サンタクロースはおばあさん 1
昔の随筆からです。
天気予報の「ホワイトクリスマスになるでしょう」
と弾んだ声が、ラジオから聞こえて来ました。
朝からのみぞれ交じりの雨が、雪に変わったのは
23日の午後でした。
雪がうれしくて外に出た私は13歳中学生でした。
その時傘もささず、緒の切れかかったサンダル履きの
おばあさんが目に入りました。思わず駆け寄り{どこへ
行くの?}声を掛けた私に、少し髪の乱れた人は
何も答えません。
慌てて玄関に走り、そこに在った祖母の傘と長靴を取り
{これを履いて、傘も使ってね}遠慮するのを、無理やり
手渡ししました。
雪が激しくなる中を、トボトボ歩いて行く後ろ姿を不安な
気持ちで見送りました。
家に入って家族にこの出来事を伝えました。特に祖母には
{お気に入りの長靴と傘、ごめんね}すると常にも増した
笑顔で「お前が良い事をしたのだから」頷いてくれました。
その夜は中々眠れませんでした。一つには、あのおばあさんが
心配で。もう一つには、祖母の傘と長靴の事で・・・
雪が降ったので、辺りは音を吸われ怪しい程静かでした。