駆け抜ける満月の夜空に咲く
札幌に着き、すぐさま旭川行きのJRに乗り、着いた頃にはもう夕方だった。
「今からなんだけど、どう?」
急遽連絡を取り、駆け付けてくれたのは大学の後輩。といっても、会うのは今回で2回目だ。
同じ音楽サークルだったのだが、学年が4つ離れているので学校で顔を合わせることはなく、共通の仲間を通じて知り合ったというわけだ。
それでも同じ趣味での繋がりというのは、とりわけ年齢や性別、関わる時間を越えて親しくなれたりするものだ。
趣味があることは素晴らしく、人生を豊かにする。
そんな彼とは美味しい和食を食べ、その後ずっとバニーガールの話ばかりして笑い合った。
音楽は全く関係なかった。
趣味がなくても素晴らしく、人生は豊かになるらしい。
翌朝、病院に向かう。
旅前に接種するラスト3本のワクチン。この半年で狂犬病や日本脳炎、黄熱病など計17本になる。
一度に複数打つことにはもう慣れてしまい、和やかに打ち終わった後、最後はアナフィラキシーショックの有無を確認する私のもとに、医者の先生がわざわざ待合室まで挨拶に来てくださった。
これで今回の北海道巡りは終わりだ。
昼下がりのJRに乗り、帰途につく。
買い込んだワインを飲みつつ車窓を眺め、この6日間を振り返った。
思えば今回、初対面や2度目の出会いながら強い結びつきばかりだった。
また会える事を予感させる、素敵なものだった。
これから始まる旅も、そうであってほしいと願う。
今月の末頃には1ヵ国目、韓国だ。
良い事も悪い事も沢山あるだろう。
だが数年後、無事に帰って来れた時に後悔はしていないはず。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
揺れる列車の中、夕陽がワインボトルを橙色に染める。
沈みかけの太陽に呼応するように、私も飲み疲れ、瞼を閉じてしまう……。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
……目を覚ますと車窓には晴れ渡る夜空の中
大きな満月が綺麗に輝いていた…!
3月の満月。
北米に暮らすネイティブアメリカンの間では「ワームムーン」と呼ばれているそうだ。
季節が春に向かい、土中の虫も活動を始める事から名付けられ「調整」や「平和」という意味があるらしい。
道内巡り最終日、そしてこれから、というタイミングでこんな月を観られるなんて…!
何か謂れがあるのだろうか。
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
列車はまだまだ駆け抜ける。
寝起きと酒と揺れる列車に微睡む夜
幻想的な満月が微笑みかける。
私は返事をするように、温くなったワインを喉に流し込んだ。