将来の夢
2023/10/25
イスタンブール4日目、チェックアウト当日。
ハザーが9:00までは宿に居ると言っていたので、挨拶をしに受付へ。
時間ギリギリだったので既に退勤したかも知れないと思ったが、彼は椅子に座って眠っていた。
昨日あれだけお世話をしてくれた後の夜勤だ、疲れて当然のはず。
しばらく見守っていると彼は目を覚まし、開口一番
「マサキ…!」
良かった、元気そうだ。足の調子も戻った様に見える。
「朝食はもう食べた?」
「いや、まだ食べてないよ」
「じゃあペストリーを買いに行こう」
彼に連れられ、ホステル近くの洋菓子店へ。
イスタンブールの店は何処もかしこも洒落ている。
陳列も色合わせから積み方まで、視覚で楽しませる様に工夫されている。
ハザーにオススメを選んでもらい、レジへ。
彼はもう当たり前の様に財布を取り出し、私の分まで払ってくれようとする。
「いやいや、払うよ」
トルコ紙幣を渡そうとするが、彼は受け取らない。
「昨日も君が払ってくれたんだから、ここは俺が…」
「マサキ!オレが払うって言ってるだろ!」
彼の目はしっかり笑っていたが、初めての強い口調だった。
さながら“もうわかったから!”といった風である。
その声で昨夜の疑問が解けた気がする。
『やっぱり、厚意には素直に甘えるべき。断るのは失礼なんだな』と。
「マサキ!メタルを聴こう♪」
他のお客さんがいなくなったタイミングで、彼は仕事用のパソコンからデス・メタルを流す。
洒落たホステルの空気が一変する。
大丈夫なんだろうか…しかし、そんな事は気にしないでおこう。
彼と過ごす時間はもう残り僅かなのだ。
爽やかな朝の陽射し、穏やかな路地裏に響くブラストビート。
続いて
「これ知ってる?」
と、日本アニメのオープニング曲だという、そのタイトルを私に見せた。
【殺してやるばんざーい!】
ハザー…
その曲は知らないな…
気付くと時刻は14:00。
退勤時間を大幅に過ぎて尚、私と遊んでくれた彼を見送る。
メトロの駅まで歩く彼の足取りは重かった。
アルコールのせいではない。
ゆっくり、ゆっくりと進み、駅構内の写真展を見て回り、いよいよ改札口の前。
「また会おう」
「お元気で」
握手を交わし、改札を抜ける彼を見届ける。
そしてまた手を振り、惜しむ気持ちを振り払うかの様に背を向ける。
彼のおかげで
最高のイスタンブール滞在となった
感謝すると共に
ハザーが将来、漫画家になり
その作品を読む日を本当に楽しみにしている
ありがとうハザー!
また!