国のカタチ論稿プロローグ:これまでの議論の経過等


■国のカタチを考える背景等


・コロナ禍の中で様々な課題が改めて指摘されています。新たな課題や視点も多いのですが、これまでも人口減少時代、成熟時代、人生100年時代、空家増大、インバウンド、地方創生、消滅自治体、災害日本、年金不安等と日本の将来を不安視した言葉が巷に溢れています。さらにコロナ禍で医療問題や国家の安全保障等も出ていますし、2015年に登場したSDGsも何故かこの1年ぐらいで世間の関心を集めつつあります。
これまでは人口急増への対応に終始しましたが、今後は全体のパイ減少そして他に先例がない状況への対応が求められており、問題解決の道はさらに難しさを増しています。
・今こそ、小手先の対策では無く、現状を正しく認識・共有して日本の将来を見据えた議論と目標とする日本の将来の姿を明確にすることが重要です。
・すでに明治150年を迎えましたが、もうすぐ迎える時代の転換期でもある昭和100年を記念して、各論と並行して日本の将来の姿を皆で議論し総力を挙げてまとめ上げるのも良いと思われます。
・新たな「日本のカタチを構築するには単に課題解決の視点だけでは不十分であり「想像できないことを想像すること」が求められており、それは創造力が必要です。
その意味では、1980年代後半にアップルが作成した、アップルによる将来の社会像のプロモーションビデオは秀逸でした。30年以上前にPCもスマホもインターネットも無い時代にあたかもそれらがあるような社会イメージをうまく、驚きの表現で提示していました。まさにs想像力とはこれだという感じでした。

■かつての日本の将来像に関する議論


 日本の未来像については明治時代から各分野で議論されてきました。例えば、1901年に報知新聞が「20世紀の豫言(よげん)」という記事を2日間にわたり連載しました。その中でテレビ電話、世界一周旅行(ちなみにライト兄弟の世界初のフライトは1903年)、温度調節、カラー写真等が挙げられています。なかなかの想像力で、単なる空想を超えた創造性豊かなものです。
 その後、総理府主催(佐藤栄作総理大臣)で半世紀前の1968年に明治100年を記念した「21世紀初頭における日本の国土と国民生活の未来像の設計」を課題とした大規模なコンペがあったことを記憶している方はどのくらいいるでしょうか?これは10チームが参加し、3年間かけて提案がつくられて、早大チームが最優秀賞に選定されました。当時はまだインターネットもPC等も無い時代でしたが、「ピラミッドから網の眼へ」等の示唆に富む意欲的なものでした。
 このとりまとめ役の中心人物のひとりであった恩師の戸沼教授(現日本開発構想研究所理事長)の退官の際には私共等研究室卒業生たちで日本のカタチを議論しました。この時は組織的でもなく時間もかけていませんでしたので、全員でのまとまったものではなく、個々の考えでしたが、常に将来の日本のカタチを考えていることが重要だと思っています。
 また、この課題は専門家だけで議論するのではなく、国民一人一人が自らの将来として考えるべきことです。
 明治150年に当たる2018年では、その類はありませんでしたが、内閣府は2016年に「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」を実施しました。これは毎年様々なテーマで実施される世論調査のひとつですが、各論ではなく、「日本の将来像」という大きなテーマであることが特徴でした。ただ、一般国民を対象とした選択肢によるアンケート調査であるため、日本の未来が明るいか暗いか、成長か豊かさか、将来への不安、一極集中の是非等の項目でした。
https://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-shourai/index.html

 第5次全国総合開発計画である「21世紀の国土のグランドデザイン」は、それまでの総合計画と一線を画すことで、このような名称となりました。

 その後は全国総合計画後の新たな国土計画である国土形成計画策定(平成20年)を策定し、2050年を見据えた「国土のグランドデザイン2050 ~対流促進型国土の形成~」(平成26年7月)としてまとめられました。これを基に第二次国土形成計画(平成28年7月)が策定されました。グランドデザインは成案では、前の骨子では明示されていた3つの理念は明示されておらず(趣旨は他の項目に含まれていますが)、一方で、目指すべき国土像は基本戦略の後に置かれています(ここで初めて、「対流促進型国土」が明示されています)。議論の末にこのような構成になったのだと思いますが、やはり、「理念」があり、それを踏まえて「国土像」が作られ、その実現のために「基本戦略」がある構成の方が腑に落ちるように思います。
 この間、平成23年に「国土の長期的展望」(中間まとめ)等はありましたが、日本の将来像等を正面から議論する場はありませんでしたし、中間報告のみでした。

 第二次国土形成計画策定後の2017年から「2050年研究会」※1が2年間実施されました。これは国土全体の将来像というよりは個々の分野の専門家、実務家等からの知見を得るものでした。
※1:2050年研究会
 平成27年8月に第二次国土形成計画(全国計画)が閣議決定(平成28年3月広域地方計画が8つの圏域で策定)されましたが、一方で、計画策定後も国土を取り巻く状況の大きな変化への対応として中長期の視点から、国土構造に与える影響を検討しました。以下の4つの問題意識に基づき、学識者、第一線で活躍する起業家・イノベーター等を含む様々な分野の有識者からヒアリングを行い、国土構造に影響を与えうる各分野の動向に関する知見を得ることを目的として「2050年研究会」が発足されました。これまで23回開催。
 (1) 産業の構造的な変化と2050年の経済の姿  
 (2) 世界・アジアの経済動向の変化とわが国への影響  
 (3) 人々の暮らしとライフスタイルの変化  
 (4) 地域の姿、東京と地方との関


 我が国では国土計画が策定されていますが、国土計画は一定の国土像の実現のための計画であり、これに基づいて各種の施策が講じられます。この意味では、国土計画策定毎に国土像が検討・策定されてきたとも言えますが、これはカならずしも日本の未来像や社会像とは異なる性格のものです。

 そして令和元年10月、「国土の長期的展望専門委員会」が国土政策審議会計画部会に設営されました。ここでは、2050 年までの国土の姿を描き、長期的な課題を整理するために2050 年までに我が国の国土や人々の暮らしがどのように変化しているかを調査・分析し、今後の国土づくりの方向性について議論を行うようです。
 この10年ぐらいに関連の議論が進みつつありますが、今回の委員会でこれまでの「国土の長期的展望(中間まとめ)」、「2050年グランドデザイン」や「2050年研究会」を踏まえて議論されるようですが、将来の社会像等を明確にすることが期待されます。計画は目標を実現するためのものですので、目標が長期に亘る普遍性があることが望まれます。

 また、国土像と並行して、首都圏将来像も検討されたことがあります。石原知事時代に東京の将来計画を策定するにあたり、首都圏全体の長期的な検討、2050年の社会像をイメージする必要があるとの考えのもとに検討されました(メガロポリス構想として発表)
 その検討のお手伝いをしましたが、なかなか、困難なものでした。
 その理由は端的に言うと「想像できないものを想像する」ことが求められるからです。すでに間近に予想されることは長期的な目標とはなりません。したがって、50年後の生活像・社会像を求めたのです。当時の各分野のしかるべき専門家数十人に、分野別の長期展望そしてそれが社会・生活にどのように影響し、何が起こるのかをヒアリングしました。
 しかし、結果は当時の時点で予想されること以上のものは出されませんでした。要は個別分野の専門家であることとその成果を使いこなした将来のライフスタイル等の社会の将来像の想像は別物だったということです。
 特に問題だったのは我が国の将来像の想像(本来は「創造」)に必要な国際関係、経済・金融の将来の予想が誰にも出来ないことです。確かに国際情勢は複雑さを増すばかりであり、人種・宗教・経済・文化等の複雑怪奇な集合体ですので、例えば、紛争等は簡単には収まらないことは誰にでも分かります。それでも、中世以来の様々な状況を踏まえて一世紀後には一定の安定的な国際社会が構築されているのか否か、同時に経済環境は国際的に均衡し始めているのか等を知りたいところです。結果としてどのような国際社会になるかまで分からなくても100~200年後もいつまでも紛争は続き、貧富の格差は縮まらないとの予測があれば日本人の生活像もそれを反映し、外交、軍備から外国人受け入れ、町の作り方、経済政策までそれに応じたものになるでしょう。
 ということで、当時は専門家による社会像はあきらめて、ヒアリングをある程度参考にしつつ、国民の生活スタイルを複数想定して、これをもとに一般都民と専門家にアンケート調査を実施しました。ここで設定した生活スタイルは現状を伸ばして、各分野での考えられる範囲での影響を加味したものにとどまりました。
 また、前提条件でもある「人口などの予測値」自体も課題です。人間の創造力、想像力は大したものですが、数量的な推計値は簡単には出せませんし、科学的に予測できるものはできるだけその値などを参考にしたいところです。
 首都圏レベルでも幹線道路や鉄道等の整備により人口の配置がどうなるかはなかなか想像できません。これは専門家が算定する必要があります。これもピンからキリまであり、単に現状を延長するものから、因果関係を反映したものまであります。少なくともインフラ整備と土地利用、地価等との相互関係が反映されなければ推計値としては意味がありません。これには均衡型のモデルであることが不可欠ですが、ほとんど使われていません。当時、私共はそのモデル自体も開発したため首都圏の人口配置を予測しつつ、議論ができました。
 もちろん、推計値をそのまま使うのでは計画にならないので、その値となる原因を探り、必要・可能であれば予測値を変えるべく計画、政策を立てることになります。
 今後、将来像や社会像を検討するには上記の経験から、前提となるような各種予測値はできるだけ共有すること、そして、正確な手続きで算出することです。地方創生でも人口研の推計値をベースにして消滅都市等と騒がれましたが、本来は新幹線網、航空路線網、高速道路などの整備条件を反映した人口予測でなければ議論の材料としては不十分です。
 そして、分野別に議論することはするとしても社会像を「創造」することが重要です。

<参考>関連の計画等

 日本の国土に関する計画として全国総合計画、国土形成計画、そして、その他、国土強靭化計画、ソサイエティ5.0*、明日の日本を支える観光ビジョン等が策定され、その中で、将来の日本の姿やあり方等について議論されています。
 全国総合計画や国土形成計画では策定時の目標があり、それが国土の目指す姿の役割を果たしています。「地域の均衡ある発展」から「対流促進型の国土形成」まで、ソフト的ハード的なものまでそれぞれの時代の認識を表してきました。
<これまでの国土計画>

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