10月号嬉野さん

生まれ持った野生と毎日の積み重ねが、それぞれの人間をかたちづくる。

『水曜どうでしょう』のD陣は〝野生の商人〟

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T木:
お待たせいたしました。それでは、第2部の方をはじめさせていただきたいと思います。改めて、ご登場いただきましょう。嬉野雅道さんとシャープさんです!

会場:(拍手)

嬉野:
よろしくお願いします。

シャープさん:
よろしくお願いします。

T木:
第1部は、嬉野さんも楽屋で聞いておられましたか?

嬉野:
よかったんじゃないですか。『どうでしょう』の革命は、IT革命なんかとはあんまり関係ないって話。

会場:(笑)

T木:
ありましたね。作り手と視聴者の方が直接繋がると、広告が入り込む余地はないというお話でした。

嬉野:
宣伝というかさ、我々は番組を作りながら、ホームページを作ってさ。日記でいろいろ書けるような場所をこしらえて、それに対するご意見というのを視聴者の方々が掲示板に書き込んでくれてって話でしょ。

あれは結局、藤やんがさ、番組のレギュラー放送が終了してから、DVDの編集に勤しんでたわけじゃない。それはもう必死でやってるわけですよ、彼は。

T木:
ええ、そうですよね。

嬉野:
それでさ、僕は毎日ね、パソコンの前に座ってさ、掲示板で皆さんと触れ合っていたわけですよ。

T木:
あれは、触れ合いだったんですね(笑)。

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嬉野:
どうでもいいようなね、昨日見た夢の話とかさ、そういうのを毎日ホームページ上で書いてたわけ
じゃないですか。

会場:(笑)

嬉野:
そうすると、なんかさ、延々と編集をやっている藤村さんがですよ、「そろそろDVDの告知を」なんて言うわけ。

T木:
あれ、宣伝媒体ですからね。
一応。

嬉野:
その時に私がさ、昨日見た夢の話みたいなね、そういうのを書いてると、ちょっとカチンとくるわけじゃないですか。

会場:(笑)

嬉野:
で、彼は日記上でね、オレに対して若干の小言をいうみたいな感じがあって。

T木:
同じホームページ上で。

嬉野:
そう。若干小言をいい、前日のオレの日記のネタの揚げ足を取ってきたりするわけ。それに対して、俺はまた翌日に、ちょっとバツが悪い感じで日記を書くんだよ。「昨日ちょっと怒られちゃった」みたいなことをさ。

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嬉野:
だから、そもそも宣伝を忘れるっていうかさ。だけど、藤やんとしては、「なんで俺は編集をやってるのに、あの人は宣伝をしないんだ」って、もっと怒るでしょ。

この双方の計画性のない本気のもつれ合いがね、繰り広げられていたわけですよ。

T木:
本気のもつれ合い(笑)。

嬉野:
ホームページという土俵上で、なんか格闘してた感じだね。

シャープさん:
それを見せるっていうのが、すごいですよね。

嬉野:
見せるという気持ちもなく、「たまたまお客さんが読んじゃった」という感じですよ。

会場:(笑)

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T木:
今のトレンドだったら、そうやって制作の過程も全部見せちゃうみたいなパターンも多いですけどね。クラウドファンディングみたいに、「みんなで一緒に作るんだ!」みたいな。

シャープさん:
そうそう。今なら割とあるパターンですけどね。

T木:
だけど、その頃は本気で漏れちゃっていたという。

嬉野:
いや、そうよ。それでも、まじめにやってるもんだから、ちょっと客観的に考えると、その状況は確かにおかしいなって気付くみたいな。

あまりにも性格から何から違い過ぎる2人の人間性みたいなものが出てたんじゃないかな。

シャープさん:
「その野生の商売人みたいなのはなんやねん!」
って思いますよね。

会場:(笑)

シャープさん:
「そういう才覚があれば」って思ってるサラリーマンは沢山いると思いますよ。

嬉野:
野生の馬とかはいるけど、野生の商売人っていうのはあんまりいないと思うよ(笑)。

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シャープさん:
中身をいかに面白く作るかっていう力は培われるじゃないですか。だけど、それをどう売るかとか、宣伝するかっていうのは、簡単には身につかないですよ。

レギュラー放送が終わった後、まずDVD制作に移行するなんて選択は、ちょっと頭おかしいなって。

会場:(笑)

T木:
藤村さんは「それしかない!」とおっしゃられてましたけどね(笑)。

シャープさん:
そこに移行するという判断は、やっぱり野生の勘があったからこそできたんじゃないかと思いますよ。

そこからさらに、作ったDVDを手売りに見えるように商売していくというのも、恐らくすごい野生的な判断だったと思うんですよね。

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嬉野:
全部、期せずしてだけどね。
DVDを発売するどころか、レギュラー放送を終えるということすら決まっていない時期に、ホームページ上で日記なんていうのをはじめていたんですよ。

その後、レギュラー放送が終わることになって、最終回に向けて番組の掲示板も盛り上がってたんです。だけど、残念ながら全国放送じゃないんで、最終回がリアルタイムで放送されるのは北海道地方だけだったのよ。

T木:
そうですよね。

嬉野:
ただ、当時は全国各地で再放送がされていて、道外でもちょっとずつ番組が知られるようになっていたんですよ。だから、割と日本中の人が見てたんだけども、再放送されているのは過去作なわけじゃない?

そうすると、レギュラー放送が最終回を迎えるということは、みんなホームページ上で知ることになるんだよ。

シャープさん:
パラレルワールドみたいな感じですね。

嬉野:
ホームページを見にきて、「この番組って、まだやってるんだ」みたいなこともあったと思うんです。

だから、すべてを意図してやってたわけじゃなくて、そういう環境だったから、ホームページ上で作り手とお客さんが期せずしてコミュニケーションをとれちゃった。

T木:
なるほど。

嬉野:
そういうコミュニケーションがあったからこそ、最終回に関しても盛り上がりがあったような気がするんだよ。それで、「本州から、最終回を見るために北海道に行きます!」なんて方も現れて。

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嬉野:
でもさ、皆さんもご存じのように、「最終回は、この日です!」って言ってたのが、終わらなかったわけですよ。内容が収まりきらなくて。

会場:(笑)

嬉野:
だけども、掲示板を見ますと、続々と「最終回を見るために北海道に来る」って書かれているわけ。こちらとしては、「本当に来るのかなぁ。最終回はまだなのになぁ」って、内心では思ってて。でも、そんなことは言えないじゃないですか。

T木:
そうですよね(笑)。

嬉野:
そういう感じでさ、あれだけの盛り上がりを見せてたところに、何の戦略性もなかったというのが正直なところなのよ。

シャープさん:
野生……。いや、本当におふたりは野生の商人だと思います。


人の心を掴む巧さのルーツはお寺にあり!

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T木:
『水曜どうでしょう』のDVDって何万本も売れているわけじゃないですか。だけど、確かにシャープさんがおっしゃっていたように、手売りされているみたいな感覚っていうのがありますよね。

シャープさん:
見え方がね。手売りしているように見えるんですよ。

嬉野:
初めてDVDを発売するとき、何万枚売れるのか分からなくてね。藤やんとは、「3万枚は売り上げ枚数あって欲しいよね」と、希望的観測で話してんだよ。

でも、よくよく考えてみると、1枚4000円ですから、3万枚売れたと計算すると1億円を超えるんだなって。その時に「3万人でいいんだね」ってことに気付いた。

シャープさん:
テレビの感覚とは全然違いますよね。

嬉野:
札幌の人口って200万人くらいですから、そこを相手にしていたテレビの感覚からすると、3万という数字は確かに手売り的な感じはありますね。

T木:
だから本当になんか、1人ずつに対応されているイメージなんですよ。

嬉野:
1人ずつに対応するっていうのは不可能ですけどね、現実的には。

だけど、僕らの中にあるお客さんのイメージに向かって、1人1人対応しているっていうところはあるのかなぁ。

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嬉野:
商品を売るってなると、実用性がどうだとか、カロリーがどうだとかっていう、売り文句があるじゃないですか。

だけど、俺は、生まれがお寺だからさ。お寺って、人が来るでしょ。その……お寺が客を呼ぶっていうのはさ、なんか詐欺に近いとこもあるじゃないですか。

会場:(笑)

T木:
語弊はありますが、近いところは(笑)。えー、えー、えー。

シャープさん:
確かなものを手に入れるわけでもないですしね。

嬉野:
そうなんですよ。それでいて、来たからといって、いいことがあるかどうかっていうのもわからないわけですよ。そういうところで、うちのおやじが人を集めていたので。

会場:(笑)

T木:
なんかお父さんは詐欺師だったみたいな感じに(笑)。

嬉野:
うちの親は詐欺師じゃないですよ(笑)。だけど、物理的な売り物じゃないものを一生懸命売ってたわけです。

シャープさん:
そこかぁ、野生のはじまりは。

T木:
ナチュラルボーンだったんですね。

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