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漫画感想文-宝石の国 市川春子【資料編③】

※最終13巻までのネタバレを含みます。

2012年10月から2024年4月まで『月間アフタヌーン』(講談社)で連載された。人類滅亡後の地球(とみられる惑星)で戦う宝石たちの物語。最終13巻が2024年11月21日に発売され、先日読了したので感想を書きたいと思う。感想を書くにあたって自分なりに情報整理を行いたく、今回は宝石の国、月についてまとめる。勝手な考察を含みます。

『強くてもろくて美しい、戦う宝石たちの物語』のコピー通り、とても美しい物語です。

この国の成り立ち

この星は六度流星が訪れ、
六度欠けて 六個の月を産み 瘦せ衰え
陸がひとつの浜辺しかなくなったとき
すべての生物は海へ逃げ
貧しい浜辺には不毛な環境に適した生物が現れた
月がまだひとつだった頃 繫栄した生物のうち
逃げ遅れ 海に沈んだ者が
海底に住まう微小な生物に食われ 無機物に生まれ変わり
長い時をかけ規則的に配列し結晶となり
再び浜辺に打ち上げられた
それが我々である

『宝石の国』第一巻第一話フォスフォフィライト/
この国の成り立ち 序文

ちなみにこの”この国の成り立ち序文”はアニメ第一話からは省かれている。

今われわれが見ることのできる月にしても、巨大隕石衝突説が有力とされており、地球が誕生する前に火星ほどの隕石が衝突し、二つに分かれたうちの大きい方が地球で、小さい方が月だと言われている。

https://www.nao.ac.jp/gallery/weekly/2016/20160628-4d2u.html

フォスたちの暮らす星を便宜上地球と呼び、我々の暮らす地球と同一のものと仮定するが、月と呼ばれる衛星は六個であるため、「六度流星が訪れ」の「六度」の中には、我々が月と呼ぶ衛星が誕生した最初の隕石のことも含むのだと思う。

フォスたちの暮らす地球は、ひとつの海とひとつの陸地で成っている。唯一の陸地は丘と呼ばれ、北緯45°12′38″東経3°18′01″に位置する。今の地球で調べるとフランスの県北部に位置するブリウドという都市に当たる。古い名をBrivaと言い、「橋」を意味するらしい、というのを知ってものすごくゾワゾワきた。

渡ったら橋は燃やして

『宝石の国』第十二巻第九十七話夢/アユム博士の発言

丘は砂嘴に似た地形で延長はおよそ14㎞。地形も「橋」に見えないこともない。
明確な四季があるが、好天の春と秋は短く、夏は熱風で乾燥、半年近くは積雪と流氷に閉ざされる冬である。夏は60度、冬はマイナス70度なので、温度変化に鈍い宝石でなければ生きていけない過酷な環境と思われる。20種類ほどの昆虫と、30種類ほどの植物の生息が確認されている。

現在の地球では、高緯度に位置する大陸内陸で年較差が大きいという気候上の特性を持ち、例えばシベリアも1年のうち半年以上積雪で覆われるそうだが、夏期20度、冬期マイナス50度で年較差は70度。

https://www.metsoc-hokkaido.jp/saihyo/pdf/saihyo45/saihyo45-084.pdf

フォスたちの暮らす星は度重なる隕石の衝突により、地軸のズレ、惑星直系の縮小、大気組成の変化などが起きているものと思料する。エクメア曰く「濃い大気」で月人は苦手としており、地上に降りる際はなるべく息を止めている。一方で自転周期公転周期はあまり変わっていないのではと思っている。そうでないと”1万年”の重みがピンとこなくなっちゃうもんね。

この国の仕事

  • 戦う

  • 医務

  • 戦略計画

  • 服飾織物

  • 意匠工芸

  • 武器製作

過酷で役立つ仕事は自分の存在に疑問を抱かないためのよく効く麻酔です。

『宝石の国』第一巻第二話シンシャ/ルチルの発言

この作品において仕事や仕事観というのは根幹をなすテーマのひとつだと思っているので、資料編を終えて感想を書く中でも触れていくつもり。

アドミラビリス族に伝わる伝説

この星にはかつて にんげん という動物がいたという
この星が五度欠けた時まではしぶとく陸に生き残ったが
六度目にはついに海に入り 魂と肉と骨 この三つに分かれたという
わが種族アドミラビリスはそのうちの肉だと伝えられている
生殖と死を細やかに繰り返しながら知を重ね紡ぐ特性を受け継いだとされる
一方骨はほかの生物と契約し長い時を渡る術を身につけ陸に戻った
魂はついに清らかな新天地を得 再興のため
肉と骨を取り戻すべくさまよっている

『宝石の国』第二巻第九話魂・肉・骨/ウェントリコスス王の語り

アドミラビリス族には、宝石たちの国は不死の美形の国とも伝わっている。「魂はついに~」の部分については、エクメアいわく”早とちり”であって真実ではないとのこと。

ウェントリコススの「あのイケメンの苦労が窺えるわい」という発言、イケメンって金剛先生のことだと思って読んでたけど、もしかしなくてもエクメアのことですか。

収集した宝石たちを砕き滑らかな粉末にして置き均し飾り付けた星。

都市は月内部からせり上がる特殊な金属と鉱油で作られており、鉱油は夜溶け出し、朝再び固まるので街は毎日少しずつ形が変わっていく。星そのものの物質組成は地球と似ている。

誰の祈りも得られないまま月に座礁し変容した人間の魂の集合体が月人である。はじめ月人は6つの月を覆うほどおり、不老不死を楽しんだ後、金剛に人間の関連種と認められ、日に若干名分解された。長い順番待ちのため、魂の組成をもとに順位付けされ、今残っているのは最下層の人々。

にんげんについて/エクメアの証言

人間はかつて存在した生物の一種で鉱物生命体の祖でもある。「死」を迎えると肉と骨は星に還り、魂は肉体から放出されたのち分解され純粋な魂の元素となり宇宙のある一点に辿り着き、そこから別の宇宙へ吸い込まれる。ここまでは観測ができていた。
別の宇宙とは永遠の無で満たされ何者にもならない安寧の世界と予測されている。そこに向かうには純粋な魂の元素でなくてはならず、生きている別個体の人間の祈りが必要。

多くの人が考察している通り、仏教やインド哲学の究極の目的である「解脱」と「輪廻」の関係に近いと思われる。エクメアが月人に与えたいと言う「自由」も「解脱」に近そうだ。けれど別個体の人間の祈りが必要というのがどういうことかよく分からない。
仏教等に関する知識があまりないので、浅学ですが、大乗仏教では煩悩がなくなると仏のさとりを開くことができるらしく、その仏はすべての人を救うために衆生済度の活躍をなされるらしい。別個体の祈りが必要というのは、他力本願を待つということなのか?

所感

今回は原作資料に記載のあること以外にも、調べたことをもとに勝手な考察も入れていたので所感として書くことは特にないが、次回からは時系列整理を行いながら感想を書いていきたい。アニメ第一話を見てみたら、動いている宝石たちが良すぎて良すぎた。

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