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研究者って②

自由気ままで良い仕事でしょ?って聞かれることが多々あります。もちろん、複数の職業を経験したことがある人は自分も含めてそう多くはないでしょうから、他人の職業内容を詳細に知ることはなく、イメージで接するしかないのはよくわかります。そして実際にこの問いに関する答えとしては、YesでもありNoでもあります。研究者が持っている自由の実情に関して、「研究」に限定して2つほど簡単に紹介してみます。

1)締め切りがない

これが自由を表現する上でもっともわかりやすいポイントでしょう。一つひとつの項目に関して、自分が納得するまで突き詰めることができるので、時間を思う存分使って、これだ!と思える結果を得たり理論を組み立てたりすることが許されます。また、家族が病気になった場合や、自分のために休みを取って研究を先に延ばすことも自由にできます。飲み会があるからという理由で実験を明日に回すことも自由です。だって締め切りがないんですから。ただし、先延ばしの代償は全部自分に返ってきます。先延ばしにした理由は何であれ、それらは全く関係ありません。誰も同情してくれないし、業績判断も同情してはくれません。

PI(Principal investigator; 研究室主催者)の場合:実験しない→結果が出ない→論文が出ない→業績欄が埋まらない・研究業界で認められない→研究費が取れない→金銭的理由でやりたい実験ができない→結果が出ない→論文が出ない の負のループに一瞬で陥ります。一生懸命にやっていても、結果が出ない事などたくさんあって、意図せずしてこの負のループに陥る可能性もたくさんあるわけなので、実験を先延ばしにすることのメリットは、少なくとも実験科学に生きている人間にとってはたったの一つもないわけです。それでも大学や研究機関に任期付きでない職として雇用されている場合は、生活する分の給与は出るし、教育職であれば講義などで頑張る方向性はあるのですが、それで満足することは当然なく、少なくとも若い世代の研究者にとっては、研究成果が出ないことに対してなんの焦りや恥じらいも感じない人は今時いないのではないかと思います。

研究員の場合:負のループの先は、任期付きでない職へ就職できる確率が半端なく減ります。どんな大学でも学部でも、基本的には研究成果をあげる可能性が高い人を雇いたいでしょうから、皆が負のループに陥りたくないと必死で研究を進めるわけです。

学生の場合:負のループに乗る時間的余裕がそもそもなく、在学年限等の時間的締め切りがまだあり、実験しないと純粋に学位が取れないということになります。

以上が、締め切りがないことにあぐらをかいてしまった場合や、意図の有る無しに関わらず研究を先延ばしにしてしまった場合のリスクになります。この切羽詰まった自由?というのが研究業界以外の方々には理解しがたいポイントの一つであり、見方によってはさっぱり自由でないということもできます。

2)方針を自分で決められる

一般企業の場合は、究極の目的は会社を儲けさせることです。社会のため人類のためと旗を掲げても、社が儲けられなければそれらを達成することはできません。そういう意味では方針は極めて明確です。一方、研究室主催の研究者となると「何の研究を行うか」の方向性は自分自身で考え、決めることになります。〇〇研究所と名のつくところで〇〇と全く別のテーマで研究することはちょっと難しいかもしれませんが、ある程度自由に裁量が与えられている大学においてはほとんどがPIの裁量によって決まると思います。しかし、決めるということは当然責任が伴うわけで、上記1)にならないためにもすぐに成果の得られない研究をコツコツと行うにはそれなりに勇気と絶対大丈夫という自信が必要になってきます。個人的には論文等の成果をコンスタントに出して、科学発展の一端を担っていることが自他共に認められていれば、方針は本当に何でも良いとは思っています。ですから、他人が自分をどう思っているのかは別にして、自分が思う通りに研究方針を決めることができるというのは、仕事人としてはかなり自由度が高く幸せなポジションではないかと思います。

一方、研究員や学生の場合は、ラボおよびPIの方針に依存します。ラボのプロジェクトを推進したり、研究室主催者の思う通りの実験をするところもあれば、大枠のテーマを説明してあとはその枠内で自由にやってというところもあります。さらに、その枠さえ取っ払って、人に迷惑かけなければご自由にと言うところさえあります。自分自身にとってどちらが快適か、将来どのような研究者になってどのように研究を進めていきたいかなどを考慮し、研究興味とのバランスを考えて、所属先やボスを選んだら良いと思います。

これら2点以外にも、生活面で言えば居住地選択の自由があります。ポジションには競争がつきものですので100%の保証はないものの、自分が住みたい地域の公募に通れば現任地から自由に移動することが可能です。

隣の芝生は青いという言葉があるように、研究業界の外から見た研究業界の持つ自由はきっと青く見えているのかなと最近特に思います。自由を自由として扱えるレベルやポジションになれば確かに自由でしょうが、なかなかそこに行くまでは。。。というのが若手・中堅の本音でしょうか。

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