AIシェフの奴隷になる日
冷蔵庫を開ける。中には、鶏もも肉、キャベツ、卵、そして賞味期限がギリギリのヨーグルト。ここから何を作るか? そんな面倒なことを考えるのは、もはや人間の仕事ではないらしい。俺はChatGPTに向かって、淡々と食材を打ち込む。「お、いいですね! では、こんな料理はいかがでしょうか?」と、ご丁寧に献立を提案してくれる。
「鶏もも肉のガーリック炒め、キャベツのマリネ、ヨーグルトドレッシングのサラダ、そしてシンプルな卵スープ!」
すげぇな。俺より頭が回るじゃねえか。まるで、俺が何も考えなくても生きていけるように仕向けられているみたいだ。もはや、人間の尊厳とは一体何なのか? 「今日の飯は何にしよう?」という哲学的な命題さえ、もはやAIに丸投げする時代になったらしい。
昔の人間は、狩猟し、農業をし、食材を集め、自分の舌と知恵で食事を決めていた。それが進化し、スーパーで食材を買い、レシピ本を見て料理をする時代が来た。そして今や、ChatGPTに聞いて言われた通りに包丁を動かすだけ。いっそ、俺の手も動かしてくれよって話だ。
調理の途中で、「キャベツの千切りが面倒だな」と思うと、「千切りにする際は、まず芯を取り除いてから葉を重ね、丸めて細く切ると良いですよ!」と、まるで小姑のように的確なアドバイスをしてくれる。お前は俺の母親か? いや、母親より優秀だな。母親なら「そんなの自分で考えなさい!」と一蹴するところだが、ChatGPTは決して怒らない。優しい。冷静。機械のように、機械的だ。
料理が完成すると、まるで自分が料理上手になったかのような錯覚に陥る。「俺、天才か?」いや違う。俺はただ、AIの言いなりになっているだけの無能だ。AIに指示され、AIに褒められ、AIに慰められる。これが未来の料理なのか。そうか、じゃあもう料理番組も料理本もいらないな。シェフなんて職業も、遠からず消えるかもしれない。
食べ終わって、ふと我に返る。俺は何をしているのだろう? いや、何もしていないのかもしれない。考えることを放棄し、創意工夫も捨て、ただAIの言葉に従って手を動かしていただけだ。もし、このまま何年も続けたら? 俺は料理どころか、生活すらAIの指示がないと動けない人間になるんじゃないか? いや、もうすでにそうなっているのかもしれないな。
そういえば、「余ったヨーグルトはどうする?」と聞いたら、「フルーツと混ぜてデザートにしても良いですし、ドレッシングにしても使えますよ!」と満面の笑み(AIに表情はないが、そう言いたげな返答)で答えやがった。わかったよ。じゃあ、次は俺の人生の献立も考えてくれよ。俺は何をすればいい? 何を食べ、何をして生きればいい? どうせ、お前の方が俺よりよく知ってるんだろ?
最高だな、AIシェフ。これで俺は、考えなくても生きていける。だが、一つだけ教えてくれ。俺は本当に、生きていると言えるのか?