【超短編】結婚しよう、できないけど。
二八歳か。
誕生日を過ぎてからやっと自覚が湧くタイプだ。私は昼飯の弁当を広げながら思った。
「山本先輩、遅くなりましたがお誕生日おめでとうございます!」
慕ってくれる後輩の声に、ここは職場なのだと思い出した。つい昨日の誕生日を思い出し、曖昧に返事をする。もう二八。二八か。
「二八歳になっちゃったよ」
ぽつりと言葉が溢れた。
「わぁ、そろそろ結婚とかしちゃいますか!?」
「結婚ね……」
私は今頃我が家で在宅ワークをしている恋人を思い浮かべた。彼女はーー嗚呼、そうなのだ。私たちは女同士である。
彼女とは大学のときに出会った。それまで恋人なんていたこともなければ恋すら他人事だった私が、彼女を見ているとどうしようもなくいじらしく、不器用だけど優しくてお茶目で、この人の隣に立ちたいと思った。告白して暫くし同棲を始め、それからもう三年は経っただろう。
彼女は素敵な人だ。朝起きたときのおはようも、いってらっしゃい、おかえり、お疲れ様、食器を洗う音や二人分の洗濯物の重さ。二人で横になるベッドの大きさ。時々サプライズで冷蔵庫に入っているロールケーキ。その全てが大切な彼女とともにあるもの。その日常が好きだ。
「ただいま」
玄関のドアを開けて中に入る。子犬のようにぱたぱたと駆け寄ってくる彼女が可愛らしい。
「さやちゃん、おかえり」
彼女に呼ばれる名前の響きが好き。大事にされている、大事にしてもいいんだと思えるから。
「みゆき。話があるんだ」
ジャケットを脱いで声をかけると、みゆきは夕飯をテーブルに並べるのをやめてソファーに座る。
「結婚しよう。できないけど」
私が言うより先にみゆきが言った。
「私、さやちゃんと家族になりたい。例えば私が病気にかかったとき、家族しか入れない病室にさやちゃんがいないのは耐えられないよ」
私はずるずると言葉を引きずる。そんなことはできないのだ。私たちは女同士だから。
「みゆき。それは無理だけどパートナーシップで我慢し…」
「なんで我慢しなきゃいけないの!?」
ハッと顔を上げると彼女は泣いていた。
「テレビでね、同性婚の話し合いで、また話題が流れていったのを見たの。そしたら涙が止まらなくなって。私何か贅沢なこと言ってるかな?大好きな人と家族になりたい、それだけの、男女の間なら成り立つ幸せの権利を望んでるだけなんだよ、幸せって平等にあるもんじゃないの?私たちは女同士だから幸せになれないの?」
「そんなこと……!」
「同性婚を認めても、今ある男女には何も影響ないじゃない。ただ同性同士婚約できるだけ、幸せになれる人が増えるだけ。何がだめだって言うの…!?」
彼女のまつげがキラキラと透けて、皮肉にも綺麗だと思った。
軋むソファー。ただ彼女の泣き声が響くリビング。初めてここへ来た日も、まだありありと思い出せる。こんなに一緒にいるのに、家族とは見なされないのは悲劇かもしれない。
「さやちゃんも二八歳だよ…いつまで待てばいいんだろう…?」
みゆきはそう呟き俯く。
「私は死ぬまで諦めないよ」
ぐっと力を込めて彼女に言った。彼女は涙を拭きながら笑った。
「愛してる」
嗚呼、BLもGLも恋愛物語。他と何が違うと言うのだろう。
当たり前の幸せを選ぶ権利を、全員に。私たちは確かにここにいるのだから。
最近スランプかもしれません。スランプと呼べるほど元が良いものではなくて、出来ないがさらに出来なくなっただけなのですが。同性婚認められますように。
宜しければ。