ルーティン
2024/9/21
「ちょっと散歩行ってきますね」
寝惚け眼の私にアツシ君が声を掛ける。
毎朝、家の近くを30分ほど歩くのが日課らしい。そうすることで目を覚まし、脳を活性化させるそうだ。
「あっ、台所も冷蔵庫の中身も全部気にせず使っちゃって良いんで」
「家の鍵も渡しておきますね、それとインスタントコーヒーは棚に入ってるので」
そう、彼は自宅を、まるで私の物かのように使わせてくれるのだ。
そしてこう言う。
「いつまで居ても良いですし、僕もテキトーにやるんで自由にしてください」
そうして扉を開けた彼を見送ると、私は一度起こした身体をまた倒し、白い天井をソファからぼんやりと見つめた。
はたして、こんなに居心地が良くて大丈夫なのだろうか。
居候の身でありながら、油断すると入り浸ってしまいそうだ。
「良かったら一緒にカフェ行きませんか?」
これも彼の日常らしい。
自宅にWi-Fiが無いので、カフェで10MAD(約147円)のエスプレッソを飲みつつ作業をこなし、時に思考を止めて気分転換。
散歩から戻ったアツシ君に誘われ「ぜひ」と私は頷いた。
その後、彼はジムに向かう。
週に4〜5回ほど通っているみたいだ。
曰く
態度を大きくしたいなら胸を
身体を大きくしたいなら背中を
心を大きくしたいなら足を鍛える
という言葉があるとの事。
なぜ“心は足”なのか。
私が訊ねると、単純に太腿のトレーニング、特にスクワットが一番辛いらしく、メンタルに効くらしい。
たしかに筋力トレーニングは精神衛生に効果的だと思うが、なるほど…心は足なのか…。
疎い私はなんとなく納得した。
しばらくしてジムから帰ってきたアツシ君は冷蔵庫からサッと材料を取り出し、卵、トマト、マッシュルームの炒め物を作ってくれた。
実は今朝もクリームチーズの和風パスタを振る舞ってくれている。
「せめて洗い物は」と迫る私を明るく制止し、彼はスポンジに洗剤を含ませる。
「オードリーのラジオを聞くと、ずっと作業していられる」と笑いながら。
そしてまた一休みし、夜は近所にある彼お気に入りの屋台へ。
帰りがけに商店で5リットルの飲料水を2つ。
何から何までお世話になっている私が
「ここはさすがに俺が払います」
と紙幣を取り出すと
「いえいえ、出させてくださいよぉ」
と、また笑って遮るアツシ君。
そうして家に戻ると、飲料水のタンクを私に一つ渡し
「じゃあ僕そろそろ寝るんで、気にせず好きにしちゃってください」
と、寝室に入っていった。