平成の都市開発を振り返る(その3)
■2000年以降の都市開発動向
バブル崩壊後は東京の都心部等においても低未利用地が散在・増加し、都市開発の圧力は減少しましたが、それ以前から取り組まれてきた大規模開発は着々と進んでいました。その結果、区部中心部では2000年代にはかなりの大規模開発が竣工しました。
代表的な都心の大規模ビルや大規模開発は下記のとおりです。
2000年前半まではそれまでの取り組みが実現化したものですが、2000年前半のITバブルが限定的であったこともあり、その後は経済が低迷することになりましたので、その起爆剤として改めて、都市開発事業を経済対策として位置付けられました。
これを法制度化したものが「都市再生特別措置法」でした。
■都市再生特別措置法の制定経緯と経過
上述したように2000年に入っても多くの大規模開発が竣工しましたが、バブル崩壊以降、低未利用地や不良債権となった不動産が大量に発生していました。同時に東京都人口が転出超過でしたが、96年からは転入超過となり、人口増となっていました。これは都心部の地価が低下したためですが、当時はこのまま、転出が続くとみられていました。しかし、各分野での予想に反して(実は当然でしたが)増加に転じたこともあり、不動産の不良債権化が日本経済の再生に大きな障害となっているとの認識と併せて、この機に都市の再生を図る機会として位置付けるとの考え方が出てきました。
同法が成立した過程そして運用による改正を振り返ると下記のとおりです。併せて、都市開発関連法制度も改正されましたが、必要に応じて付記したいと思います。
小渕政権の時代は低未利用地の発生が問題になるとともにこの機に都市の再構築をすべきとの思惑もあり、経済の再生を図るための「経済戦略会議」(H10.8 )が設置されました。同時期に日銀の「ゼロ金利政策」が開始されました。
ここで、「日本経済の再生への戦略」が答申されました(H11.2)。これは経済再生を主たる目的にしたものですが、そのためには「土地本位性」からの脱却により、21世紀型の金融システムを構築するとし、不良債権化した不動産の処理を重要課題と位置付けています。
この中で、日本の都市は、これまで震災、戦災等の大きな不幸を経験しながら21世紀目前に未だに多くの負の遺産を抱えているという認識のもとに、「都市構造の抜本的再編、居住・商業機能の回復に向けた土地の有効利用を不良担保不動産等の流動化と一体的に推進して、情報・環境・バリアフリー・国際化等の都市の構築に向けた国家戦略を策定するために下記が挙げられました。
① 首相直轄の「都市再生委員会」を設置すること、
② 都市構造再編推進協議会を各地域ごとの設置
都市再生委員会の総合プラン推進を効率的に促進し、行政執行をサポートする組織です。構成主体が保有する低未利用地や担保不動産に関わる情報を一元化し、税制上の措置や規制緩和等を緊急的に行う。また、再開発資金の調達主体として「特定目的会社(SPC)」の設立をする。
③ 再開発事業促進のための法制度の整備等
政府が地方自治体に対し強力なリーダーシップを発揮し、「高層住居誘導地区制度」等の規制緩和措置を積極的に活用し、土地の高度有効利用を促進する。都市計画地方審議会の弾力的開催や都市計画決定手続の柔軟性を確保すること。各種容積率移転制度の要件緩和、利用促進等を進めること。都市計画の線引きについて廃止又は縮小を視野に入れて見直すこと等。
④ 優良不動産の流動化・証券化の促進
⑤ 土地流動化のための戦略的パイロットプロジェクトの実行等
国公有不動産の有効活用を図りつつ、未来都市型パイロットプロジェクト推進のための総合的施策。
ここで指摘している「土地本位性」からの脱却はある意味正しいのですが、そもそも、価値のない土地を担保にしていただけであるため土地本位的な金融が破綻しただけであり、ここでいう都市開発事業等が適正に実施されればそれらは十分な担保となり得ることになります。
以上の答申等を踏まえて、森内閣時代に、今後の都市構造の在り方や実現方策について、「東京を21世紀にふさわしい魅力ある都市として再生する」ための「都市再生推進懇談会」(東京圏)が開催されました(平成12年2月)。
主要な検討項目は
・社会経済情勢の変化に対応した都市構造再編のあり方
・都市再生に向けた都市の土地利用の誘導方策と都市開発事業の進め方
・都市再生を進めるに当たっての国、地方、民間の役割分担
等です。
また、委員には経済団体や主要デベロッパーも参画し、東京圏における具体的なプロジェクトについて検討がされました。
森内閣では、「緊急経済対策」(経済対策閣僚会議)(H13年4月6日)のにおいて、具体施策として「都市再生、土地の流動化」が挙げられ、その中で「都市再生本部」の設置と環境、防災、国際化等の観点から都市の再生を目指す21世紀型都市再生プロジェクトの推進等が謳われました。
都市再生本部はこれに基づいて、同年5月8日に閣議決定されました。(その後、平成14年6月1日に都市再生特別措置法が施行され、都市再生本部は法に基づく組織へ移行しました。)
都市再生本部は同年5月には「都市再生プロジェクトに関する基本的考え方」を示し。同年8月には東京湾海域における基幹的な広域防災拠点の整備など第1次決定がされました。
これらの動きを踏まえて、小泉内閣時代に「都市再生特別措置法」が制定(平成14年4月)されました。併せて、関連する都市計画法、建築基準法、都市再開発法が改正されました。
同法は従来の公共事業のような税金投入ではなく、規制緩和を軸にした民間資金の導入を図るものでした。
このため、都市計画・金融等諸施策が集中的に実施される、早期の実現性が見込まれる、波及効果が見込まれる等の方針の下に、「都市再生緊急整備地域」が55地域指定されました。
都市再生緊急整備地域では、各種規制緩和措置、民間事業者による独自の都市計画提案制度、無利子融資等の金融支援措置等が適用されました。また、都市再生緊急整備地域のうち、当該都市の国際競争力強化の拠点とする上で実現性、具体性等の点で十分な地域を「特定都市再生緊急整備地域」とし13地域が指定されています。さらに、都市再生緊急整備地域内において、既存の用途地域等に基づく用途、容積率等の規制を適用除外とした上で、自由度の高い計画を定めることができる都市計画制度である「都市再生特別地区」も設定されました。
◆都市再生緊急整備地域及び特定都市再生緊急整備地域の一覧
政令指定都市や県庁所在都市等が対象となり、これらの多くが、その後、事業化されています。東京区部では他にも多くの開発・再開事業が進展しており、当時、マスコミでは2003年問題等と供給過剰を問題視して事業化を危惧していましたが、杞憂に終わりました。オフィス需給の〇〇年問題は常に数年ごとに繰り返されますがその根拠はないものです。その都度、私は問題は無いとの見解を出してきましたが問題有りの方が常に紙面を賑わすことになります。ちなみにバブルを煽ったといわれた1985年の国土庁によるオフィス需要推計(首都改造計画)も実は過大ではありませんでした。
■都市再生特別措置法制定後の改正状況
同法が制定された後も時代の状況を反映して、逐次、改正されましたので、主要なものを紹介します。
◆都市再生特別措置法の改正経緯
出典:都市再生の概要(国土交通省)に筆者が加筆
都市再生特別措置法の制定趣旨である民間の活用、規制緩和等を時代の要請に応じて一層拡充してきています。
平成16年、17年は主に「まちづくり交付金」関連ですが、これは自治体が定める都市再生整備計画に掲げられた所定の事業に対する包括的な補助金であり、同法に位置付けられ平成16年に施行されました。その後、平成22年度より社会資本整備総合交付金に統合され、同交付金の基幹事業である「都市再生整備計画事業」として位置づけられています。
また、平成16年には「街なか居住再生ファンド」も導入されました。これは非常に使い勝手の良い投資資金でしたが自治体サイドに不動産証券化への理解が不十分であったことや地域に不動産証券化に関連する専門家が居ないことなどから岩見沢市等での素晴らしい事例はありましたが、全体としての利用実績が少なかったため、予算措置が無くなりました。これは本当にもったいないことです。補助金ではない新たな公的資金の使い方として有用でしたが、地域での受け入れ能力が低いため活用されませんでしたが、近年ではようやく地方都市でも官民連携ファンド等の組成も見られるようになってきました。
平成21年の改正では地域住民・企業等が主体となったまちづくり事業・活動を推進するための無利子貸付制度や協定制度が創設されました。まちづくり会社等への資金支援は有用であり、さらに、NPO等による都市計画提案制度も創設されるなど従来から懸案であった地域のまちづくり活動を支える手だてが整備されました。さらに歩行者ネットワーク協定の創設は地域の施設の一体的利用や管理を可能としました。
平成24年の改正では都市の国際競争力の強化という課題に対して「特定都市再生緊急整備地域」が創設されました。
平成26年改正では改めて、コンパクトシティが都市政策の大きなコンセプトとなり、この実現のための立地適正化計画に関する制度が創設されました。コンパクトシティはそれ以前から、時間的コンパクトか距離的コンパクトか、また、コンパクトの効果測定そして既存の出来上がった都市に対応可能か等の議論がされてきました。着目された背景は当時、人口減少やインフラ整備負担等が新ためて大きな問題となっていたことであり、そのために関連制度が創設されました。
コンパクトな市街地とは何かは結局、各都市の成り立ちや特性等を考慮した姿となるものです。従って、「ネットワーク型コンパクトシティ」等の表現も使われました。「コンパクト」はその新しい都市構造のスローガン的な言葉として位置付ければ良いのであり、それぞれの都市構造実現のために立地的適正化計画を策定し必要な資金を獲得すれば良いと思います。ただ、なかなか、将来の都市構造そしてその実現のためのシナリオが出来ていないのが実情かと思います。
平成28年改正では、「都市の国際競争力・防災機能強化」「コンパクトで賑わいのあるまちづくり」等の推進のために国際的ビジネス環境等の整備推進、エネルギー供給ネットワーク等の構築、公園占用の特例や低未利用地の協定制度等の活用を活用した賑わい創出や維持管理の実施が図られました。
直近の平成30年改正は都市の内部で空き地・空き家等の低未利用地が時間的・空間的にランダムに発生する「都市のスポンジ化」への総合的な対策です。
(1) 都市のスポンジ化対策
[1]低未利用地の集約等による利用の促進
1)「低未利用土地権利設定等促進計画制度」の創設
2)都市再生推進法人(まちづくり団体等)の業務に、低未利用地の一 時保有等を追加
3)低未利用地を商業施設等として確保する土地区画整理事業の集約換地特例
4)3)の制度に基づく土地区画整理事業への都市開発資金の貸付け 5)市町村による低未利用土地利用等指針・管理についての地権者への勧告
[2]身の回りの公共空間の創出
1「立地誘導促進施設協定制度」の創設
2)「都市計画協力団体制度」の創設
[3]都市機能のマネジメント
1)「都市施設等整備協定制度」の創設
2)誘導すべき施設(商業施設、医療施設等)の休廃止届出制度の創設
(2) 都市の遊休空間の活用による安全性・利便性の向上
1)公共公益施設の転用の柔軟化
2)駐車施設の附置義務の適正化
3)立体道路制度の適用対象の拡充
以上が同法の改正と概要ですが、毎年のように都市再生を巡る多様な課題に対して迅速に必要な施策を提示していると言えます。
ただ、平成30年改正の背景である低未利用地の利活用等についてはバブル直後にも大きな課題でありましたし、他の改正も過去に対応してきた内容の拡充が多くなっています。
特別措置法による機敏な対応は効果的ですし、同法の他、規制緩和の面では内閣府を中心に「国家戦略特区」のようにさらなる総合的・直接的な方策が講じられています。
■やる気になれば地方都市においても適正な不動産投資は可能です
都市再生への課題に対するメニューは相当整備されてきました。民間企業は都市計画を提案することが可能ですし、NPO等も公共施設を運営管理もできるようになっています。数十年前には制度上できないと言われていたものがかなり可能となっています。
都市再生は今後とも大きな政策課題ですが、大都市圏においては着実に整備されていると言えます。一方で地方都市は政令指定都市においても苦戦しているのが現状です。このような状況だからこそ、不動産コンサルタントの出番ですが、地方都市においては需要面で厳しい面があることもありますが、関連の多様な都市再生に関連する諸制度を十分に理解していないことも大きな問題です。都市再生特別措置法にしても上述したように関連法制度とともに毎年のように改正されて、使い道は広がっていますが、これらを理解し、地権者、金融機関そして行政と連携して事業化できていません。
既存の物件を仲介しているだけの不動産業者が多くなっていて、真に住宅や都市の価値を向上させられていません。確かに、都市再生の課題は多様であり、それらへの対応のための法制度も多くの省庁に関わり、多様で複雑ですので簡単には咀嚼できないことは確かです。
本当のプロとして不動産投資をコンサルティングするのであれば、関連法制を理解して駆使するとともに、さらに必要・有効な諸制度を提案してくことが必要です。
大手デベロッパーはさすがに対応していますが、非常に限られていますので、全国での都市再生の課題をカバーすることはできません。
地方での都市制裁の課題は多様ですし、それぞれ独自の背景を有しています。歴史的資源、自然資源、産業資源等の特徴ある資源を背景に、不動・建設関連企業や地域金融機関は行政と協働し、法制度を十分活用して、新生地方都市を構築して欲しいものですし、十分可能だと思います。