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研究者って③

今回の学術会議問題に関して思うところを少しずつ。

今回はアウトリーチについて

知らなかっただけかもしれないけれど、自分が大学院生の頃はあまり言われていなかった気もするアウトリーチ。その目的として、まず、(A) 我々研究者の仕事の多くは研究費・給与も含めて税金によって支えられているため、得られた成果を少しでも社会に見える形で還元すべきであり、一般の方々にもわかりやすく発信すべき  (B) 昨今の大学と研究環境の改革により博士が職業として魅力的でなくなってきたため、次世代を担う若者が研究者を目指すように魅力アピールの場を設けるべき という感じで意図されている存在であると思います(たぶん)。Twitterやこのnoteなどは気軽に展開することが可能なので多くの研究者の方々がアウトリーチ活動の一つとして利用しているし、私もそのうちの一人です。ただし、(A)に関しては、どんなに噛み砕いたとしても研究のバックグラウンドはとてつもなく広いので、最先端の研究情報に関しては実際には隣人の研究者でさえわからないということが多々あります。それこそを簡潔にシンプルに表現する努力が必要になってくるのですが、その努力に時間を使うようであれば一つでも実験をし、研究を前進させた方が社会のためになり、税金の使い方としてbetterとの考え方もあります。現在、こちらで公開しているウニの発生なんかは自分が関与する研究でかつ、この日本で公開する意味のあるアウトリーチの一つではないかと思ってはいますが。一方、(B)に関しては以前にTwitter界隈で研究者がnegativeなことを発信するから若い世代が研究者を目指さないんだよという意見が出たせいか、positiveな面を強調して「研究はたのしー!!」みたいなのが多めになった気がしています。それ自体はそれほど悪いわけではないと思うのですが、そればっかりでは事実と違うし、研究者を目指す「かも」という若い世代は我々より社会の流れや研究業界の良さもヤバさも認識しているので、negative/positiveのバランスを変えたところであまり影響も効果もないのではと個人的には思っています。かといって現実を正直にツイートすると「失敗」「ネガティブデータ」「育たない」「試薬が来週でないと来ない」「今日は1日論文漁り」。。。みたいな形で確かにワクワク感ゼロな雰囲気が漂うので、工夫は必要かと思ってはいます。ちゃんと楽しく研究してますよ! 

で、本題ですが、私自身はTwitterを好きなことや生き物の不思議や可愛さ、気持ち悪さや時には残酷さをそのまま出す場&少しばかりの宣伝ととらえて使っていますが、一方でアウトリーチと強く認識しているのは親戚のおじさんおばさんや、近所の方々への研究者という職業や研究とはという説明をすることです。もちろん、自分が研究者であることを触れ回って歩くような真似はしませんが、身近な方々への説明の機会があれば粘り強く説明するようにしています。大学院生の頃から親戚のおじさんに会うたびに、「おい、研究って何をやってるんだ?それが何になるんだ?」と言われ続け、その度に説明を繰り返し、でも、会う頻度もそもそもそんなに多くないため本気で10年かかってようやく「何になるかってより、それをやることに意味があるってのがわかってきたよ」と言ってもらえるようになりました。世間に蔓延している「研究=役に立つ」の牙城を崩すのは結構大変なことだと思いましたし、今でも思っています。この辺はヅマの部屋で話させていただいたのですが、世の中には役に立つ研究は確かにあって、それは大多数でも良いのだけど、その次元とは別次元で進める研究もあるんだという理解が少しでも世に広まると、我々基礎研究者はちょっと生き易くなるのかなと思っています。そしてその達成に向けての活動こそがアウトリーチの第一目的とすべきところかなと思っています。不特定多数よりも特定少数に向けてコツコツと。

今回の学術会議騒動では、もちろん政府・政治家・官僚・メディア・研究者それぞれの思惑があっていろいろな立場からの発言も記事もあるのだと思いますが、総合して呑気にピュアな感想としては、「こんなにも学者って嫌われてたの!?」ってところです。学者なんて昔からそんなもんでしょという意見もありますが、これって研究はたのしーのアウトリーチが全く機能していないことを如実に示しているし、おそらく今回反学者の意見を述べられる方々へは、研究がどんなものであり研究者がどんな人たちなのかは全く届いていないのではと思います。知っていてあえて攻撃している人もいるかもしれませんが。。。「税金使って好きなことやってる人たち」の集団だと思われてしまっては、自由度の高い研究なんて絶対にできないわけなので、普段研究に興味はないけど今回のような時に反学者・反科学側に立って大きな声をあげる層へ世間が移行するのをどれだけ減らせるかというのを真剣に考えるべきなのかもしれません。ただ、本音としては上にも述べたように、そんなところに情熱を注ぐよりは実験を一つでも行った方が社会のためになるので、大々的にやる必要はなく、学者全員がまずは親戚と近所の方々へアウトリーチしていれば良いのかなと思っていますが。

誰が良いとか悪いとか考えても仕方がないのですが、学者嫌いかつ影響力の強いコメンテーターがデマ情報を流して世論の一部を「学者は税金の無駄遣い」へと誘導してそのまま知らんぷりという点だけ本気で残念だと思います。これまで多くの研究者が様々な手で研究に関して発信してきたpositiveな面をホント一瞬で打ち砕いてしまったと思います。「世間からあんなバッシングのされ方するのなら学者なんて全然良い職業じゃない」と思う学生・生徒が少なからず出てしまったのではと危惧します。世の多くの事件でデマ情報によって犯人に仕立て上げられてつらい思いをされた方々と構図は同じです。一度起きてしまったバッシングの嵐を収めるのは大変だし、ひょっとしたら心の奥に染み付いて取りきるのは無理なのかもしれません。税金を給与としてもらっている層に対しては納税者である国民は何を言っても構わないという流れはただの憎悪しか生み出さないと思うので、きちんとした批判であれば当然噛み締めて考えるとともに、これは違うということがあった場合にはきちんと有力者が否定に回ってくれるとありがたいと思います。偉い先生がんばって!

最後に基礎研究になぜ税金が使われているのか、なぜ使わなければならないのかに関して、個人的な意見を述べます。正解も不正解もないのですが、あくまで基礎研究者としての個人の意見としては、税金を使わなければいけない理由は「基礎研究は全世界全人類の現在と未来のために行われているものであるため」ということです。その実現のために全ての国が税金を用いて可能な限り負担をシェアしているものだと思っています。基礎研究は個々の国や国民の明日明後日の糧になるようなものではないということです。これはわがままでも傲慢でもなく、そういう「仕事」なのです。目的が明確であるものや、明日までにどうこうして欲しいという研究は国のため、国民のためという研究に当たるかもしれません。また、特許が関わることによって莫大な利益が予測つく物に関しても国のプロジェクトとして研究されることに異論はありません。実際にそのような応用の側面を持った研究に関しては国内でも多くの予算が付いていることだと思います。さらに発展して、より多くのお金が生み出されることが明確な研究であれば、それは儲かるわけなので企業や投資家が放っておかないでしょう。世界中の政府が基礎研究に税金を使っているのは、儲けとは別の次元で何が大切なのかを歴史的に把握してきた結果なのです。ですから、基礎研究者にとっての究極の目的は世界人類の科学力の向上であるため、国内にポストがない、予算がないとなれば海外に流れていくというのはごくごく当然であり、人類全体の視点からみれば実はそれほど痛いことではありません。しかし日本という国からの視点で見れば、人材の流出であることは間違い無く、その不利益は「国内に専門家がいない」ということになるわけです。

各国は国益のために科学を推進していて、アメリカも中国も全人類のために科学を推進なんて考えていないという意見もあります。科学者側からもそういう意見は多いかなと思います。ただ、国益になろうがなるまいが科学的に突出した成果を得るには裾野から広げなければならないことを無意識的に認識している&予算を増やせば余裕が生まれて基礎科学にもお金が回って結果的に応用科学でも突出できるループを知っている欧米の科学界は、基礎科学に関してはいろいろな国がいろいろな視点で研究することの重要さは認識していて、日本もがんばって、アメリカもがんばるからという方向で臨んでいると思います。少なくとも私の周りにいる海外の方々の認識としては。中国も今はお金もあって科学大国になりつつありますが、昨日今日そうなったわけではなく、数十年も前から若者をアメリカに留学させて基礎も応用も関係なく科学(文化もかな?)を学ばせるという政策をとっています。当然全員がもれなく帰国して国に尽くすという保証はないものの、その内何割かが国益をもたらせてくれるという、いわゆる畑を耕す政策をきちんと行ってきた結果が実っていると見ることもできるのではないかと思います。

学術会議は直接全く関わっていないので、政府側の思惑も学術会議側の思惑もコメントする立場ではありませんが、アメリカのNational Academy of Sciencesのような政府国民からも、世界中の科学者からも一目置かれるような団体が我が国にあったら良いのになと切に願います。また、大学のポジションが予算の関係で減らされていき、特に基礎科学の研究者が若くて優秀でもなかなか職に就けないという現状がそういう団体と政府との交渉により改善していけば良いのになと思います。子供の数が減っていくという理屈がまかり通っていますが、「学問分野の数が減るわけではない」ので、お金ないからこのまま大学のポジション減らしても良いよねってなってしまうと、国内から専門家が次々いなくなってしまうことをもうちょっと国・国民として恐れた方が良い気がしています。だから我々個々の研究者はそういう面も含めて科学とは・科学者とはということを直近の方々に根気よく説明していく必要があるのかなと思っていますし、その通りに動いていけたらと思っています。そういう意味ではヅマの部屋は珍しく不特定多数へ向けて話ができる大変ありがたい機会でした。聞きにきてくださった皆さんもありがとうございました。今回の学術会議的な話題がでると、学者VS国民、学者VS学者みたいな対立軸がどうしても出てきてしまいますが、政府も納税者も研究者もみんなひっくるめて科学を推進する方向を向くことができたら、世界の不思議が一つでも多く明らかになるし、テクノロジーもどんどん進んでいく未来が見えるんじゃないかなーなんて思っています。

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