『AXIS には往けない』歌詞解説#2
万願寺卍BURNINGの楽曲、『AXISには往けない』の歌詞解説の続きです。1番のBメロから2番のBメロまでです。#1はこちらから。
曲はYouTubeで聴けます。
アサクラ大佐
まずアサクラ大佐って誰だよっていう話ですが、突撃機動軍海兵上陸戦闘部隊(以下、海兵隊)司令、つまりシーマ・ガラハウの直接の上官にあたり、ほぼ設定のみで登場するキャラクターです。容姿は出典によってバラツキがありますが、口髭を蓄えてヘルメットを被った小太りの中年男性という風貌をしています。作中でのアサクラ大佐は脇役以前のチョイ役でしかないんですが、ともかくシーマ様とは因縁の深い人物です。
アサクラ大佐は部隊司令ではありましたが遙任してほとんど前線には出ず、シーマ様が司令代行として指揮を取っていたので海兵隊は通称はシーマ艦隊、シーマ海兵隊と呼ばれていました。シーマ様の生涯を決定づけることになった事件がブリティッシュ作戦でのコロニー落としへの関与なんですが、のちに戦犯指定される要因にもなったいわゆるコロニー潰し、毒ガスによるコロニー住民の虐殺の実行部隊となったのがこの海兵隊だったんですね。
とはいえブリティッシュ作戦とかコロニー落としとか言っても、そもそもファーストの本編中でもほとんど描かれていないので、まず一年戦争初頭の戦況推移とともにそのアウトラインを要約します。宇宙世紀の基礎リテラシーですね。
以上が一年戦争緒戦の経過で、ジオン公国軍側からみると①〜④の一連のシークエンスがブリティッシュ作戦となります。シーマ様が関与して戦犯指定の対象となったのは主にボールドで記載したコロニー住民へのNBC兵器の使用のところです。NBCというのは要はNuclear=核、Bio=生物、Chemical=化学のことで、いわゆる大量殺戮兵器ですね。
サイド一つあたりには凡そ36〜40基のコロニーがあり、3つのサイド全てのコロニーにおいて化学兵器が使用されたわけではないと思います。でないと一週間戦争に参加したほとんどのパイロットは戦犯指定されていたはずです。南極条約締結前のこの時点でのザクの標準兵装は戦術核装備のザク・バズーカで、各サイドのコロニー攻撃に使用されたのは主に使用されたのは核兵器だったと考えられます。毒ガスじゃなくて核兵器だったら戦犯じゃないのかという気はしますが。
ブリティッシュ作戦はスペースコロニーに動力として核パルスエンジンを設置して地球への落下軌道に移送し、地球連邦軍本部ジャブローを戦略爆撃するという規格外に規模の大きい作戦です。
そもそも全長42km、直径6.4kmに及ぶコロニーのような大質量の物体を移動させる動力の設置自体が巨大な土木作業であって、コロニー建設用の重機から発展したMSの存在を前提としなければ短期間では不可能です。早い話が巨大人型兵器であるMSを大量投入してコロニーの外壁にエンジンを半田付けすることによって僅か1日で作業を終わらせることが可能になったと言えます。
当然のことながら連邦軍による抵抗も予想されるので、この作戦の成否自体が如何に早くエンジンの設置を終わらせてコロニーを落下軌道に乗せるかにかかっていたはずです。実際それでもティアンム艦隊の抵抗によってコロニーが崩壊して当初の目的を達することができなかったし、また再びコロニー落としを企画したルウム戦役では、設置作業に従事したMSが連邦軍艦隊の攻撃によって甚大な被害を受けたため、作業を断念して艦隊戦に作戦目標を転換せざるを得なかったわけですから、時間との勝負が作戦の要だったことを作戦司令部も強く意識していたと思います。
開戦時のサイド一つ当たりの平均人口は13億人程度といわれ、この推計は地球人口が約110億人という数字とも適合的です。ということはコロニー1基あたりの人口は約3,000〜4,000万人程度となり、ブリティッシュ作戦に徴用されたアイランドイフィッシュ内部にもそれと同程度の数の住民がいたと考えられます。作戦上、アイランドイフィッシュは無傷で制圧し、速やかにエンジンの設置作業を終える必要がありました。そのために戦術核による外部からの攻撃ではなく、毒ガスで内部に住む数千万の住民だけを一気に殲滅するという戦術が採用されたと考えられます。
シーマ海兵隊
そういうわけで、ブリティッシュ作戦でのの化学兵器の使用についてはアイランドイフィッシュを対象とした局所的なもので、全てのコロニーに対して行なわれるような大規模なプロトコルではなかったと考えられます。実際のところ公国軍内部でもこれは機密扱いだったらしく、そのことがのちにシーマ様にとって非常に不幸な結果をもたらすことになります。
シーマ様自身は催眠ガスだと伝えられており毒ガスだとは知らなかったと証言していますが、化学兵器の使用自体が機密扱いで不確かな情報しかなく、GGガスが使われたという説、U.C.0085の30バンチ事件でティターンズが使用したG3ガスだったという説、あるいは腐食性ガスのようなものが使用されたらしき映像史料もあり、未だに定説をみません。一部の公国軍指導部以外に詳しい経緯を知る者がいなかったために、一般には毒ガスの使用は正規の作戦行動ではなく海兵隊の独断で遂行されたと認識されるようになりました。
これにはアサクラ大佐を含む指導部が戦犯行為を指示した事実を隠蔽したこと、公国軍人たちが不名誉な戦犯行為自体を嫌悪して正規の作戦であることを否定する心理が働いたこと、海兵隊が“外人部隊”であったために公国軍内部に差別感情が存在したことなどが背景にあると考えられます。
穿った見方をすれば、“外人部隊”であるシーマ海兵隊を化学兵器使用の任に当てたこと自体に公国軍首脳の意図が感じられます。有体に言えば始めからスケープゴートにする目的でシーマ海兵隊をアサインしたのではないかということです。さらに推測を重ねれば、シーマ海兵隊はコロニー潰しを目的として設立された部隊だったのではないかとさえ思えてきます。
そもそもコロニー国家であるジオン公国軍に海兵隊ってどういうことだよという疑問があります。海兵というのは海軍に配備された白兵戦部隊である陸戦隊などを原型として、接舷戦闘、艦船の臨検、港湾の警備などを担当していました。旧世紀に行なわれた第二次世界大戦の際にノルマンディー作戦や南太平洋諸島における対日戦で大規模な強襲上陸作戦が行われるようになると、米軍では海兵隊が陸海空軍から独立し、航空爆撃や艦砲射撃などの支援行動を統合した強力な強襲上陸作戦を遂行する専門部隊として位置付けられるようになります。シーマ海兵隊の正式名称も海兵上陸戦闘部隊です。宇宙における上陸戦闘とは、恐らくスペースコロニーを対象としていると考えられます。つまりシーマ海兵隊は対コロニー戦のために設立された部隊だったと考えるのが妥当だと思います。そう考えれば、シーマ海兵隊がマハル出身者、つまり元コロニー公社出身者を中核として構成されていたこととも付合すると思います。
一年戦争当時のシーマ海兵隊の編成は不明ですが、宇宙世紀0083年のデラーズ紛争当時にはザンジバル改級機動巡洋艦リリーマルレーンを旗艦として、ムサイ級軽巡洋艦の後期生産型が5〜7隻程度、海兵隊仕様のMS14-FゲルググMが30機程度と言われていて、3年前の一年戦争当時にはおおよそ大隊規模の部隊だったと思われます。この海兵隊仕様のゲルググMの標準兵装がMMP-80マシンガンという実弾兵器だったということも、海兵隊が対コロニー戦部隊だったことの傍証になり得ると考えられます。
連邦軍でもリボーコロニーに配備されたジムコマンドの兵装がブルパップ・マシンガンだったように、貫通力の高いビーム兵器は隔壁などへのダメージが大き過ぎるために、コロニー内戦闘を想定する部隊には連邦でもジオンでも実弾兵器が配備されたと思われます。ゲルググはジオン公国軍で初めてビームライフルを標準兵装とした機体だったにも関わらず、海兵隊仕様機では実弾兵器を標準としたのも、海兵隊が対コロニー戦部隊という位置付けだったからだと考えられます。もっともゲルググが実戦配備されたのは一年戦争末期になってからなので、この時期に対コロニー戦を想定した兵装が必要だったのかという疑問はありますが、往々にしてその類の齟齬をやらかすのもジオンにありがちなことではあります。
またデラーズフリートに参加したシーマ艦隊の星の屑作戦における任務は、移送中のスペースコロニーの奪取、いわゆるコロニージャックと、奪取したコロニーに核パルスエンジンを設置して地球への落下軌道へ移送することでした。恐らく一年戦争でのブリティッシュ作戦においても、海兵隊はエンジン設置の任務に就いていたものと思われます。この辺り、エギーユ・デラーズ中将もただ単にシーマ艦隊の戦力だけを当てにしていたわけではなく、対コロニー戦のエキスパートとしてのケイパビリティに期待していたと考えられます。
話は前後しますが、アサクラ大佐とシーマ様にはもうひとつ因縁があり、シーマ様の出身地であるマハルを徴用したソーラレイ計画、この作戦の指揮官もアサクラ大佐だったんですね。
アサクラ大佐の所属はキシリア・ザビ少将麾下の突撃機動軍だったはずなんですが、どういうわけかギレン・ザビ総帥直裁のプロジェクトとの関与が深かった。ブリティッシュ作戦にしてもソーラレイ計画にしても、こういう軍事作戦とも言い難い規格外のことを考えるのは大概ギレン総帥なわけですが、NBC兵器の使用もどうもギレン閣下の発案だったんじゃないか、というかこういうことを考えるのはギレン総帥しかいないと思います。キシリア少将は陰険ではありますが、もう少しスケールが小さいというか、こういう歴史的な大量虐殺みたいなことはやらない気がします。
ブリティッシュ作戦での化学兵器使用とソーラレイ計画、どうもアサクラ大佐はジオン公国軍におけるギレン総帥が思いついた危ない案件の担当だったんじゃないかと考えると、この人物もやや気の毒にみえてくる感じがしないでもありません。もうひとつ、ブリティッシュ作戦とソーラレイ計画、この2つの共通項はスペースコロニーを兵器に転用することでした。
もはや妄想ですが、この2つの作戦に深く関与していたアサクラ大佐も、実はコロニー公社の出身者だったんじゃないかなと。アサクラを技術大佐と記す史料もあり、前線に出てこないのも元々技術者だからと考えればさらにしっくりきます。もしかしてアサクラ大佐とシーマ様はコロニー公社時代から上司部下の関係で…みたいな因縁がさらにあるのかも。ないか。
また大分長文になりましたね。Siek ZEON.