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【書く】傷跡

朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より
お題:傷跡


左腕に無数の傷がある。自分でつけたやつ。
たぶん、もう、一生消えない。

はじめて切ったのは五年ほど前。その一番はじめの傷が消えていないから、もう消えない気がしている。
でもそれでいい。このぼろぼろでくたくたになった左腕が、また綺麗でまっさらな右腕みたいな状態に戻るのなら、私が部屋の隅でこぼした涙は、一体全体何になったのだ。あのとき私が沢山傷付いた時間を、誰が思い出してくれようか。

十八歳になった。
十八歳になってからも、沢山傷付いて、その心の傷を可視化するように、沢山腕を切った。
ここ数ヶ月は切っていないけれど、たぶんまたやる。むしろ、切っていないことの反動で、悪化する可能性のほうが高い。

半袖は着られない。
アームカバーをつけていたけれど、地元に帰ったとき、大好きな飲食店に忘れてきてしまった。

半袖、着たいなあ。ノースリーブも、着たいなあ。
おしゃれすること、大好きだから、着たいなあ。
でも世界がそれを、許してくれない。

腕を切った私が悪いと、言うひとがいる。
そんなとき、私は昔の弱っちい私を庇うように一歩前へ出る。
「この子に腕を切らせたのは誰だ」
「この子に腕を切ることを選ばせたのは誰だ」
と叫びたくなる。

十八歳になって、成人年齢になって、それから切った傷は、私が悪いと言われても納得する。

だけども、未成年だった私が、学校に居ることも家に居ることも強いられて、そこに在ることを否定するくせに、いなくなるとまた否定されて、ただひっそりと傷を逃すために、選んだ小さな戒めは、確実に私の悪ではない。
大人に守られるはずの少女が、大人から罵られ、傷付けられ、暴力を振るわれ、自分の心にもう、傷付く場所がなくなったから、腕に傷をうつした。そうすることで、心に、“まだ傷付いても痛くないスペース”を生み出していた。

何故って、その少女は生きたかったから。
悔しくて、情けなくて、生きて、生き延びて、笑ってやろうと思ったから。

消えない傷は、傷跡は、少女の存在証明だ。

宜しければ。