その先に
偉そうに語れるほど長く生きてもいないが、ツブしが効くほど若くもない。
そんな歳になる頃には、どうしても初めての事に挑戦するのを躊躇ってしまう。
「年齢なんて関係ない」
どちらかというとそう思う方である私でも、やっぱり恥ずかしい事はある。
失敗する事は何も恥ずべき事じゃないとわかってはいるのに。
ただ、計画を完遂するためには移動にいちいちお金を払っていくわけにはいかないのだ。
と、それもそうなのだが、純粋に「やってみたい」という気持ちが強かった。
どんな人と出会って、何を話すのか。
どんな感覚を覚えて、何を得られるのか。
何も上手くいかなかった時、どう思うのか。
「帯広」とマジックで書かれた段ボール紙を掲げて、生まれ育った小さな町の国道に親指を立てた。
地元だ、すぐ知り合いに見つかって「何やってんの?」と聞かれ、特に乗せてもらえるわけでもなく恥ずかしい思いをして終わる事も覚悟している。
まぁ、ダメだったら笑い話のネタにしようと考えていた。
が、結果は何と4秒で車が止まってくれたのである。
通過2台目、止まってくれたかどうか振り向いて確認する事すら忘れていた。
『あ、過ぎた車も見なきゃダメか』と首を捻るとハザードが点灯している。
『ウソだろ…マジかよ…!?』
自分で止めておいて、何とも勝手である。
急いで車に向かうと、運転手が助手席を片付けながら手招きしてくれている。
「いや〜、一回乗せてみたかったんだよ!ヒッチハイカー?って言うんだっけ?」
どうやら乗せてもらう私も、乗せてくれるその方も初めてだったようだ。
私よりも一周り以上は上の年齢である。
「俺このトシでよ、初めての経験したわ!ヒッチハイクの人乗せて走ってる今!これから世界一周するんだってよ!」
ハンズフリーの電話で何やら部下の様な人達と次々に話している。すごいテンションだ。
しかし、それを上回る物凄いテンションで息をつく暇も無く喋り倒す私。
90分の車内は会話も止まる事なく、あっという間に帯広に着いた。
「これウチがやってる店の名刺だから、夜寄っていってよ!」
実はその夜、恩人でもあるバンドメンバー家族と食事の予定が入っていたのだが、こんなご縁とお心遣いに応えない、なんて事はできるわけがない。
メンバー家族と食事を終え、なかなか酔いがまわったその足で紹介されたお店に入り、色々と食べて飲んで、お会計に向かうと
「会長から聞いていますので」
と、財布を出さずに店を出た。
タダ飯にありつけたから嬉しいのではない。
(いや、勿論それも非常に有難いのだけども)
粋な計らいのお気持ちに対する感謝も当然ある。
だか何よりもあの時
初めての経験を共有したあの瞬間
挑戦する事は素晴らしいと
「やっぱり年齢なんて関係ないわ」
2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。