徳を積む者
2023/6/4
女性オーナーに挨拶し、チェックアウトを済ませる。
時刻11:00。
玄関でブーツの紐を締め上げる間に、もう汗をかいてしまう。
相変わらずの炎天下だ。
ただ、タイは既に雨季に入っている。
にも関わらず、突然の一時的なスコールはあれど、基本的に毎日晴れてくれた。
思えば、運が良かったのだろう。
現に、明日の夕方からは暫く雨予報が続いている。
大荷物を抱えて歩くのは少し辛いが、少しでも節約の為にバスターミナルまで歩く。
すると後方から、私を呼び止める声が。
オーナーだ。
忘れ物でもしただろうか。
貴重品バッグを確認していると、オートバイを私の横に停め、身振り手振りで合図する。
なんと、ターミナルまで送ってくれるというのだ。
有り難く、またその心遣いがとても嬉しかった。
デカいバックパックを背負いながら、シートに跨がる。
見慣れた道が、見慣れない景色に変わる。
少し涼しく感じる風が心地良い。
あれ?そういえばこれ
ハノイの時と同じパターンだ
でも、なんでこんなに気持ちが良いんだ?
あの時は最悪だったのに
あぁ、そっか
別にオートバイが恐いわけでも
荷物で腰が痛いからでもなく
結局、人を信用できるかどうかだったんだな
今はむしろ、このままドライブしたい気分だ
ターミナルに着き、遠慮するオーナーに「気持ちですから」と、チップを渡す。
彼女は日本語どころか、英語もほとんど話せず、サンキューですら言わない人だった。
それなのに、最後の最後に
「アリガトウ!」
「ありがとう!コップンカーッ!」
お互いカタコトの言葉で別れを告げる。
オートバイを走らせた直後、一瞬だけ私の方を振り返り、少し笑って、そのまま彼女は走り去った。
相手の言葉で話してくれるのは、皆やっぱり嬉しいのだと思う。勿論、私もそうだ。
時刻12:00。
バスに乗り込む。
通路を挟んで2列×2列の、よくある配置。
その窓側に指定した席に座った。
『予約の段階では隣(通路側)には誰もいなかった。上手くいけば、このまま2席使える…』
まぁ、そんな都合良くはいかない。
ヤンキー風の若い姉ちゃんがドカッと、隣に座った。
人間って面白いなと思う
なんとなく
合わないなと思う人は一瞬でわかり
相手もまたそれを感じ取る
まぁ
「そうとも限らない」
ところもまた面白いのだけど
私は窓側に、ヤンキー姉ちゃんは通路に足を向け、お互い背中合わせの様な状態でバスは発進。
すぐに姉ちゃんは彼氏らしき人とテレビ電話を始める。
着信音も相手の声も大音量。
空気の読めない会話が車内に響く。
ちっ、うるせぇな…!
タイ語なので何言ってるのか私には全くわからないが…。
そんな時間が40分程続いた後、とあるバス停で、通路を挟んだ逆側の窓側席が空いた。
気持ち悪いものから離れる様に、すかさず窓側をキープし始めたヤン姉。
よし、なんか納得いかないが
とりあえず離れたから少し楽になる…
その直後、なんと今度は力士並みの体格をした男性が彼女の隣に座る。
一人で1.7人分程はある超巨体だ。
窓ガラスと巨体に挟まれ、土俵際に追い込まれるヤン姉。
おぉっ、グッジョブ力士!
心の中でガッツポーズを取るクソ野郎の私とは対照的に、その力士はとにかく彼女を気遣い、半分お尻を通路にはみ出した状態で座っている。
その態勢で
長時間乗り続けるのはキツいだろ…
……頑張れ力士先生……!!
思うだけ思って何もしない、最低の私
身勝手な行動に罰が当たるヤンキー
何も悪くない、むしろ一番紳士なのに一番辛そうな力士
奇妙な構図が出来上がったところで、バスは発進。
すると程なくして、バススタッフの女性がヤンキー×力士ペアに近づき、何やら3人で会話を始めた。
会話は全く聞き取れないが、雰囲気でわかる
このパターンは、もしかして……
力士は席を立ち、ヤン姉は再び私の隣に戻ってきた。
やっぱりかよっ…!
痩せろや力士!!
こんなんだから罰が当たるのだろう。
私もヤン姉も同類だ。
すかさず私は睡眠…いや酔い止め薬を飲み、寝てる間に時間が過ぎる事を祈る。
ヤン姉は再び彼氏と大音量でテレビ電話を始める。
『よく考えたら、別に車内で会話するくらい何も悪くないのかな、声はデカいけど…』
そうこうしてるうちに、あっという間に眠くなる。
『やはり良く効く薬だ』
『そりゃ眠ってたら酔わないもんな』
おかげ様で残りの時間は寝て過ごし、あっという間に目的地に到着。
降りた先は
またチェンマイだ