昔の随筆

片付けをしていて、昔ある小雑誌に連載していた

文章の原稿が出て来ました。恥ずかしながら、

掲載させて頂きます。いつもの文章より、長い

駄文ですので・・・


「子犬のセーター」

彼の両親は大反対でした。甥がどこからか、子犬を

拾って来ました。「どうせ世話が出来ない」「きっと

直ぐ飽きてしまう」こう反対されながら、甥は子犬を

抱きしめて立ちすくんでいます。

{よしそれじゃオジサンと、一緒に世話をしようか}

私が助け舟を出しました。すると大喜びで、犬を入れる

段ボールを探して来ました。牛乳を温めて飲ませる甥を見て、

少年時代が蘇りました。

あの時子猫を拾ってきた私を助けてくれたのは、祖母でした。

しかし悪戯の過ぎた猫は、再び両親に捨てられてしまいました。

泣きながら夜道を探し回った、とてもつらい記憶が有ったのです。

ですから毎日犬に話しかけ、世話をする甥を見るのはうれしい

事でした。

その年初めて木枯らしの吹いた朝、子犬は突然死んでしまいました。

甥が起き出す前に、庭の片隅にそっと埋めました。

さて何と話そう・どう慰めようかと思案していると、甥がやって

来ました。私の話を意外な程静かに聞いた彼は、大きくため息を

付いただけでした。家族一同胸をなでおろし、その日は過ぎて

行きました。

翌朝犬を埋めた場所に、甥が座り込んでいます。驚いて見に

行くと、何と自分のセーターを埋めようとしているのです。

{どうしたの?}と聞くと、大粒の涙を浮かべながら「だって

子犬が寒いと、かわいそうだから」との答えでした。

私も一緒にシャベルで土を掛けていたら、涙が溢れました。

それから二人で「もう泣くのはよそう」と約束して、涙目の

顔を洗いました。

バスケットに夢中の甥は、20歳の長身の青年となりました。

今でも彼の好きな色は、あの冬のセーターの色なのです。