極上の食事
2024/1/4
午前8:00。
お世話になったイブラヒムさんに挨拶をして、私とディランは路上へ。
しかし、簡単には止まってもらえない…。
やはり男2人でのヒッチハイクはドライバーも警戒するのだろうか。
とはいえ、やるしかない。
根気良く待つこと40分。
なんとか一台目の車に乗せてもらう。
まだおよそ数kmの移動。イズミルへは遠い。
再び親指を立て、走る車にアピールをする。
そして2台目のヒッチハイクに成功。
ここで流れが完全に止まる
高速道路を走る車に止まってもらうわけにはいかない。
近くのカフェやガソリンスタンドから出てくる車にアピールしようも、その数は極めて少ない。
全然止まってもらえない…
それでも
全っ然、止まってもらえない…!
もしかして、これ
けっこうヤバいんじゃない…?
すでにブルサからは遠く離れている。
引き返すのも容易ではない。
かといって、車に止まってもらえなければ前にも進めない。
宿も無い。
しかも今夜は雨
目が覚めたところで
状況が変わるはずもない
私とディランはヒッチハイクを断念し
遠い先に見えるモスクの灯りを目指して歩く
はたして辿り着いた場所は
名も知らぬ小さな村だった
やはり、宿は無い。
モスクに泊まらせて頂けないかと考えるも、礼拝の時間しか開いておらず、不可能。
そこで、カフェのオーナーは親切にも知人宅を紹介してくれた。
しかし先客がいたらしく、断られてしまう。
どうしようかね…
マジで…
実のところ、ディランはテントと寝袋を持っていた。
しかし、それは1人用サイズ。おまけにディランは180cm以上の長身。隙間は無い。
「俺は大丈夫、レインコートがあるし、外でも寝られるから。だからディランはテントで寝たら良い」
「馬鹿げてる、あり得ない」
「……じゃあ交代で寝る?1人が見張りをして。スタンドバイミーみたいだね、知ってる?アメリカ映画の」
「いや知らないな、昔の映画?」
「そう、かなり昔の映画。不謹慎だけど、俺はこの状況を楽しんでいるんだ。だから大丈夫、君は安心して寝られるよ、俺が外で見張ってるから」
ディランは少し呆れた顔をしながら笑い、再び口を開いた。
森へ行こう
村から離れた山の奥。
ディランはヘッドライトを装着し、その灯りを頼りに小さな森の中を登り進む。
ウゥゥッ…ワンッ!ワンッ!
ワンワンワンワン!!!
野犬だ、それも1匹や2匹ではない…。
暗闇で姿は見えないが、どう考えても5匹以上はいる…!
「ディラン…!」
「大丈夫、彼らは襲ってこない。野犬は無駄吠えが好きなんだ」
野犬にもキャンプにも慣れているディランは、冷静に私を落ち着かせた。
こんな所…
1人なら絶対に歩けない…!
ライトの光も十分に届かない漆黒の森を手探りで進む…。
そして私達は小さな丘に辿り着いた。
此処をキャンプ地とする…!
「このテントで2人で寝よう」
「でも1人用じゃ…」
「手足を折り畳んで、体を小さくするんだ」
「それじゃ君が大変だろう。君のテントなんだから、気にせず1人で使ったら良い」
「そんなわけにはいかない、大丈夫だから。まずは、そうだな…腹が減ったから何か食べよう」
「ありがとう、必ず御礼するから…!」
「何言ってるんだ、御礼なんて要らないよ」
野宿は韓国でも経験したが
こんなサバイバルは旅を始めて以来
初めてだ
状況はかなり厳しいが
最高の気分…!
夜食を終えた私達は
ディランの1人用テントへ
そして手足を折り畳み
サナギのように眠る
野犬がテントに近づいて来た
ビニールシート1枚隔てたすぐ側にいる
気配でわかる
私は頭を噛まれない様
隙間の無いテントの中で無理やりうずくまり
ビニールシートから隙間をつくる
大丈夫
彼らは襲ってこない
落ち着いて
ディランが小声で再び私を落ち着かせる
いつしか野犬の唸り声が聞こえなくなると
入れ替わるように雨が降り始め
やがてそれは雷雨に変わる
音が近い
凄まじい雷鳴が辺りに響き渡る
しかし
もう大丈夫だろう
私は手足を折り畳んだまま眠りについた
翌朝に孵化するサナギの様に