性分
2023/11/12
時刻6:00。
急遽、延泊を決めた宿の翌朝。
私は仰向けに体を倒したまま、半分閉じた目で向かい側のベッドを見ている。
そこにはバッグを幾つも並べ、ゴソゴソと出発の準備をする男性の姿。
オーストリア人のヤッコは今、自転車でトルコを旅しており、これからカッパドキアに向かうという。
彼は当初、決して嫌な感じではないのだが、少し素っ気ない印象だった。
数日前には重たそうな荷物を抱えて運ぼうとしていたので「手伝うよ」と声をかけたが
「いや、必要無い。ありがとう」
と笑顔を見せず距離を置く様子で、それを理解した私も尊重して話しかけずにいた。
ところがある日、彼は私に
「もし良かったら…荷物を運ぶのを手伝ってくれないか?」
と意外な言葉を口にし
「もちろん!」と返した私は、作りかけのインスタント麺が伸びるのも気にせず、ニコニコと自転車の装備が入った荷物を抱え、階段を上った。
それ以来、彼は私にオリーブサラダをご馳走してくれたりと次第に仲良くなり、ついに今日が別れの日となったわけだ。
「玄関まで見送るよ」
「ありがとう、その前にもし良かったら紅茶で一休みしない?」
「いいね、行こう」
そう言って宿の共有スペースで紅茶をカップに注ぎ、外のテーブルに並べる。
「今日は自転車でどのくらい進むの?」
「100kmかな。途中で昼食を取って休憩して…夕方5時には落ち着くと思う」
「寝る場所は?」
「外だ、寝袋とテントがあるから大丈夫」
「そっか。楽しそうだし、羨ましいよ」
「いやいや」
別れを惜しむ時間はあっと言う間に過ぎ、朝陽が昇った頃、彼を玄関先から見送る。
見えなくなるまで手を振り、宿に戻った私に彼から一通のメッセージが。
「言い忘れてたかも知れないけど、そんなに長く世界中を旅してる君はクールだよ!」
嬉しい言葉だ。
今後オーストリアに行く理由もできた。
楽しみだ。
さて…。
予定が白紙になり、今後を考えなければならないのだが、一度張った緊張の糸が切れた私は身が入らず、部屋でダラダラと寝転がっていた。
そこにメッセージが届く。
タカシさんからだ。
彼とは私がまだ旅の準備中、ちょうど去年の今時期に北海道・小樽市で出会って以来、色々なアドバイスをしてくれて、本当に助けられていた。
内容を見てみると
意外と1人でも
ヒッチハイクできるんじゃないかな
そして写真の添付とともに、詳しい手順やコツを教えてくれた。
タカシさんは海外で数え切れない程ヒッチハイクを経験している、百戦錬磨なのだ。
私は瞬時には緩んでいた気を取り戻せず、ひとまず外に出た。
そして状況を整理する。
『タカシさんオススメの決行日は”大安”の14日。ちょうどチェックアウト日だ』
『ヒッチハイクのポイントまではバス。その分のお金は専用カードに残っている』
『もし駄目でも、出戻りするバス代まではギリギリ足りるはず』
『ヒッチハイクの途中で降ろされて宿が無かったら、モスクかバスターミナル、ガソリンスタンドで寝床を探すか…』
『しかし、行き先を伝えるホワイトボードは韓国で失くしてしまった。せめて段ボールがほしい…』
『再び気持ちを奮い立たせるには景気付けを…しかし1本400円とはいえ、自分の為だけにワインを買うのはなぁ…』
酒代の足しにしてください!
まさか…インドを共に旅し、今は日本にいるトモヒロ君からnoteサポートが…!
もちろん、今の私の状況を彼は知らない。
だが、それを把握しているかの様なタイミングで…!
マサアキさんなら行けます!!
更に、タカシさんから追加のメッセージ…!
条件、状況、そして各方々からの援助。
まるで全て示し合わせた様だった。
これはもう…
やるべきなんじゃないか?
いや
やるしかないだろう…!
最安400円の赤ワインを抱え、その足でスーパーに買い出しへ。
韓国以来のヒッチハイク
その時も成功はしなかった
今回はどうなるんだろう
無事に辿り着けるだろうか
危険な目には遭わないだろうか
何度も書いているが
私は危険やリスクを好むタイプではない
できることなら
のほほんと平和に旅をしたいのだ
しかし
やっぱり挑戦したくなる
何か楽しい事があるんじゃないかと
ワクワクする
これはもう性分なのかも知れない
決行日は“大安”の明後日
11月14日だ
2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。