目の前のスーツケースが邪魔だ。
わたしの、ではない。
となりの、ものだ。
着席のわたしの膝と顔に当たる。
ジャマ
ジャマ
ジャマ
ジャマ
ジャマ
もう限界だ。
足で押す。
戻される。
手で押す。
戻される。
思いっきり押す。
思いっきり戻される。
押す、戻す、押す、戻す、押す。
こちらが力を入れるほど、
強い力で戻ってくる。
わたしは境を越えることも、
拡張することもできない。
繰り返すだけの10分間。
ついに、
押しても頑として動かなくなった。
新宿駅まで、
あと5分。
わたしはついに行動を起こした。
負けたのだ。
離席してドアのそばに立った。
振り返ると、
ヤツがいる。
#極短小説