パーカッション機材視点から振り返る、杉本ラララ ワンマンライブ「死ぬほど生きる」スリーピース編② 〜狐の嫁入りスペシャル(前編)〜
2023年9月27日に開催された、シンガーソングライター杉本ラララ氏のワンマンライブ「死ぬほど生きる」
岸田はパーカッションサポートで出演させてもらってました。
よく見るものから珍しいものまで
たくさんの楽器を使っていたものですから、
「あの曲のあの時に使ってたアレはなんですか」
というお問い合わせを各方面から頂戴してまして。
せっかくなのでパーカッション機材視点から
今回のライブを振り返ろうじゃないかと。
ただ、あまりにも、一回の記事にするには情報量がたくさんだったので、
小出しにして連載という形を取らせていただいております。
気長に読んでもらえたら嬉しいです。
ちなみに前回の記事がこちら。
さて、第2回の今回は
「狐の嫁入りスペシャル(前編)」
と題してお送りします。
前編ってことは後編もあるってことですね。
1曲だけで記事2回分も使うだなんて、
思い入れが強すぎませんか岸田さん。
いいえいいんです。
なぜならこの曲、今回のライブで使ってる楽器の種類がダントツで多いからです(笑)
「狐の嫁入り」は、私が杉本ラララのライブサポートをさせていただいた初回からずっとご好評をいただいている曲のひとつ。
思い入れもひとしおってもんです。
そしてなんとなんと奇しくも
昨晩、まさにそのライブ映像がリリースとなりました!
是非とも動画と共にこちらの拙文もついでに楽しんでいただきたい次第であります。
専門職以外の人が読んでも面白がってもらえるようになるべく噛み砕いて書くつもりですので、
気軽に気長に読んでもらえたら嬉しいです。
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冒頭はピアノ田中K助氏との完全打ち合わせ無しの即興でのオーバーチュア。
(本来は「序曲」という意味の言葉ですが、導入的なものと思っていただければ)
山のほとりで、午後から日暮れ時へ傾く危うさの中の
木々のざわめき
闇の中からのぞく妖しい光
過ぎゆく風の疾さ
湿気を含んだ草と土の匂い
地を這うなにかの蠢き
そういったものたちのテクスチャーや温度を想像して、
K助さんのピアノとリアルタイムで呼応して、音を混ぜて、
「狐の嫁入り」という作品の世界観に空間を染めあげる2分間。
その際に使っていたものから紹介していきます。
まずは、
セット図でいうと、この辺のやつ。
写真でいうと、この辺のやつ。
アップでもどうぞ。
こういった吊り下げ系のものをセットするスタンド、
シンバル用のブームスタンドをTの字にして使ってもいいんですけど、
岸田はシンバル用ではなく、マイクスタンドをよく使用しています。
なぜならブーム部分(Tの字にした時に横方向になる方の棒)がシンバル用よりも長いから、たくさんあれこれ吊り下げられるのです。
(パーカッショニスト向けのこういったライフハックもこの連載では多々織り交ぜていきたいと思っています)
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まずは1番左にぶら下がってたこちら。
栗系の木の実の殻をたくさん連ねたもの、です。
ラトルとかチャフチャスとかセミーヤとかテージョとか
いろんな呼び方があるみたいですが、
正解は私にもよくわかりません。
なので
「栗系の木の実の殻をたくさん連ねたもの」
と仮に名付けていますが、
全部フルネームで言ったり書いたりするのがめんどくさい時は
「木の実」
と呼んでいます。
シンプルイズザベスト。
とってもわかりやすい。
これでいいじゃないですか。
物の名前というのはあまねく人々の間でその実態がちゃんと認識されてなんぼなのですから。
さて、同じような形状のラトル系のものでも、
素材はいろいろありまして。
木製のもの
樹脂製のもの
アルパカか何かしらの偶蹄類の爪
とかとか、色々と他にも持ってるんですが
木々のざわめきなら断然この木の実の音がぴったりでした。
このトリオ編成でこの曲をレコーディングした時にも、
この木の実を使ったんですが、
その際にスタジオハピネスのレコーディングエンジニアの平野さんから
「こういうのって大体やかましいのが多いけど、コレは品のあるいい音がするね」
と言っていただいた逸品です。
メジャーシーンで活躍する名だたる数々のパーカッショニストたちとお仕事されてきた平野さんからそう言ってもらえるなんて…!
平野さんをはじめ、第一線でお仕事されてるエンジニアの方って、
パーカッショニストよりもパーカッションの音の美味しい部分をよく分かってらっしゃるんですよね。
なぜならパーカッショニストは自分の音のことはよく知ってても、
自分以外のパーカッショニストの音はローディー(いわゆる「付き人」的な人のことです)で長期間貼り付いてずっと聴き続けるとかじゃない限り、
なかなか自分の音と同じレベルで掘り下げるというのは、なかなかそうもいきません。
でもエンジニアさんは、常日頃から数々のミュージシャンの音と向き合い続けているから、
我々なんかよりも遥かにずっとずっと耳の経験値が高いはずなんです。
そんな方から「いい音だね」ってお褒めいただいた日には、それはもう。それはもう。この嬉しさたるや。伝われ。
今でも思い返してグッときています。
ラトル系の楽器って、やかましいと距離感が近くて現実的な感じがするんです。あえてそれを狙う時もあるんですけど。
今回は遠くから鳴ってるミステリアスさを出したかったのでコレをチョイスしました。
上についてるドリームキャッチャーの網っぽい部分も音のミステリアスさに拍車をかけてくれているような気がします。
何より、ここを持つと操作しやすいです。(一気に現実的)
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さてお次はこちら。
これも名前があってないようなものといいますか。
元々は「フィンガーシンバル」と呼ばれるものを片手で撫でるだけで鳴らせるように4つを結んで連結させたものです。
フィンガーシンバルは本来はベリーダンスなどで使われていたものです。
興味と時間がある方向けにWikipediaのリンクを貼っておきますね。
ちなみに連結させる前のものは、
みんな大好きサウンドハウスのウェブサイトで
「スズキ フィンガーシンバル」
と検索すれば買えます。
楽器にしてはかなりのお手頃なお値段なのでやってみたい方はぜひ。
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次は、これとこれ。
ビジュアルは少々違いますが、
どちらも「ティンシャ」と呼ばれるチベット密教の仏具です。
なので「チベタンベル」とも呼ばれることもあります。
ちょっとディープめな民族雑貨屋さんとかにたまーに置いてたりします。
写真左側のはそういう感じのお店で買いました。
一方、写真右側のかっこいい龍が彫られてるやつは、
京都が誇る民族楽器店「コイズミ」さんで買ったものです。
打楽器好きな方は京都観光の際には是非お立ち寄りください。
コイズミさんの向かい側には本能寺がしれっとあったりします。
さて、このティンシャ、本来は紐で繋がった2つのベルを互いに当てる形で鳴らすのですが、私は下の写真のようにくるくるくるっと巻きつけて吊り下げています。
こうするとベル部分同士や紐が干渉することなく一つ一つのベルが独立して吊るされる形になります。
それを真鍮製のマレットやトライアングル用のバチを使って演奏します。今回はトライアングル用のバチを使用しました。
バチを使うと手先の延長線の感覚で操作できるので、ベル同士をぶつけるよりも、さらに繊細な演奏が可能になります。
さて、そんなティンシャ。
「部屋の四隅で鳴らすとその場が浄化される」
なんてちょっとスピリチュアル感のある売り文句が謳われているのですが
残念ながら鳴らし続けてるはずの岸田自身はずっと煩悩の塊のままです。
だからこそ綺麗なものへの憧れはやまないし、
だからこそ出せる音があるんだ。
浄化なんてされてたまるか。
とすら思っています。
…そりゃそんなこと言ってたら浄化されるものもされませんね。
きっとあれです。浄化とかそういうのは鳴らす人の心の持ちようひとつなんでしょう。知らんけど。
分かってることはただひとつ。
ティンシャ、めっちゃ綺麗な音がします。
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吊り下げモノ、最右翼にはこちら。
一般的にはピンチャイムと呼ばれるものですが、
こちらはマイネルって打楽器メーカーから「ペグチャイム」という名称で販売されてます。
ピンチャイム系では今のところ私が見た中ではこいつが1番音がでかい気がする。
元々はピアノのチューニングピン(弦を巻き付けるピン)を使ってたのがはじまりみたいですが、世界で1番最初にそれを吊り下げてチャイムにしてみようと試した人、どうかしてるなぁと思います。(ほめてる)
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さて、吊り下げ系は終わりましたが。
まだまだ楽器、あります。
次は手に持つ系。
手荷物系じゃなくて。
手に持つ系です。
こちら。スレイベルです。
アルファベットで書くと
Sleigh Bell
直訳するとその名の通り、そりの鈴の音を模しています。
ボブスレーのスレーね。
そう思うとボブって一体なんなんでしょうね。
脱線しそうだから掘り下げないでおきます。
クリスマスシーズンだけでこの楽器、毎年通算何回鳴らされるのでしょう。
ジングルベルだとかマライヤキャリーのアレとか考えると天文学的な数字になりそうです。
ただ今回使ってるこのスレイベル。
クリスマスのそりの鈴というよりも、
むしろ神楽鈴(かぐらすず)に近い音がして、
邦楽器とのアンサンブルの現場でも大変重宝しています。
ちなみに神楽鈴はこんなの。
今回使ってたスレイベルは、playwoodという打楽器メーカーから出てるもので、
めっちゃ昔に買ったやつだから型番とかは思い出せないんですが、多分これです。
同じのが欲しいって思った方は検討してみてください。
今回使ってたスレイベルも神楽鈴も、おそらく素材に真鍮が使われているからでしょうか、一般的なスチール製とは全く音色が違うんですよね。
和モノテイストあふれる「狐の嫁入り」にはぴったりの鈴。
鈴の数も比較的少なくてアコースティック現場にはちょうどいいスケール感です。
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シェイカー。
私の使用するカホンメーカーの遼天製です。
外側の木はたしかメイプルだったかな。
中身は散弾銃の弾丸、鉛の粒が入っています。
世界で1番ピースフルな散弾銃の弾丸の使い方は「シェイカーの中に詰める」です。覚えておきましょう。
サイズの割になかなかの爆音が出ます。だって鉛だもの。
私が遼天さんにワガママ言いまくって、
試行錯誤の末に抜群の操作性に仕上げてもらったので、
軽やかな音も粘っこい音も自由自在です。
ただこの曲では全然特殊な操作はしてません。
美味しい白ごはんのような、おかずを引き立てる16分の刻みを心がけていました。実はこれが1番難しいのよ。
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まだ1番Aメロまでで使ってるものまでしか解説できてませんが、
流石にもう4000文字を超えてきたのでこの辺りでとどめておきます。
残りは後編にて。
みんな大好き、1番サビ明けの間奏部分で使うあれこれについてはそちらでたっぷりとお送りします。お楽しみに。