カジノ再考(1)(横浜を事例に)
■はじめに
カジノ法案が成立して5年以上が経過しました(統合型リゾート(IR)整備推進法案(通称「カジノ法案」:特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)が2016年12月に、実施法(特定複合観光施設区域整備法案)、ギャンブル等依存症対策基本法が2018年7月に成立)。
法案が出される前から賛否入り混じって議論は続いていましたし法案審議中は日本中で話題になり、論争になりましたが成立後はいくつかのカジノ導入自治体が出てきたものの、今やほとんど話題にはなりません。
コロナ禍以前から観光立国を目指している日本はすでにオーバーツーリズム問題も発生し、今後、人口減少時代において、これまで以上に観光業は重要になると思われますがカジノも念頭に置きながらコロナ禍の影響も含めてインバウンドを地方創生に活かすことが重要です。
今年の横浜市の市長選挙が終わってからでもと思いましたが、選挙を契機に今、「カジノを再考」していたいと思います。
■横浜市長選挙とカジノ
横浜市選挙(8月22日)では現職の林市長(自公の推薦、2009年から3期)の対抗馬として自民党衆院議員の小此木八郎氏(元国家公安委員長)が立候補しました。記者会見で「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致」を「市民の理解を得られていない」こと等を理由に「取りやめる」と発言したことで物議を醸し自民党内部はもちろん市民の間でも混迷状態です。
小此木氏は菅首相の盟友でカジノ管理委員長として肝いり政策を進めてきた方です。一方、現林市長はそもそもカジノには乗り気ではなかったのですが当時の菅幹事長(現総理)の後ろ盾のもとに当選しましたが、菅氏自身が現職の林氏の再選に難色(多選回避、体調不良等)を示したため、自民党は他の候補を選定せざる得なくなりました。
本件で菅総理は現閣僚から主要政策であるカジノ誘致(IR誘致政策)を否定されたことになります。
■カジノ法の成立
長年の懸案であったカジノの実現のための「カジノ法」(総合型リゾートIR:Integrated Resort)は いつのまにかオリンピックでのインバウンド対策と併せて議論されるようになり、一部の反対運動はあるものの関連業界や誘致する自治体では賑いましたが一般的には、もうひとつ盛り上がりに欠けているように思います。
カジノの導入については私も複数の自治体での導入検討の業務を実施しましたが、自治体としては、海外事例の整理や経済効果は当然ですが、どうしても「依存症の懸念」、「マネーロンダリング対策等」のネガティブな面の実態把握と解消策に終始してしまうことが検討課題の中心となりました。
海外の事業者からの提案も持ち込まれますが、当然、事業者としての立場からのアピールとなります。長年、多くの自治体や国で導入関連の検討をしていますが、パチンコ業界との関連もあり、カジノ導入の目的と効果等が明確にされていない面があります。
■カジノは誰にとって必要なのか
カジノはかつてのリゾート法時代にも話題になりましたが、本格的には東京都で石原知事が臨海副都心での「お台場カジノ構想」(1999年)を打ち上げたことから大きな話題となり、その後、全国各地でカジノの誘致合戦が行われました。
当時は国家戦略特区の目玉として打ち上げられた国内のフジテレビ、三井不動産、鹿島建設、日本財団のグループ等とともに、海外からも主要な大手運営者達がお台場を中心とするエリアに広大なIR構想を提案し、ビデオ等を活用してプレゼンしていました。ただ、臨海副都心ではすでに大半の土地利用が決まりつつあるので大規模IRでのカジノ導入は実質的には難しい状況でしたし、肝心の東京都サイドでの誘致意向は低減していたと思います。
世界的にはカジノが無い国が少ないので日本にもあって良いと思いますが、誰にとって、何のために必要なのかが明確になっていません。地域振興の視点からは政治的に受けるテーマでしょうし、すでに導入を希望している自治体や運営関係企業はそれぞれの思惑(これも怪しいものですが)がありますが、一般国民は本当に必要としているのでしょうか。
海外旅行に出かけて、多くの国民がカジノをある程度経験していますが、果たして、魅力を感じているでしょうか。カジノの典型と言われる「テーブルゲーム」を楽しめそうにはありませんし、スロットマシンならパチンコ屋でも十分だと思います。ちなみにスロットマシンは当たったら、引き換え券が発行されるのでそれを換金するものであり、硬貨がジャラジャラと出てくるのではないので面白みはあまり感じられません。
一方で海外の運営者からみると海外の大規模なカジノの大半は実は停滞気味であり、新たな市場を模索しています。その中で、全く白紙であった大きな市場である日本への進出には大変熱心です。
■日本のカジノが注目される背景とは?
我が国にとってカジノはどうしても必要な機能とは思えませんが、カジノは世界の大半の国で許容されており、あってはいけないものでもないためカジノ法があること自体はある意味、自然かと思います。従って、法制化に反対する意味は無いと思います。
IR(統合型リゾート)についてもかなり以前から話題になってきましたし、単発の施設の集合体ではエリア全体での魅力づくりができないため複数の施設・機能を統合したものにすることは当然の取り組みだと思われます。 カジノはその中の一部(施設の面積的には)ですが、「カジノを軸としたIR」と「そうではないIR」とはかなり構成も運営も異なると思われます。
カジノ法は海外のカジノ運営者からも強い期待がありましたし、成立後、多くの海外運営者が各自治体へ提案をしています。実は東京都において石原知事がカジノ構想を提唱した際には海外の主要カジノ事業者から具体的な提案がもちこまれていました。
カジノの運営は独自のノウハウが必要であるため、事業運営が可能な事業者は世界的にも6社程度しかありません
世界中でカジノが展開している中で海外の事業者が我が国のカジノに関心を持つ背景は下記のとおりです。
◆世界的にはカジノは衰退産業である
世界のカジノの規模(粗利益ベース)は約18兆円、上位3都市で約5.4兆円です。日本のパチンコ業の総売り上げは約20兆円ですが、粗利益ベースで約4兆円です(その他、景品交換手数料等)。さらに、公営ギャンブルの売り上げは約6兆円ありますので、右肩下がりとは言え両方で実質的なギャンブル大国でもあります。
海外ではすでにカジノは普及しているため、新たな市場への参入機会を模索している中で、カジノが禁止され、未整備の日本に着目し、カジノ開放を要求してきました。日本では公営ギャンブルが普及し、パチンコも含めると膨大なギャンブル的支出がされてきましたのでそれを取り込みたいとの意図がありました。
◆大都市が主要対象である
海外諸国では大規模なカジノは首都などの大都市には立地していません。代表的なラスベガスも砂漠を一から開発しました。NYやワシントンにはありません。パリやロンドン、フランクフルトにもありません。
カジノは本来的に大都市向けの機能ではないため、これまでは世界的には大都市にはありませんでした。
ところが我が国では首都である東京をはじめとして大阪、横浜等の巨大都市が候補に挙がっています。もちろん、沖縄、苫小牧、若山なども立候補していますが、海外のカジノ事業運営者は当然、インフラが整備されていて、大きな商圏を抱える大都市圏が効率的ですので大都市に関心があります。
◆地方のインバウンド需要も狙う
カジノへの投資は1兆円レベルと言われています。海外事業者は大都市のみならず、インバウンド需要にも関心があると思われます。カジノだけを目的にするのではなく、併せて、全国での観光目的を有する顧客を期待していると思います。観光立国を標榜してインフラ整備や各種支援方策を講じつつある地方の観光需要は高いため、これらの獲得も念頭に置いています。本来は国内の関連業界や自治体が対応すべきですが、海外運営者は大資本と海外での運営実績を活用して、散在している各地の資源の観光資産化を図ることが可能と考えていると思われます。海外ファンドが温泉等を買収していますが、この一環かもしれません。
このことは我が国にとっても良い面はありますが、先に良いとこ取りされることが懸念されます。
■カジノの効果とは
大規模なカジノの運営者は世界的にも限られています。例えば、ラスベガス・サンズ(Las Vegas Sands)、MGMリゾーツ(MGM Resorts)、シーザーズ・エンターテインメント(Caesars Entertainment)、SJMホールディングス(SJM Holdings)、ウィン・リゾーツ(Wynn Resorts)、ギャラクシー・エンターテイメント(Galaxy Entertainment)、ゲンティン・グループ(GENTING Group)等です。これらは世界中で大規模なIR展開の中でカジノも運営し、膨大な利益を得ています。
カジノ立地の効果としては経済面で数兆円等と言われていますが、日本のパチンコの市場は減少してなお20兆円規模です。海外のカジノの売り上げをすべて計上しても同額レベルにすぎせん。
また、諸外国のカジノは実質的には約7割がスロットマシンの売上といわれています。スロットマシンは日本ではすでにパチンコ業界で導入され、実質的には換金もできます。テーブルゲーム(海外に行くからこそでしょう)は日本人にどの程度馴染まないと思われるため、国内需要がそれほどあるとは思えません。また、大半を海外からのインバウンド需要に依存するとして、果たして海外の老舗カジノを超えてわざわざ多くの国からカジノのため訪日するのか、一体どのような環境になるのか等見通しにくい状況だと思います。
IR全体の中でのカジノの面積規模としては数%ですが、収益的には過半数を占めると言われています。
IRの施設整備費や従業員の雇用面、そして、世界からの集客による消費力は確かに膨大ですが、利益の大半は運営者である外国企業が得ることになるでしょう。さらに、IR全体へは誘致の条件として膨大な補助金の投入や優遇措置が適用されるでしょうし、土地も公有地の低廉な借地が想定されます。 しかも、経営が下降すれば、さっさと撤退すると考えられます。即ち、本当に効果があるのは海外で収益性が低下して新たな市場を求めて進出してくる海外の運営者達だと思われます。
カジノ再考(2) 目次
■市長の誘致容認からの動き
■カジノ反対の動向
■新たな提案等
■横浜市のウォターフロント開発の在り方
■インバウンドの方向とカジノ
■日本でのカジノの将来
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