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【超短編】死ぬにはいい日

私が傍にいたとて、何もできなかったと思う。
でももしも、居るだけでも良かったのなら、私はやはり後悔したい。

親友の自殺。

彼女が自ら望んで死んだのなら、安堵するばかりだ。そう思って過ごしてきた。ところが私に宛てた手紙が発見され、未開封のまま、送られてきてしまった。私にはとても不釣り合いな、可愛い、ピンクの花柄の封筒。家族へ向けての手紙は無く、私宛てだけだったそうだ。余計に、安堵が撤回されそうで怖かった。

“唯一の親友へ”
ざっと目を通してみると、五枚くらいの便箋のうち四枚は、今までの感謝、思い出で埋まっていた。私はただ怠惰に時を過ごして居ただけなのに、彼女の人生においては深い意味を持った出来事ばかりらしかった。もっと大事にすれば良かった。

“今日はとても最悪な日でした。”
最後の三行ほどに差し掛かり、初めて親友が死んだ日が、何の日だったか思い出した。親友と会う約束をして居た。けれど、会えなかったんだ。彼女が死ぬほうが早かった。
“詳しいことを思い出すだけで消えたくなる、最悪な日でした。”
“死ぬにはいい日だと思います。”
“でも、生きたい。”

嗚呼。
私は泣き崩れた。彼女は生きたかったのだ。望んだ死では無かったのだ。今更に気付いて、痛くて、ただ会いたくて、私は最後の一文に目を通す。

“貴女に会いたい。”

私はその手紙を裏返して、徐に言葉を書き殴る。
マンションの最上階。飛んだ。

“私も君に会いたいよ。”

宜しければ。