本日のウニ:タコノマクラ⓪親
発生から少し脱線して親個体の紹介を。
タコノマクラはみなさんがイメージする一般的なウニと違い、不正形類と呼ばれるグループに属しています。少し丸っこくてトゲトゲしている正形類のウニは五放射相称の体軸を持っており、前も後ろもありませんが、タコノマクラなどの不正形類ではその体に前後軸が存在しています。写真のタコノマクラは左側が前で右側が後ろになります。上からみるとわかりにくいのですが、ひっくり返すと肛門が後ろについているため前後の区別を明確につけやすいです。バフンウニの時に紹介しましたが、正形類では上から見たときの中央に肛門があり、その周りを卵や精子を放出する生殖孔が取り囲みますが、不正形類では生殖孔の位置は変わらないものの、肛門の位置だけ体の後方へと移動した形をとっています。進化的にはもともとウニの祖先は正形類型の体制をもっていて、不正形類はそこから生じたとされているので、前後軸を持った左右相称動物の中で前後軸を失ったグループから再度前後軸を生じるというのはなかなか不思議です。
タコノマクラはスカシカシパンやハスノハカシパンと同様にとても扁平な体をしていて、棘も短く菅足も短いため、何かに吸着するちからはとても弱いです。さらに食性も泥の中の有機物を主にとっているため砂地や泥地に多く存在していますが、時々岩礁や垂直の壁に張り付いて存在していることもあり、泳いでいて「なぜこんなところに?!」と、ビックリさせられることがあります。伊豆半島南部では個体数は決して多くはなく、探しにいっても数を確保するのは難しいです。
骨格は非常に硬く、扁平な体をしているものの、素手で半分に割ることは困難です。というかほぼ無理かもしれません。アリストテレスの提灯と呼ばれる口器は砂泥を食しているにも関わらずピカイチの立派なものを備えていて、標本をとるためにトンカチで殻を割ると皆ビックリします。ちなみに生きているときは写真のようにピンクの混じった茶色がベースなのですが、固定したり死にかけたりするとものすごい「緑色」になってきます。
ウニの仲間でありながら、刺さるような棘も持たずに、さらにタコノマクラという子供から大人まで忘れられない素敵な名前を持っていますので、海水浴や磯遊びで見つけた際には軽く手にとって観察してみてはいかがでしょうか。写真にあるように体の表面に海藻などを背負っていて見にくくなっている場合もありますので、海底や岩の隙間を目を凝らしてよく観察してみてください。意外なところにポツンといるかもしれませんよ。