光明
2024/11/20
気がつくと宿に滞在していたインド人客は全ていなくなり、代わりにサブサハラ系の人達が大勢チェックインしてきた。
それぞれの詳しい出身国はわからないが、例えば“アジア人同士”の様に、何か共感し合えるものがあるのだろう。
今までピリピリしていた宿のムードが一変、まるで宴会の様に皆盛り上がり、楽しんでいる。
「日本人はいつも礼儀正しくて静かだけど、日本人同士が集まると急に騒がしくなる」
旅中にそう言われたことがある。
もちろん同じ境遇やナショナリティを持つ者同士は、基本的に何処の誰だって大なり小なり嬉しくなるはずだ。しかし、アジア人のそれは他と比べて確かに振り幅が大きい。
そう思っていたが宿で楽しく騒いでいる彼らもまた、日本人にも引けを取らない程の変わり様だ。
なんとなく、そこに欧米諸国とは異なる閉鎖的なマインドが根付いている気がして親近感が湧いた。あのボブも子供の様に顔をくしゃくしゃにして笑っている。
「今日のあなたは今までで一番楽しそうだ」
「それを見ると、私も嬉しくなるよ」
私がそう翻訳したフランス語を見せると、彼は何も言わず、更にくしゃくしゃな笑顔を見せて応えてくれた。
初めての和やかな雰囲気に包まれたキッチンで1人、私は鶏肉を焼き始める。フリーフードの油が切れてしまったので、焦がさない様に弱火で、肉の油を染み出させるように…。しかし、思うようにいかない。
「Oi, Oi !!」
突然ボブが私に駆け寄り、そう叫んだ。
何事かと思った私が見やると、なんと彼は大事に仕舞っていた自分の食材袋からオイルを取り出し、私に渡してくれた。
同じ宿に滞在してから毎日顔を合わせていたが、彼が自発的に私と接してくれたのは初めてだった。自分の事ではなく、私の為に。
酒で盛り上がっていたから、というのはあるにしても、彼が私に何かしてくれるとは思わなかった。
これから中央アフリカを訪れる私にとって、それは一筋の光明に感じられた。
そう、私は明日アンゴラという国に向かうのだ。ハッキリいって、今までで一番情報が少ない。それも圧倒的に。
しかし、もしかすると、そこでも楽しい人達と出会えるかもしれない。
オイルで美味しく焼けたチキンステーキと赤ワインで愉しみながら、私は少しだけ期待を持てるようになった。
まずは無事に出国、そして入国できます様に…。