キラキラ女子による文化浄化運動:ダンゴムシたちの敗走劇
ガード下や横丁は、かつてジメジメとした闇の中で培われたおじさん文化の聖域であった訳だ。しかし、そこに突如としてキラキラ女子が現れ始める。彼女たちはSNS映えとやらを求めて、おじさん達の隠れ家を「発掘」し、まるでリノベーション物件でも手掛けるような軽いノリで界隈を明るくしていく。気付けば、地元の人間が日常的に集まる「安酒場」は、妙に小洒落た名前を付けられ、値段も跳ね上がり、客層も変わる。こうして、小汚いおじさん達の居場所は徐々に失われていく訳だ。
そして、問題はおじさん達が耐えられないのは、キラキラ女子そのものではなく、それを追いかけてやって来る捕食者の方だ。いわば、陽の光を求める生物が闖入してくることで、ダンゴムシが裏返されたような状況になる。陽の光に晒されるのは居心地が悪いし、そもそも眩しすぎて耐えられない。結果、彼らは新たなジメジメゾーンを探して移住するしかなくなる。
これは単なる居酒屋の話に留まらない。文化や空間というのは、適度な湿度と陰影が必要だ。だが、「明るい」ことや「華やか」なことが正義とされる風潮は、それらを平気で破壊してしまう。キラキラ女子と捕食者による「文化浄化運動」は、最終的にはその場を一時的に盛り上げるかもしれないが、過剰な陽光は植物を枯らすように、場所そのものを死に追いやるのだ。
結局、かつての居酒屋を支えたおじさん達は、また新たなガード下に集い、新たな陰を作り出すだろう。それを再びキラキラ女子が追いかけるまで、彼らの文化は息を吹き返す。そしてこの循環が終わることはないだろう。ただし、一つだけ確実なのは、石をひっくり返される度に、ダンゴムシたちは少しずつ生きる場所を失っていくということだ。