姫病
2024/1/16
アスワン2日目。
「ねぇ、姫病って知ってる?台湾では有名なんだけど…」
「いや、知らないなぁ。それは何なの?」
「昨夜ハリーと話してたんだけど、たぶん彼は大金持ちの息子だと思う。親が世界中を股に掛けて仕事する人で、飛行機を買ったり…それで、彼はマイルのポイントで旅行してるみたい」
「飛行機を買う!?……それで?」
「彼はとても贅沢な環境で育ったから…」
「つまり姫病は、メチャクチャわがままになる事なの?」
「うん…」
そんな会話をしていると、ハリーが私達の元へやって来た。
「信じられない宿だ!朝食もイマイチだし、おまけに使った食器は自分で洗えってスタッフが俺に言うんだ!前回の宿ではスタッフが洗っていたのに」
「もおおおおおお!文句ばっかりっ…!!」
初めてナスジャが大声を上げた
「……それでハリー、今日はどうする?俺達はフィラエ神殿に行くけど…」
「……俺も行くよ」
時刻12:00。
私達3人はアスワンの名所、フィラエ神殿を目指して外に出る。
「次は?!どっちに曲がるの!?」
相変わらず彼は急ぎ足で先を歩いては、私のグループマップに頼る。
「ちょっと待って…うーん、右…だね」
「こんな汚い場所を歩くなんて!」
たしかに辺りは砂埃が舞い、ゴミが散乱している。おまけに道が入り組んでいて、地図も正確に表示されない。
そうこうしているうちに道を逸れてしまい、中心部から外れたナイル川沿いに出てしまった。
「なんだよここは!こんな治安の悪い地域の川沿いなんか危険じゃないか!」
「君が道を間違ったんだろ!」
「……ハリー、だったら君は俺達と一緒に行動する必要はないよ。自由にしたら良い」
「…えっ…??」
私はナスジャの肩に手を掛け、来た道を引き返す様に促した。
ハリーが後ろから付いてくる。
「……なぜ君は俺達に付いてくるんだ?」
「だって、君のグーグルマップが無いと俺は宿に戻れないじゃないか」
知るかよそんな事
ハリーは無言で私達から去って行った。
そうして2人になった私とナスジャは、改めてフィラエ神殿へと向かう。
島に浮かぶ神殿へはボートを使って渡らなければならない。
またも値段交渉だ。一舟往復で250ポンド(約1,250円)らしく、つまり乗る人数が多いほど一人当たりの出費が安く済む。
私達はエジプト人のグループに話し掛け、相席させてもらえないかと尋ねる。
ところが、舟商人は私達外国人と自国の人の相席は出来ないと言う。
値段設定が別々なのだろう。
平日なこともあり、なかなか外国人グループを見つけられない中、商人達の執拗な誘いを無視してようやくヨーロッパ人グループと合流させてもらう。
遺跡は素晴らしい。
空も美しく、気温も20℃前後で心地良い。また湿度が低いのでとても快適だ。
ただハリーとのいざこざや、相変わらず鬱陶しく絡んでくるエジプト人の金要求のせいでイマイチ集中できずに終了してしまった。
遺跡巡りを終えた私達は、市内を散策。
「ハリーに夜ご飯を買って帰る」
食事後にナスジャが言う。
「それとポテトチップスも買わなきゃ。昨夜に分けてもらったんだけど、食べ過ぎだって言われちゃったから…」
「……彼は何でわざわざ安宿に泊まるの?」
私が問う。
「たぶん、経験の為…」
「ふ〜ん…なんか色々と余裕が無いように見えるけどね」
宿に戻るとハリーは私達に背を向けた格好でバルコニーに佇み、1人静かにナイル川を眺めていた。
そして私達に気付くと、そそくさと席を立ち、離れていく。
結局
この日も3人で泊まる事になったのだが
ハリーが私に話し掛けてくる事はなかった