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面白さのカギは、夢中と油断と少しの自戒。嬉野Dが考える、面白さの作り方。

還暦祝いの会場でスタート!

T木:
それでは、二部のお時間となりましたので、あっさり始めてまいりたいと思います。嬉野さんと、もう一度たらればさんのご登場です。

たられば:
嬉野さんが登場されると、一気にホーム感が出てきて。前回もそうだったんですけど、温泉に浸かってるような気分です。

T木:
嬉野さんパートは温泉。

嬉野:
そんなことはございませんよ。

たられば:
よろしくお願いします。

嬉野:
よろしくお願いします。

たられば:
あ、還暦、おめでとうございます。
(注/この日の会場になった江戸川区総合文化センターで、7月に嬉野さんが「還暦祝い」のイベントを実施、大盛況だった)

嬉野:
ありがとうございます。

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会場:(拍手)

たられば:
何か心境の変化はありますか?

嬉野:
ないでしょう。

たられば:
何もないですか?

嬉野:
トイレが近いな、とか、そういうことならありますよ。

T木:
体調の変化のみです。

嬉野:
体調の変化のみですね。

「面白さ」は、受け手の油断から始まる。

たられば:
先ほど、藤村さんにもご用意してきたような質問で、インタビュー形式で進めさせていただければなと思います。1問目、2問目は一緒です。『水曜どうでしょう』で、嬉野さんが一番面白いと思ったシリーズは何ですか?

嬉野:
よく聞かれるんですけどね。

たられば:
定番だと思いますけど。

嬉野:
面白いというか、観ていてハッピー感があるのは、1997年に放送した『北海道212市町村カントリーサインの旅』。それからそのロケのあとに初めてヨーロッパに行った『ヨーロッパ21ヵ国完全制覇』。そのヨーロッパから帰ってきてすぐ撮った『北海道212市町村カントリーサインの旅Ⅱ』。

これは観ながらにしてハッピー感がある。この人たち本当に楽しそうだなって、私が思うんです。

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たられば:
嬉野さんが撮ってるのに。

嬉野:
私が思うんですね。それって、心が開くというか、この人たちと友達になりたいなぁと思っちゃう。自分なんですけどね。自然にそう思っちゃうっていうことを、改めてDVDになったものを観て思ったんですね。

たられば:
確かに仲良さそうですもんね。

嬉野:
1997年っていうのは、番組が96年の10月に始まって、1年経つか経たないかぐらいだと思うんですよ。そうすると、何となく面白くなってくるんでしょうね。仕事なんだけどなんか楽しい、みたいな感じ。そこの開放感が見てとれますよね。

たられば:
なるほど。

嬉野:
例えばその1年後、99年にロケに行って、一番視聴率が高かった『ヨーロッパ・リベンジ』っていう、北欧に行ったんです。99年の最高視聴率を取ったのは、「ここをキャンプ地とする!」という。

たられば:
はい。名作です。

嬉野:
あれはもう、いきなり初日に山場が来ちゃったんです。人知を超えた、コントロールできない状況。もう山場が来たっていう。

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たられば:
ヨーロッパに来て一泊目が野宿でしたね。

嬉野:
そういう感じの現場で、もうここが山場ですと。それも今、見返しても盛り上がって、そっから、そこの初日で山場来ちゃったもんだから、その後それを超えるものがないじゃないですか。これはね、『ヨーロッパ・リベンジ』は、今観ても山場のキャンプ地の後は結構辛いです。そういうのがあるんです。

たられば:
探しても探しても、泊まれるホテルが見つからなかったんですよね。

嬉野:
そうです。だれかが「飯を食いたい」って言い出して。

たられば:
あ、そうだ、嬉野さんは主犯のひとりでしたよね。「食事したい」っておっしゃったひとりで(もうひとりが大泉さん)。

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嬉野:
だって立ち寄った古城にレストランがあったんですから。

たられば:
なるほど。それは仕方ない。

嬉野:
「ここで食ってきゃいいじゃない、別に」なんつって。宿なんかいっぱいあるだろうって日本人だから思っちゃったんです。でも、宿、ないじゃないですか。

たられば:
なかった。

嬉野:
そういうことがあるので、ハッピー感が全体的にあるなっていうのは、212市町村、ヨーロッパ、212市町村っていう連続ですね。

たられば:
すごく面白いなと思ったのは、嬉野さんにとって『水曜どうでしょう』の面白さっていうのは、ハッピー感なんですね。

嬉野:
僕の中では、ハッピー感っていうのは面白さにとても大事な要素
だと思うんですよ。つまり、面白いっていうのは、観た人、受け手が感じるものなので。もちろん、僕らが面白いと思ってやってるにしても、これは受け手が感じるものなので。そこにすごく重要に関わってくると思うんですよ。

それぐらい人間っていうのは、日常的に、知らない人に対して心を閉ざしてるはずなんです。

たられば:
緊張してたりとか。警戒したりとか。

嬉野:
そうです。警戒してる。心を閉ざすっていうことが普通の状態になってますから、これを他人が意識して開けることはたぶん不可能なんです。

たられば:
いきなりは。知らない人の前では。

嬉野:
例えば、たらればさんにいきなり会って、心を開かせようと僕がおどけて、面白いことをしようとすればするほど引くじゃないですか。

たられば:
確かに。目の前でいきなり。

嬉野:
ですよね。初対面でいきなり、あいさつもなくやったら怖いじゃないですか。

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たられば:
怖いです。

嬉野:
そうすると、あとは受け手の方が何か観てしまって、どこかで共感して油断していくっていう、自分で気付かない道順があって。ある時もう開いちゃってますよ。開いちゃったらもうこっちのもんで。たいがいのことは許してくれるんです。

たられば:
なるほど。

嬉野:
そういう人が今日の会場にいっぱい来てる。

たられば:
ああ、そうなんですよ。このイベントのお客さんは、たいがい心を開いている。

嬉野:
でしょう。

たられば:
さっき、僕、控室に帰った15分間で、おふたりに「今日のお客さんはあったかいですね」と申し上げたんです。「笑う準備してきてますもん」って。高座を観に来た落語のお客さんみたいなんですね。

嬉野:
落語とかっていうことで、例えば、高座に、すごく経験の浅い前座さんなんかが上がられて、笑えないっていう状況があったりするじゃないですか。往々にして、その方が落語を語りながら緊張されてるってことがあるでしょう。

たられば:
そうですよね。よくあります。

嬉野:
演じている人間が緊張しているのは、受け手にはすぐ伝わるんです。緊張が伝播しちゃうっていうんですか。逆効果なんですよ。

たられば:
わかります。痛々しい感じ。

嬉野:
だから、「面白さ」には才能とか技術とか準備ってもちろん重要な部分でしょうけども、まず第一段階として、「ここにいる人がリラックスしてる」っていうことが、受け手にはすごく重要だと思うんですよ。

たられば:
すごい。温泉の話とつながった。すごい。

自分らしさを出せる場所が、人間を集中させる。

嬉野:
例えば、藤村くんが最近よく芝居をやっていて。

『劇団イナダ組』の芝居で、終わった後に、みんなが劇場を出るじゃないですか。この劇場を出る時に、舞台には当然、そこまで見たお芝居の美術道具が置いてあるわけです。ソファがあったり、ある部屋の様子を美術で作ってる。

芝居が終わって、役者もはけて、お客さんもどんどん退場していく中で、イナダさんが「興味のある人がいたら、舞台に上がって座ったりしてみてください」っていうふうに言ったもんだから、中には舞台に上がって座る人もいるわけですよ。三々五々いるんです。それを僕は客席の一番手前で見てたんですけども、皆さんが、初めて、今まで見た舞台の客席に……。

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たられば:
上がる。

嬉野:
そう。ステージに初めて上がって「これが舞台なんだ」って。

たられば:
なるほど。

嬉野:
客席からと舞台の上からだと、見える景色が逆になるから、みんな「へえ、役者からはお客さんがこうやって見えるんだ」、とかってやってて。その油断した様子が眺めていられたんです。

これが例えば、仮に終演後じゃなくてね、本番中に誰かが、「舞台に上がってみてください」って言われたら、どうしていいかわからないんです。どうしていいかわからないでその場にいるなんていうことは、人間が一番緊張する状態で。

たられば:
そうですね。間違いない。

嬉野:
それはね、見る方にとっても、とても辛いことなんです。

たられば:
確かに、痛々しいですしね。怖いですし。

嬉野:
そういう状態に追い込まれている人っていうのは、日常でそんなに見ないはずなんです。皆さん、それぞれの人生で、誰にも注目されないながら自由闊達に生きてるわけで、その辺を思い思いに動いてるんですよ。

そこに不自然なものが挟まれると、我々はやっぱり「どうしてなんだろう」と思ってしまって、そっから先、乗っかっていけないんです。

たられば:
『水曜どうでしょう』の場合は、1年ぐらいでその関係性が。

嬉野:
いや、そういう意味では、『どうでしょう』って初っ端からそんな感じで。

たられば:
いきなり安心できるお茶の間っていう感じですか?

嬉野:
だと思いますよ。だって僕、初っ端からハッピー感ありましたからね。現場で。「ここはいいなぁ」と思ってました。

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たられば:
それは、嬉野さん自身、いきなり心を開いたんですか。それとも向こうが先に開いていたんですか。

嬉野:
いや、僕が心を開きましたね。

たられば:
まず嬉野さんが。

嬉野:
だから、それぐらい人生で、自分の気に入った居場所っていうのに、自分の生まれ育った家庭以外であまり遭遇した覚えがないっていう意識があったんですよ。私の思い込みかもしれないけど、ずっとそう思ってたんです。

たられば:
それまでは、嬉野さんはどこにいても「あれ、ここじゃないなぁ」と思ってたんですか?

嬉野:
はい、どこに行ってもそうです。仕事し始めても、さっきの話じゃないですけども、どう振る舞えばいいんだろうってことになっちゃっていました。何すればいいんだ、どうすればいいんだろうって感じで舞台に上がってる感じだから、あまり盛り上がれなかったんです。

それが『どうでしょう』の現場に行って、「お、ここはいいな」と思ったっていうのは……。

たられば:
あったんですか。

嬉野:
自分でももうよくわからないんですけど。

たられば:
思いましたか。

嬉野:
思いました。

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たられば:
それは、なんでなんですかね。藤村さんの力ですか。

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嬉野:
藤村さんの力も大きいでしょうね。あの人も言いたいことをどんどん言ってくれる人ですから、こっちも遠慮する必要がまったくない人なので。どんどん言ってくる人に対して、こちらだけが遠慮をするわけないんですよね。

たられば:
まず、「あ、この人には遠慮をしなくていいんだな」っていうのがあったんですね。

嬉野:
それがあの人のコミュニケーション
なんです。

たられば:
なるほど。それは……そういう「自然の対応」とか、それを可能にする雰囲気を作るためには、どうすればいいのでしょうか。

嬉野:
それは、オレが聞きたいぐらいの話だね。

会場:(笑)

T木:
高度だなぁ。

嬉野:
それはだって、「面白いことやってください」なんて言われて。

たられば:
そうですね。

嬉野:
なんでそんなにオレを追い詰めるんだって思うぐらいだもん。

たられば:
いま伺った話だと、オープンマインドというか、心を開くことが大事なのかなとか思ったんですけど。それはどういうきっかけでそう考え始めたんでしょうか。

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嬉野:
例えば私は、50を過ぎてから藤村くんのやってる時代劇芝居の講談とかをやるはめになって。

たられば:
新しい経験ですね。

嬉野:
私がひとりで出ていってですよ、ステージがあって、脇に講談台があって、説明するわけですよ。講談の原稿は自分で書いて用意してるんで、それはOKなんです。

ところが、みんなが舞台に上がっても、役者は衣装替えがあるのではけるじゃないですか。そうすると、私だけ残されるんですよ。50過ぎまでそんな経験ないわけですよ。

たられば:
それは辛い。

嬉野:
舞台上でひとり。そして、お客さんと一緒に何らかのコミュニケーションを取らなきゃならない。何もしないわけにはいかないでしょう。そういうことをやんなきゃいけないってなった時に、気付くんですね。自分はどういう時に緊張して、どういう時にリラックスしてるかと。

で、思いつくんです。リラックスしているのは、話しながら、言いたいことが出てきちゃう時だと。言いたいことが出てきちゃうともう、出したいもんだから。現に今、喋っていると……。

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たられば:
リラックスしてくる。

嬉野:
集中しちゃってますから。周りがどうでもよくなってくるじゃないですか。批判とかね。あと、盛り上がってくるっていうのもあるじゃないですか。その時には緊張しないんですよ。

たられば:
それが嬉野さんの考える「自分らしさを出してる時はオープンマインドになってる」ってことなんですかね。

嬉野:
なってると思うんですね。人間、人生において集中する時間を作るってことはとても大変なんですよ。でも、いったん集中すると周りが目に入らなくなるんです。

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