安宿の実態とカオジー
2023/8/21
時刻2:30。
真夜中に降る大雨と雷の音で目が覚める。
珍しい事ではない。
東南アジアの雨季には度々こういったスコールが発生する。
ベッド上に胡座をかき、部屋の電気をつけて
何気なく天井を見上げると
ゴ○○リだ…!
腐った飲食物が入りっぱなしの冷蔵庫
シャワー室には巨大なトッケイヤモリ
温泉と書かれた濁り水のシャワー
鍵の壊れたドア
そして今、この状況である
勿論、見たことが無いわけではない。
関東に数年住んでいた時は何度か見かけた。
しかし当時は仕事に忙殺され、ほぼ100%外食に頼り、自宅の冷蔵庫に食べ物は入っていなかった為か日常的に出くわす事はなかった。
あぁそういえば昔、千葉県の田舎で農業に従事していた頃はよく見かけたが、外だと不思議と何とも思わない事を覚えている。
とにかく、私は大半の年月をヤツが生息していない地域で過ごしてきたので、耐性が付いていないのだ。
見たくはないのだが、目を話した隙に見失うと、もう寝るどころではない。
かといって今ここで殺虫剤を噴射すると、ほぼ確実にベッドの、しかも枕元に落ちてくるだろう。
どうしたものか…
暫く考えた末、私は殺虫剤を手に取った。
覚悟を決めたのだ。
そして狙いを定め、勢いよく噴射させる。
ミストは天井のヤツに容赦なくヒットした。
そして案の定、枕元に落ちたかと思うと、そのままベッドの端の下に転げ落ちていった。
チャンスは今しか無い…!
追い詰めた私はすかさずベッド下に向け、とどめのミストを思いっ切り吹きかける。
すると、どうした事か
大小様々のヤツが数匹もがきながら
ワサワサと這い出てきたのである
私はベタな映画のワンシーンの様に両手で頭を抱えた。
部屋を変えてもらうか…。
いや他の部屋もさして変わらないだろう。
いっそ宿ごと変えるか…。
料金は支払い済みだが、この際1泊分が無駄になっても良い。
だが、そこにヤツが出て来ない保証は無い。
色々悩んだ末に
私は恐る恐るベッドを離れ
冷蔵庫に手をかけた
酒だ
酒しかない…!
冷やしておいたウイスキーのキャップを回し、まだ夜明けにも満たない、その暗く湿った空を眺め、半ば放心状態でアルコールを喉に流し込んだ。
今まで色々な宿を転々と移ってきたが、覚えている限り、此処が一番キツい…。
勿論、田舎の安宿だ。
こんな事に文句を言うつもりはない。
しかし、だからといって「しょうがないよね」と納得して割り切れるかというと、中々そうはいかないものだ。
酒瓶を片手に一口、また一口と煽る。
次第に気持ちが柔らぎ、落ち着いた時には既にヤツらは床で息絶えていた。
それをトイレブラシで外へ掃いて追い出すと、たちまち酔いが回り、そのまま再び眠ってしまった。
そして時刻9:30。
目が覚め、メールをチェックしていると、先日申請・支払いを済ませたカンボジアへのeVISA添付メールが届いた。
とりあえずは何とかなった様だ。
シャワーの自称温泉水は信用できないので、予め買っておいた水で洗濯をする。
この水で飲用から歯磨きまでしなければならないので大量に使用するが、それこそ‘“しょうがない”と割り切る。
しかし一旦気になってしまうと、どうしても探してしまう。
洗濯を終え、一息つくと同時に壁や天井を見渡す。
本当は気づかず過ごした方が良いと分かってはいても…。
そうこうしていると、タカさんから連絡が。
明日は再び合流し、共にこのチャーン島を離れ、対岸の本土にあるトラートという街へ向かう。
時間や移動手段などを軽く打ち合わせ、一段落した頃には既に太陽が沈みかけていた。
今日は実質、この島の最終日だ。
何か記念になる物を食べたいと、宿から徒歩数分の屋台を物色しに行く。
色々あったが、初日から気になっていたコレに決めた。
まさか三度タイに来て、こんなに色んな場所を巡るとは思っていなかったが、明日はその最後の街、トラート。
どんな街で、どんな事が起きるのか。
なんにせよ
虫とトッケーが出て来ない事を祈る…