れた声だったが、少しだけ声が出やすくなっていることに安堵した。
しかし冷静になってみると、かなりまずい状況である。
手足は縛られているし、仮に解けたとしても前に畑中がいてドアまで行けないし、建物の構造も分からない。

相手の事情が分かれば逃げられる隙ができるかもしれないと、とりあえず落ち着いたふりをして話しかけてみる。
「どうして私を殺す必要があるんですか?」
畑中は特に驚くでもなく、先程と変わりなく答えた。
「ある人に頼まれたからです。」
「それは聞いても答えてくれないですよね。…私には家族がいるので、帰らないと怪しまれて警察に捜索願を出されますよ?」
「それは大丈夫ですね。あなたの家族にはしばらく入院すると伝えられているはずですから。」
「…こんなことをしていたら、あなたの親も悲しみますよ。」
「私に親はいないので。」
ーダメだ。隙がない。

そう思った私は、少しだけ聞き方を変えてみた。
「もし、私が逃げたらどうしますか?」

                                                                【続く…】

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