ライブハウス、ダッカ

2023/9/17

バングラデシュ3日目。
この日は首都ダッカに開通した新しい鉄道に乗ろうと、宿から5km離れた駅まで歩く。

街中の商業地区から遠ざかるにつれ、道中の建物は低くなり、リキシャの数が多くなる。

鉄道駅は郊外にあり、徒歩で行くには不便な場所だ。
更にバングラデシュ人の平均収入からすると料金も高い為、この極端な大渋滞を解消するまでには至っていない。

しかし1時間ほど歩いて到着すると、なるほど、去年末に開通したばかりとあって構内はとても綺麗だ。
利用客も清潔な身なりをしていて、生活レベルの高さが窺える。



はっきりいって
私の格好が一番汚い



ライフルを持った警備員に券売機の使い方を聞き、チケットを購入。IC対応のカード型だ。
改札口にタッチさせ、プラットホームで待っていると、隣の男性に突然話しかけられる。

どこの人ですか?というお決まりの問いに日本ですと答えると、その男性はニコッと笑い、誇らしげにスマートフォンの写真を開いた。
彼はKubotaの機械系エンジニアらしい。
日本でも勿論だが、ここバングラデシュでは特にエリートだ。
嬉しそうに話す様子からは、日本に対する幾許かの敬意さえ感じられる。


そう、有難い事に親日的な態度には何度も触れてきたが、ダッカにおいて、それらと少し違うのはこの尊敬の念だ。

バングラデシュは1971年パキスタンからの独立戦争の時から今日まで、日本政府と民間が援助を続けてきた事。

また長い間、日本がアジアで唯一、欧米に肩を並べる国であったことが同じアジア人として誇りになっている事、が理由みたいだ。

国旗が非常に似ているのも、バングラデシュ初代大統領が農業国から工業国として発展した日本をみて“我が国もそうありたい”という思いによるものだという。

恐縮だが、そう思ってもらえるのは日本人として素直に嬉しい。




程なくして列車が到着。
中はエアコンがしっかり効いており、英語のアナウンスもある。
そして何より時間が非常に正確…!
1分の遅れもなく駅から駅へと進んでいく。
日本と全く変わらない。
この技術は東南アジア、南アジア、いや世界でも有数だろう。

到着したホームで、動画を撮る人が列を為すのも頷ける。



鉄道に乗ること自体が目的だったので、降り立った駅に用事はない。

だが着いたからには、と辺りを散策。
此処は政府機関が集まるエリアのようだ。

そこかしこにライフルを持った警備員が立ち、やや物騒に見えるがピリピリした空気は無い。

むしろ閑静だ。
ダッカで初めて経験した、小鳥のさえずりが聞こえる穏やかな時間。

こんな場所があるのかと、1人公園に立ち寄り、ふと思い出す。



『この感覚、ライブハウスから出た瞬間と同じだ』

自分の声が掻き消される程の爆音から離れて外に出ると、何ともいえないスッキリとした心の落ち着きを覚える。

もっと一般的に例えると、賑やかなお祭りから少し遠ざかった時の様な感覚だ。



この、理屈ではなく脳に直接作用する興奮


そして異常な喧騒を離れた時の快感



そうか




ダッカはライブハウスなのか



ライブハウスダッカへようこそ!
という、40代以降の音楽好きにしか伝わらない名台詞のオマージュが頭をよぎった。


公園の側には濁った小さな川が流れていて、その茶色い水の中を子供達はバシャバシャと首まで浸かり、楽しそうに遊んでいる。

そこに、やはりライフルを持った警備員が
「川から出ろ!」
と注意するのだが、子供達はぶつくさ文句を言いながら一旦出たかと思うと、警備の目がなくなるや否や、再び水に潜ってはしゃぎ始めた。

その純朴な様子に引き込まれて川岸まで近づくと、珍しい日本人に目を輝かせ、男の子はカメラに向かって元気にポーズをとり、女の子は恥ずかしそうにモジモジする。


『ダッカの、こんな一面を見れて良かったな。来た甲斐があった』


ほのぼのとした気持ちで鉄道駅に戻り、そこからまた1時間歩いて宿に着いた時に一通のメールが。
デビットカードの通知だ。


開いた瞬間、息が止まった。







不正な金額が引き落とされている…

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URBANRANCH
2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。