ディス イズ セネガル
2024/11/7〜2024/11/8
やべぇ…スマホが無い…!
ダカール市内中心部に向かうバスの中。
コバ君が発したその言葉に、私は即座に反応出来なかった。
超満員の車内に戸惑っていたからではない。なぜなら、たしかに彼の手には紐でしっかり繋がれたスマートフォンが……いや、スマートフォンのケースだけ…!?
まさか、どこかで落とした…?
いや、そんな事あるだろうか。少なくとも私はケースから電話が外れた事など一度も無い。
誰かが盗んだ…!?
私達がバスに乗り込む瞬間の隙に?或いは、乗車前から?
私は信じられず、状況が上手く飲み込めずにいた。何しろ私とコバ君は常に一緒にいたのだ。
もし誰かが彼のポケットに手を差し込んで、さらにケースから携帯電話を外して奪うなど…仮にそんな事が起こったならば、コバ君本人か私が間違いなく気づくはず…。
やはり
何処かで落としたのかもしれない
私達は無理やりバスから飛び降り、今まで歩いてきた道を隈なく探した。
しかし、スマートフォンは何処にも落ちていなかった。
ひとまず…仕方無くホストのハリルさん宅に戻り、その彼に事情を説明。
すると彼は悔しそうな、そして残念そうな顔を私達に向け、こう言った。
「……誰かが盗ったんだ…」
たしかに…しかし私はそれでも尚、信じられずにいた。落とした後に誰かが持ち去ったならまだしも、あの満員バスの中、一瞬でポケットの中のスマートフォンに手を差し込み、ケースから外して…!?
「奴らはプロフェッショナルだ」
ハリルさんが言う。
実は、そんな彼も先日スマートフォンを盗まれている。
以前に滞在していたカウチサーフィンのゲストも同様だったらしい。
私達は少し絶句したが、ハリルさんが警察に報告して、捜索願いを出そうと提案してくれた。
そうだ、まずはやれる事をしなければならない。現地人で、フランス語もウォロフ語(この辺りの方言)も話せる彼が一緒なのは本当に心強い。
率先してハリルさんが事情を説明してくれるが、警察は真剣なのか軽薄なのかよくわからない対応。何かと理由をつけては「あっちで対応してもらえ、いやそっちだ」と、たらい回しにされる。
やきもきするが、言う通りにする他ない。感情的になるのが一番状況を悪化させる。それを私達3人は言わずとも理解していた。
なので私達は言われるがまま、何故か私服で警察署の外にいる謎の人間(後にそれが引退した警察官と知る)にレポートを書いてもらい、それを別の警察署に提出しては再び別の場所に促され、事態が進展しているのかもよくわからないまま、その日は終わった。
“This is Senegal.”
あまりに効率の悪く、怠惰な警察の対応にハリルさんが思わずこぼす。
翌日も同じ作業の繰り返し。絶対に私とコバ君では見つけられない路上の人間に被害レポートを書いてもらっては金を払い、それを持ち込み警察署で長時間待たされたうえ、再びたらい回し。
結局、警察にはポリスレポートを出してもらえだが、スマートフォンを奪還するには最終的に自力しかなかった。
私のスマートフォンで日本のコバ君家族にも協力してもらい、GPSで位置情報を割り出し、私達はそのエリアへ。
明らかに雰囲気の悪い地域。
現地民のハリルさんがいなければ無事ではなかったかもしれない。
そのハリルさんですら、最初は此処に来ることを躊躇っていた。にも関わらず、同行してくれた彼には本当に頭が上がらない。
結局、コバ君のスマートフォンを見つける事は出来なかった。
GPSにもタイムラグがあり、場所も詳細に欠ける状態で、これ以上はどうしようもなかった。
「これがセネガルだよ」
ハリルさんの言葉が再び脳裏をよぎる。
もちろん、どの国だって良い人はいる。
美味しい料理、驚く大地、素晴らしい文化。
しかし、それだけではない。
と、当たり前の事を私も今一度、念頭に置かなければならない。
コバ君は当面の代替え機を購入し、明日はコートジボワールに向かう。
失った電話については保険対応になりそうだ。
そして私は…。