海がきこえる、続編まで再読
先日、「海がきこえる」の続編である「海がきこえる2 アイがあるから」を読んだので、若い時分に読んだ感想との差分などを記事にしてみようかなと思う。
本編とは違って、家庭内の不和・不妊症・不倫といったテーマが出てくるのも大きな違いだ。続編はジブリアニメ化されていない訳だが、内容的にもアニメーションでの表現には適さないかもなぁ…と思う(なので、こういうテーマ苦手な方は、本記事は読まない方が良いかなと)
ヒロイン(里伽子)の家庭の問題
(前の記事では言及していなかったが)海がきこえる本編にて、里伽子の両親は離婚し、母親に連れられて主人公(杜崎 拓)の通う高校に転校していた。本編では、両親の離婚原因は父親の浮気である…と触れる程度の記述であったが、続編では離婚に至る背景が詳しく描写される。
里伽子の両親は学生時代から付き合っていて、卒業後、里伽子の母親が妊娠したことを契機に両親は結婚することになった。いわゆるデキ婚であるが、そもそも結婚のスタート地点で両家が不仲であったことが示唆されている。父方の両親は、のっけから「足腰の強い田舎娘に捕まった」みたいな態度だし、母方の両親は果樹園を所持しているプライドがあり、双方歩み寄る気が無い状態であった。
最初からこの調子だと、結婚生活や親戚付き合いが上手く行くはずもなく…というのが実際の離婚理由かなと、既婚者となった今ならそう思える。
不妊症と経済的な疲弊
若い頃読んだときは気にしていなかった(気付かなかった)が、海が聞こえる2では、不妊治療に関するシビアな描写がある。
津村 知沙(主人公の大学の先輩)は、サラリーマン(大沢氏)と不倫関係にあったのだが、大沢氏の奥さん(みのりさん)が不妊治療中であることが描かれている。
また、みのりさんは自然妊娠が困難で体外受精等の高度不妊治療を受けていることや、大沢家の経済的な疲弊なども、それとなく示唆されている(大沢氏を見かけた里伽子は、下記のように評している)
「だって、あの男の人、そんなにお金ありそうじゃなかったもん。書類入れの鞄の把手にね、夕刊紙まるめて、突っ込んであったのよ」(海がきこえる2 第四章より)
作品内で、大沢夫妻の年齢は20代後半~30歳くらいという描写があるので、一般的な会社員家庭にとっては高度不妊治療は相当の負担があるはずであり、みのりさんの両親が孫を切望しているという点も読んでて痛々しくなるところである…
作中では、みのりさんは大沢氏に対して、恋人のように甘えた振る舞いをしている。大沢氏と津村 知沙のことを知らないからこその態度のように思えるが、もし知っていた上で甘えたような態度をとっているのだとしたら…と考えると少しぞっとする話でもある。
主人公と周りの大人達
本編でも杜崎 拓は、真っ直ぐな(悪く言えば頑固な)性格の人物として描かれている。また、続編では、里伽子だけを想い、里伽子のためだけに怒ることの出来る人間として成長をしている。
それと比較して周りの大人達は、男も女もだらしない…という印象を(若干ながら)与える。
主人公と里伽子は付き合う前の「なんとなくいい雰囲気」になるところで、作品は終了する。その後、杜崎 拓は真っ直ぐな人間で居続けられるのか、「周りの大人達」のようなスレた側面が出てきてしまうのか、それは読者の想像にゆだねられているように思える。。